現在10
『君には矛盾点が多い。それを説明させてもらうよ』
『…ええ。聞かせてもらおうかしら』
ゆっくりと視線を彼女に合わせる。
『まずは屋上の一件。君が僕にキスをしたことさ』
そう、あれが不可解すぎる。
一度も男性経験がない女性がいきなりキスなんて大胆なマネをするだろうか??
妹の事が知りたいと必死で思う人間でも、他に気を逸らす方法はなかったのだろうか??
それに今思い返してみれば、あの感覚がおかしかった…。
『君とキスをしたとき、僕はとてつもない幸福感に包まれたんだ』
『何故だか分かるかい??』
そう…、それが一番の決め手…
『君は僕と会う前にマリアを服用していたね!?』
『唾液を伝って、マリアの成分が僕に流れ込んだ…』
『違うかい!?』
人間というのは良くも悪くも過去の記憶は強いイメージ程、憶えているものだ。
それが所謂、トラウマというものになったりする。
もちろん快楽も例外ではない。
『その後の僕の感情の変化もそうさ…。あんなに号泣することなんて生まれて始めてさ』
『感情が一時的に、増大していたんだ。マリアによってね…』
そう、それで辻褄が合うことになる。
不幸中の幸いは、マリアを直接1錠服用しなかったという事か。
それともう一つ…。
『実はこの電子タバコには、とある成分が混ざっていてね…』
『マリアに似た成分。というよりもタバコに入ってるニコチンに近いかな…』
『僕はそれを吸うことによって、マリアへの衝動を打ち消していたんだ…』
『それにマリアを無効化する成分も僅かだが、入っている』
『それだけで意味は分かるよね??』
そう、それがいくつもある保険の一つ。
どんな状況になるか分からない。
普段から解毒剤のようなものを持っておくと、このような場面で非常に有効だ。
『他にも、言いたいことはいっぱいあるが続けて良いかい??』
彼女は無言を貫いた。