第三話 調整ミスか、選ばれし者か
やっぱり、何をするにも金だ。
衰弱デバフでステータスが半減している今、無理に戦うのは自殺行為。
私はギルドの依頼ボードを眺めながら、小さく息を吐いた。
「……納品系が無難か」
視線が止まる。
<暗黒玉石の納品>
さっきシャドウウルフから拾ったやつだ。
まさか、あれか?
私はカウンターへ向かった。
「ねえ、おっちゃん。この暗黒玉石の納品クエスト、受けたいんだけど」
受付の中年悪魔が鼻で笑う。
「暗黒玉石? あれはな、そう簡単に手に入るもんじゃ——」
私はインベントリを開き、玉石を取り出した。
黒紫に脈打つ、禍々しい鉱石。
空気が一瞬、ひやりと冷える。
「……持ってますけど」
沈黙。
「……は?」
受付の顔色が変わる。
「お前、どこで手に入れた?」
「シャドウウルフから」
「嘘つけ。あれは低確率レアだ。しかもドロップ率は——」
言葉が止まる。
私のステータスウィンドウを覗き込み、固まった。
「レベル……2?」
空気が変わる。
「……まあいい。依頼達成だ」
報酬ウィンドウが展開された瞬間。
<依頼達成しました>
<レベルアップしました>
<ステータスポイント48を割り振ってください>
「……は?」
一瞬、表示バグかと思った。
48?
視界が点滅する。
ステータスが書き換わっていく。
ナーシャ
Lv:16
私は言葉を失った。
「……は?」
たった一回の納品で。
レベル16。
受付も明らかに動揺している。
「……お前、何かやったか?」
「何も」
本当に何も。
ただ、解体技術でドロップ率が上がり。
レアを引き。
納品しただけ。
それだけで。
Lv16。
これは。
“おいしすぎる”。
⸻
ポイントを魔力へ全振りする。
体の奥から魔力が溢れ出す感覚。
数値が跳ね上がる。
さらに。
スキルが自動更新された。
解体技術Lv1 → 10
闇魔法Lv1 → 10
古代魔法Lv1 → 3
古代魔法だけ伸びが鈍い。
明らかに必要経験値が異常。
つまり。
これは“本物”。
育てば化ける。
その時。
世界が震えた。
<称号:魔道先駆者を獲得しました>
空間に魔法陣が浮かび上がる。
周囲のNPCが一斉にこちらを見る。
<称号効果:MP最大値、消費が5倍になります>
……待て。
「増えるのも5倍、減るのも5倍?」
つまり。
一撃の威力も桁違いになる、ということだ。
古代魔法と噛み合えば——
爆弾だ。
完全に。
そして。
<上位ジョブへの条件を満たしました>
空気が凍る。
受付が椅子から立ち上がった。
「なっ……」
上位ジョブ。
β最速到達が一週間。
それを、数時間。
確実におかしい。
バグか?
調整ミスか?
それとも。
魔族スタート特典か。
選択肢は一つ。
「転職する」
光が弾ける。
小悪魔の翼が、大きく変貌する。
角が伸びる。
魔力が奔流のように溢れる。
ナーシャ
職業:悪魔
筋力 +5
体力 +5
耐性 +5
敏捷 +10
魔力 +40
魔耐 +30
運 -8
代償は運。
だが構わない。
魔力143。
化け物だ。
<スキル:ファミリア召喚を習得しました>
胸が高鳴る。
ファミリア。
従魔。
画面に候補が並ぶ。
ゴブリン。
オーク。
スケルトン。
却下。
却下。
却下。
そして。
ケットシー。
二足歩行の猫妖精。
ふわふわ。
可愛い。
しかも戦闘補助型。
即決。
<ファミリア召喚:ケットシーに決定しますか?>
YESを強く押す。
決定。
胸が弾む。
私は思わず笑った。
「やばい、勝ち組じゃね?」
とりあえずヒューガだ。
<ヒューガにウィスパー接続>
「あん? いま狩り中なんだが」
「落ち着いて聞け」
「おう」
「上位ジョブになった」
沈黙。
「……は?」
「悪魔」
「はあああ!? 早すぎるだろ!!」
「あと、猫召喚できる」
「は?」
「猫」
「……とりあえずセントラル来い。噴水な。今すぐだ」
「了解」
ウィスパー終了。
私は深呼吸する。
魔族都市で。
レベル16。
上位ジョブ。
猫召喚持ち。
間違いなく。
今この瞬間、サーバー最前線。
「さて」
私は指を鳴らした。
「出ておいで、ケットシー」
魔法陣が展開される。
光が弾ける。
そして。
白い尻尾が、ゆらりと揺れた。




