屋上4
その数秒は、今まで生きてきた中で最も長い時間だった。
彼女が唇を離すまで、身動きができなくなっていた。
金縛りとは、人間が作り出せるものだと知った。
そう…
思考は全く焦点を得ていなかった。
ただ、驚き。
適当な文字が頭を駆け抜けるだけ。
そして、深い眠りから目覚めたかのような錯覚に陥ったのは彼女の一言だった。
『驚いた!?』
人間、当たり前なことを言われると、口調が強くなる。
例えば腹が鳴っているのに『お腹減った??』
なんて聞かれると
『当たり前だろ!!』と、口調を強めて言いたくなる。
この状況ではまさしくそうだ。
いきなりキスされて驚かない人間の割合は絶対に驚く人間よりもは低い。
『驚いたよ!!』
なんと僕はそれしか言えなかった。
本当は言いたいことが山ほど頭を巡った。
しかし、実際に発した言葉は一番シンプルな言葉。
感情をストレートに表現しただけだった。
何故か…
それは、彼女の行動を理解しようとすることが不可能ではないのか。
そう感じ取ったから。
昨日会った人間にいきなりキスする事が僕にとっては異常。
頭のデータベースをいくら探しても絶対にヒットしない。
その異常を相手に適切な言葉とは何か…
分かるわけがない。
なら、感情をストレートに表現するのが一番だ。
そんな一瞬の判断。
いや、案外それよりも単純な答えかもしれない。
本当に驚いた。
それが本心。
理屈では色々と後付ができるが、感情というのは最短距離。
その最短距離で出た言葉こそ僕の本心。
『ねえ、神崎君…』
彼女はそう言うと、目つきを鋭くしてこう言った。
『言いたいこと…あるんでしょう??』
『キスの話は置いておきましょう』
まるでイタズラが成功した少女のように『クスッ』と笑い、そう言ってきた。
まったく…
完璧に彼女のペースに乗せられてしまった。
これが狙いなのか??
…と、疑心のループを演出しているのではないか??
どれが正解でどれが不正解…
彼女の行動自体に実は深い意味はないのかもしれない。
こうやって、僕が思考の闇に落ちるのが目的だったのかもしれない。
思考がようやく落ち着いてきたのを確認して、僕は反撃に転じることにした。
『そうだね、言いたいことは何点かあるよ…』




