ラブレターは波紋を呼ぶ
「あれ、仲直りしたの?」
走ってどうにか間に合い、息を整えていたところで、キースが話しかけてきた。
その言葉に、思わずマリエとアベルは顔を見合わせる。
「まあ……シェリアとレンの延長だっただけだからな」
「あーなるほど。あの二人はまだ色々と大変そうだからなあ」
マリエが答えに困っていたら、アベルがさらりとそういって流した。
確かにそういう部分もあるので、マリエも合わせて頷く。
騎馬槍術の授業中も、普通に三人で会話は成り立っており、ヴェラの話を持ち出しさえしなければ、案外普通に話せるものだと、マリエは少しだけほっとした。
それに、マリエが迷惑だと言った件に関しても、アベルは対して気にしてはいないだろう。
「そういえば……シェリアとレンは、剣技応用だけど……」
「シェリアは、男子を味方に付けたみたいよ」
キースが言いかけた言葉の意味を察して、マリエはため息を軽くつきながら、言う。
「どうしてシェリアはあんなにレンを?」
「……ちょっと誤解が生じてるのよ」
「? 知ってたのか?」
キースの問いに、あっさりと答えれば、アベルが驚いたように問い返してきた。
その様子だと、アベルは事の詳細をレンから聞いているのだろう。
「さっき聞いたわ。でも……レンは私に頼まなかったから、私は手は出さないつもりよ」
それはレンと話していた時に決めたことだった。
レンが少しでもマリエに頼ろうとするならば、マリエは力を貸そうと思ったが、レンには全くそういうそぶりは見受けられなかった。
レンはきっと自分でどうにかしたいのだろう。
そして、そういうところはシェリアとよく似ていて、他人が手を出すと、余計にこじれてしまうようなものなのだ。
「誤解ってさ、まさか……ターシャ絡み?」
「え? どうして……?」
「いや、俺もその場にいたから。レンと俺とターシャの三人でいたんだ。ターシャは気づいてなかったけど、俺たち二人からはシェリアが見えたから」
さきほどレンが言わなかったのは、シェリアの誤解には関係ないからなのだろうが、そういえば、シェリアがキースとも話していなかったのは、そういうことなのだろうか。
「うまく行けばいいけどな」
アベルがぽつりとつぶやく。
「……そうね。学校中が大騒ぎになりそうだけど」
黒髪の美形二人が並ぶ図を想像して、それがあまりにもお互いに似合いすぎていて、マリエはそんなことを考えた。
でも、おそらく、どんなに周りが大騒ぎしても、二人は負けないだろう。
あの二人がタッグを組めば、何ものも怖くないような無敵さがある。
「……あっちも、うまく行けばいいけどな……」
アベルがぽつりとつぶやいた言葉は、マリエの耳に届くことはなく、ただ、虚空へと
消えたのだった。
どうにか剣技応用の時間を乗り切ったシェリアは、急いでその場を離れた。
この時間はシェリアにとっては最悪だった。
なにせレンもターシャもいて、助けてくれるマリエはいないのだ。
ターシャとは、授業が同じになればそれなりに話すように心がけていたが、この時間は、どちらにも近づかない。
それに今日は手紙のこともある。
そちらの返事を書くか、それとも直接言うかで悩んでいるため、とりあえず、渡す渡さないは無視して、返事を書いてしまおうと思ったのだ。
時間帯的に人が少なそうな棟の三階で、カバンから例の手紙を取り出す。
マリエにも手紙について話していないため、寮の部屋では書けないのだ。
シェリアはためいきをついて、手紙を広げる。
剣技応用で運動してあついため、廊下側の窓を開け、その窓枠に肘をおき、窓の外側を向きながら手紙をもう一度読んだ。
親愛なるシェリア・リエーソンへ
こういうとき、僕は何から書き始めるべきなのだろうね? いやはや、十二年も生きていながら、僕は私用で手紙を書くなんて初めてなんだ。
しかし、そこは伯爵家に育ったものとして、君が読むのに苦にならない程度の文章を書けるのだと宣言しておこう。安心してこの先をよんでくれ。
前置きが長くなってしまった。
いや、もしかすると短いのかもしれない。
僕が今日、わざわざ君に手紙を書いたのは、言うまでもない。
僕は君に恋をしてしまったらしいのだ。
学業ではいつも首位を保ち、武道においても君は優秀な生徒だ。
そして、また、僕も、君に学業こそ劣るが優秀ではある。そして、リエーソン家より、我がホーンテッド家の方が力もある。
さらに君のその美しさ。シネラリアの女神という呼び名が何よりも相応しい君は、僕の相手に何一つ不足などないのだ。
ホーンテッドに及ばないと言え、リエーソンは素晴らしい家だ。何より爵位も互いに見合い、僕たちは素晴らしいパートナーとなるだろう。
そう、互いが互いに相応しい。
それに加えて、愛情も伴うとなれば、これ以上のことはないではないか?
君は何を取ってみても僕に相応しい。
そして僕は君を求めている。
返事はまた手紙で書いてくれればいい。
君の生真面目さからして、こういう話は卒業の後でいいと言うかもしれない。
しかし、婚約と言う形だけは、卒業前に整えておいても僕は一向にかまわないと思っているんだよ。
ホーンテッドとリエーソンの繁栄のためにも、僕たちの婚約には意義がある。
賢くて聡明な君は、迷うことなく僕の手をとるだろう。
しかし僕は待つとしよう。
世の恋人には、そういう段階を踏むことが、必要とされるらしいから。
返事はすぐにでもしてくれると嬉しい。
僕は家に話を通して、婚約を発表する準備をしなければならないのだ。そのためには、どうしても早い返事が欲しい。
君の心の準備を悠長には待ってはいられない事情がこちらにはある。
なに、もちろん君には手間をかけない。
これは男の仕事だろう。なにより、この僕が惚れたんだ。
僕が準備をしてしかるべきだと、当然思っているよ。
僕の書きたいことは以上だ。
では、早い対応を願っている。
君の未来の夫 ダンテ・ホーンテッドより
シェリアは手紙を折りたたみながら、ため息をついた。
何がどうしたらこんな手紙が送られてきてしまうことになっているのだろうか。
そもそもあのダンテが、シェリアを好いているというのが嘘くさい。
それにこの文面からして、本人は本気なのかもしれないが、これはシェリア個人を好き、というよりは、シェリアの能力を買って出ているだけに思える。
確かに家の家格はつりあいがとれるような気もするが、ホーンテッド家はかなりルミエハ寄りだ。
リエーソン家は中立であるから、ホーンテッド家当主がいい顔をするとも思えない。
そもそも賢くて聡明だから、ダンテを選ぶ、というのがシェリアには理解しがたかった。
ただ、あの男はどうにもつかめないところがあるので、はっきりと返事をする必要はあるだろう。
「はあ……え、あ、ああ!」
ため息をついて、手紙を封筒に入れようとしたら、誤って落としてしまう。
折りたたんであったから、風に舞うこともなく、ほとんど真下に落ちたように見えた。
「こんなの……誰かに見られたら……!」
何を言われるかわかったものじゃない。
シェリアは人生最速で階段を駆け下りて、手紙が落ちたであろう場所まで走っていく。
手紙が落ちた場所は木と茂みがある場所で、普通に考えれば、その場所にもともといた人でなければ気づきにくいはずだ。
シェリアが走っていくと、木の向こう側に、手が見えた。
体と顔の部分は隠れて見えないが、その手には間違いなく紙が握られており、しかも持ち主を特定するためか、読んでしまっているように見える。
男子だったら、まだ望みはある。
シェリアは自分が頼み込めば、相手が言うことを聞いてくれるだろう、というぐらいには自分に自信があった。
「手紙が落ちてきませんでしたかっ!」
シェリアは誰かを確かめることなく、木の向こう側に回り込み、叫んだ。
今回でてきたダンテの手紙は、
「光の奔走」での手紙と全く同じ内容です。
次回は……わりと恋愛小説っぽいかも?




