屋上5
『単刀直入に聞くと、何故君は嘘を付いた??』
『嘘??何のことかしら??』
彼女は何のためらいも無く
何食わぬ顔でそう言ってきた。
彼女にとっては、全て計算どおりなのだろう。
『鍵のことさ』
『鍵??なんのことか分からないわ』
面白い。
その態度を貫くなら、全て打ち破ってやる。
『では聞くが、どうやって屋上に入ってきたんだ??』
『屋上の扉には鍵がかかってたはずだが??』
『あら。屋上の扉は開いてたわよ??』
クスクスと笑いながら彼女はそう言った。
馬鹿な。
そんな子供のような嘘を何故今付く??
それも何か意図があるのだろうか??
『屋上の扉は安全の為に一般開放されていない』
『扉が開くときは特別な事情がある時か…』
『僕のような不良生徒がいる時だけさ』
『神崎君が閉め忘れただけじゃないのかな??』
彼女はまるで子供を諭すようにそう言った。
『僕は用心深いんだ。鍵を閉め忘れるような馬鹿なマネはしない』
『それに昨日、君は僕に鍵を見せてきたじゃないか』
そう、ここが問題。
何故彼女は屋上の鍵を一度見せているのに嘘を付くのか。
しかもだ、彼女が自主的に僕に見せてきた。
『何のことかしら??』
まるで変わらない態度。
私は嘘を言ってないと言ないばかりに。
『昨日のことも憶えれないぐらい君は記憶力がないのかい??』
『記憶力以前の問題だわ』
『昨日、私が神埼君に鍵を見せたという事実がないのだから』
流石だ。
僕は鍵としか言わなかった。
それに釣られることなく、彼女は鍵と言い切った。
会話の流れを考えれば、屋上の鍵と言っても仕方ないのに。
小細工は通用しないと言うことか。
『なら、身体検査でもしてみる??』
彼女は不気味に笑いながら
僕の瞳を真っ直ぐに見つめた。
『それは遠慮しておくよ』
『あら??それは残念ね』
会話が進まない。
最初の問いがまさかここまでねじれるとは思わなかった。
そもそも質問の意味が全く別の質問になっていた。
僕の質問は何故鍵を持っている??
というような意味だ。
しかし彼女は鍵の存在自体を否定している。
これでは会話内容がスローになるのも仕方ない。
『少し失礼するよ』
僕は一言彼女にそう言うと、屋上の扉を開けようとした。
まずは仮定する。
鍵を彼女が持っていないと。
彼女の『身体検査でもする??』という発言は、仮にそうなっても問題ないというような表れ。
ということは、彼女の元に鍵はない。
あるのは…
内扉だ。
内扉に鍵を挿しっぱなしにすれば、彼女の元に鍵がない理由が付く。
屋上に出る場合は、引き扉になる。
そうなれば僕から見た扉には鍵が挿さっているかどうかは見えない。
帰りは彼女が先頭に立ち出ることになれば、鍵を最小限の動作で回収ができる。
床に置いたり、他の場所に隠すことも考えられるが、回収に問題があるだろう。
それに屋上に入るとき、鍵が開いた音から最短で彼女は入ってきた。
そうなれば、鍵を抜かないというのが一番安全である。
『ガチャ』
扉を開ける。
そこに鍵がかかっていると信じて。
疑いようがない。
『馬鹿な…』
そこには鍵はかかっていなかった…。