過去6
そして僕は長い入院生活をすることになった。
一つは怪我の治療。
全治3ヶ月の大怪我だったけど、幸い命に別状は無かった。
発見が早く、すぐに病院へ搬送されたことからギリギリの所で生き延びたらしい。
後遺症も残らないようで、リハビリが終われば日常生活は問題がなく過ごせるらしい。
けど問題なのはもう一つ。
薬の治療。
薬物中毒者ってのは、再犯確率がすごく高いんだ。
どうしても我慢ができなくなる。
僕も例外ではなかったさ。
意識がある内は【マリア】を欲した。
体が、思考が、全て【マリア】を考えていたんだ。
しかし僕にはもう一つの思考も生まれていたんだ。
(僕は【マリア】の存在で全てを失ったんだ。何故そんな物を求めるんだ!!)
まるで天使と悪魔のささやきさ。
【マリア】を考える思考と
【マリア】を考えない思考
二つの相反した思考が僕の脳裏で激突していた。
欲望を無理やり抑え込む。
簡単なようで、とても難しい。
しかし、僕は様々なことを考えながらその欲望に打ち勝ったんだ。
『その考えていたことって…??』
今まで黙って話を聞いてた彼女が突然、言葉を発した。
それは彼女にとって気になる言葉だったのだろう…。
『復讐さ…』
『…』
また、空気が重くなる。
彼女の額には汗が先ほどよりも多く浮いていた。
『別にあいつらを全員殺してやろうなんて思ってないさ…』
『全員、監獄の中へぶち込んでやるのさ!!』
『やっぱり、あなたは紳士だわ』
話の続きをしよう…
そう、僕は復讐のために薬物と戦った。
結果は、1年で病院のご飯を食うことは無くなったさ。
入院中はあらゆる勉強をした。
体も鍛えた。
誰にも負けないように、己を鍛え続けた。
退院してからも僕はストイックに自分を鍛えた。
薬に負けない強い精神力を得るために、山に篭ったりもしたさ。
…今考えると、山篭りなんて古い考えだったね。
そして事故から2年経ち、この学園に入園したんだ。
この学園に入園した理由はね…
この学園は【NG】との関わりがあるらしい。
そんな情報を得ることができた。
僕は藁にすがる思いでこの学園に入園したんだ。
それから1年と2ヶ月、僕は自分の足を使い情報を集めた。
そして、今は【NC】のメンバーになるまで、情報を集めることができた。
これから大変だ!!って時に君が現れたんだ…。
『そう…大変な過去だったわね…』
彼女は今にも泣きそうな表情になっていた…。
僕はその表情を見て、どうしたら良いか分からなくなっていた。
昨日まで話したことがない赤の他人の話を聞いて何故彼女は泣けるのか??
僕には理解できなかった。
『別に同情を誘うつもりで話たんじゃないよ…』
僕がそう言った瞬間に、彼女は僕を優しく抱きしめていた。
『今だけは、素直になっても良いのよ』
僕はその言葉を聞いた瞬間、涙があふれてきた。
昨日まで赤の他人だった女性に、僕は全てを話し、今、感情をぶつけている。
不思議だった…。
ただ、とても心地が良かった。
今は、ただ素直に涙を流そう…。