屋上3
『ねえ、こんな屋上で何しているの??』
そんなことは決まっている。
君が何故嘘を付いているのか興味があるからだ。
『椎名さん、君こそどうしたんだい??』
向こうのペースに乗せられたら、ダメだ。
常にこちらが主導権を握り、会話をコントロールする。
彼女の頭脳からして、今の僕じゃ彼女が主導権を握った時に反撃できる保証が無い。
『質問を質問で返すのは紳士的じゃないよ』
そう言ってるが口元は『フフ』と笑みをこぼしているように見える。
それは、これからの僕との会話を楽しみにしてるかのように…。
『すまないね。紳士的な教育は受けたことないんだ』
『ええ、構わないわ』
そう彼女は言うと、ゆっくりと僕に近づいてきた。
その動作は、女性と言う言葉が一番適切か。
大和撫子と呼ばれる人間ってこういう人なんだろう。
僕はまるで蛇に睨まれたように体を硬くした。
しかし、その時の感情は嫌悪感ではなく…
幸福
一点を見ていた。
彼女以外を見たくなかった。
ああ、これがこの人の魅力か…。
彼女が距離を詰めるまでの時間、分かっていても彼女の仕草を見逃すことが出来なかった。
『フフ…やっぱり神崎君は紳士だね』
『え!?』
不意の一言に素っ頓狂な声を上げてしまった。
何故その一言なのだろうか??
疑問が頭を駆け巡る。
僕には分からない。
今まで会話したことがある人間のデータにはこんな予測不能の人間はいなかった。
『何でそんなこと言ったのか聞きたそうな顔してるね』
『そうだね…なんでそんなことを言ったんだい??』
会話の主導権は完全に彼女に移っていた。
これが狙いだったのか??
『それはね、会話の主導権を握ることじゃないわ』
まるでこちらの心が読めるかのように、そう釘をさす。
何故なのか…
僕の疑問はいつしかその言葉を知りたがっていた。
『ただ、純粋にそう思っただけよ』
その行動に、理解するのに何秒経ったであろう…。
彼女は一言そう言うと僕の唇にそっと自分の唇を乗せていた。
あまりの突然の出来事でただ、目を開くのがやっとだった。
心臓の音が校舎全体に聞こえるのではないか??
と思えるぐらい、心臓は激しく音を立てていた…。