第39話:忙しい状況
イヴの目の前に汁椀を置き、
「プリーズ、イート。ディス・レッドフィッシュ・イズ・ツナ。ベリー・ベリー・デリシャス (食べて下さい。赤い魚はマグロです。とってもとっても美味しいよ)」
イヴはMeowと鳴き、汁椀に鼻を近付ける。
恐る恐るマグロの赤身をペロリと舐め、気に入ったのかバクバクと食べはじめた。
「良かった~、食べてくれたよ。弁天・・・。あれ?いない・・・。うわっ!」
結城は驚く。
弁天が結城の右肩に乗って、一緒にイヴが食べるのを見ていたからだ。
《あれ?今、全然弁天の重さが、気にならなかったんだけど・・・。弁天、いつの間に・・・。はっ!》
気付いた瞬間に、弁天の体重が結城に載し掛かる。
《重っ》
存在を知られた弁天が、照れて結城に微笑む。
猫が微笑むってのも変な話だが、結城には微笑んだ様に見えた。
右肩の弁天をひょいと捕まえ、腕の中に抱く。
思わず漏らした。
「なぁ、早く事件解決すりゃいいな。でも、そうなったら、弁天、お前どうなんだろ・・・」
すると弁天は少し悲しげに目を伏せ、結城の顔を舐める。
《くすぐったいよ、お前》
刹那、静かに弁天が右前足を結城の額に当て・・・。、
《えっ?コレって、前に・・・。あっ!》
結城の脳にノイズ混じりの言葉が流れ込む。
《イ・イ・・・、・タイ・・・。ココ・イタ・・・・。ア・タノソ・ニ・・・イ・・・》
結城は驚き、弁天を落とす。
《ま、まただ。何なんだ、あれ?》
確かめようと弁天をもう一度抱き、弁天の前右前足を掴むと自身の額に当てる。
《ん?あれ?何も・・・、無い?》
弁天はふわぁっと欠伸をすると、するりと結城の腕の中から落ちる。
弁天は声高ににゃーんと鳴き、ソファーに登るとそのまま寝入ってしまった。
片やイヴは汁椀の猫餌を全部平らげ、満足そうに顔を洗う。
結城はイヴの前に屈み込み、
「なぁ、イヴ。さっきの何だったんだろ?」
イヴは首を傾げる。
満足して興味が無くなったのか、Meowと鳴きキャシーの待つ寝室に戻って行った。
《あーぁ、味噌汁すっかり冷めてしまったな。温めて食べ直さなきゃ・・・
》
忙しいというのは、こんな状況をいうのだろう。
コンロの前に立ち、シジミの味噌汁を温め直していると、背後に気配を感じる。
振り返ると今度はキャシーが居て、
「Mina, I'm hungry,too. Could you cook some? (ミナ、アタシもお腹空いた。何か作ってくれるわよね?)」
色っぽくしなだりかかり、結城にせがむのだった。
《えー、お腹空いたって?とほほ、しょうがない。マグロ切り分けるか・・・》
結城はソファーを指差し、
「キャシー、ウェイト・ゼア (キャシー、そこで待ってて)」
キャシーはYeahと返事し、冷蔵庫を開ける。
《おい・・・。ボクは待っててって言ったのに・・・。あっ、手に持ってるのボクのビール。ダメって・・・、言えないよな》
キャシーはもう一缶取り出すと、プシュっと小気味の良い音を発てビールを開ける。
結城に差し出し、
「You,too. (アナタも)」
《酒盛り付き合えって・・・。仕方無い、飲むのは嫌いじゃないし・・・。折角の機会だ、色々聞いてみよう》
キャシーが来日して二日目の夜は、こうして深けていくのだった。




