19 デートのなんたるかを
「配信用の脚本ですか? 作ったことはないです」
ゲリラ配信の撮影場所を探して街を移動中、何やら配信に一家言ありそうなアダムに尋ねられてルイスは素直にそう答えた。
途端、アダムは眉をしかめて「いけません」と首を振った。
「危ないですよ、それは。ライブだからと言って無計画にあるがままを映し出しているだけでは、視聴者の満足は得られません。配信のアクセントとなるメリハリ、次回への引きがなければ継続視聴への動機づけが薄れていきます」
「そうは言っても、もともとのコンセプトは『第一騎士団の日常』であって、謎と神秘に包まれた第一騎士団の飾らない姿を見ていただこうという……」
言いかけて、ルイスは口をつぐむ。
(そうだ、すっかり気持ちが馴染んでいたけど飾らない姿どころか「レインくん」の存在がやらせだった……!)
当初から視聴者の気持ちを邪魔しない「若手騎士」を混ぜ込んで、先輩騎士に受け入れられていく過程や切磋琢磨を楽しんでいいただこうという目論見はあったのである。
しかし、そこは素人の集団。レインくんとの掛け合いがあるだけで、普段の騎士団とは違う光景が撮れていると満足しかけている空気があった。
指摘されて、ルイスは自分の計画がいかに「ふわふわ」とした浅はかなものであったか唐突に理解してしまったのであった。
「たしかに、危ないですね。チャンネル登録数が上昇し課金もいただいていたので危機感が薄かったですが、いま僕たちが争っている相手は『見世物』としての見せ方に精通したプロの劇団や音楽団ですからね! 単純に考えても楽団は『セトリ』を練っているわけですし、劇団だって脚本があります。時間目一杯使ってきちんと視聴者を楽しませようと準備しているわけで、僕たちもなんとなく~こういう感じで~絵になる男性が画面に映っていれば~と言っている場合ではないですね!」
第一騎士団は素材が良い。どこを切り取っても絵になる男性ばかりであったため、そこに寄りかかり過ぎていたと、ルイスは反省する。
「その通りです! 撮りたいストーリーラインがあるならメモ程度でも事前に流れを書き留めておいたほうがいいです! 配信中に何も思いつかなくなったり、時間稼ぎをしたりという情けない姿を視聴者にお見せするわけにはいきませんからね!」
「はい! わかりました!」
アダムに力強く言われて、ルイスも勢いで返事をした。アダムは「よろしい」と教師のように言って表情を引き締めて切り出してくる。
「では早速、今日のゲリラ配信でも作戦を練ったほうがいいですね。どこで視聴者の気持ちをぐっとひきつけるか? 作戦はどうなっていますか」
流れるように問いかけられて、ルイスは聞いてくださいとばかりに身を乗り出した。
「それなんですけど、最初は『デート風景』で考えていたんですよ。僕とランドルフ様で視聴者がデートしている体験ができそうな配信を……ええと、いま僕の言っていること通じます?」
あー、うーん、と考えるような顔になってしまったアダムを見て不安になり、ルイスは「つまりですね」となんとか説明を続けようとする。すかさず、アダムがずばっと断言した。
「手ぬるいです。デート風景とは? そもそもレインくんは、デートのなんたるかをご存知なんですか?」
「デートの……!? なんたるかを……!?」
「そうです、デートのなんたるかをです! 具体的に、レインくんはこれまで生きてきて何度くらい、どんなデートをしてきたんですか?」
「……!!」
一度もない。
(どうしよう。男女交際に関する知識といえば、五歳児が寝物語に聞いた童話あたりから全然更新されていない)
さすがにその頃は子どもらしい物語に親しんでいたはずだが、その手の童話はだいたい王子様と出会うと結婚する。愛を深める過程やデートについては何も教えてくれなかったはずだ。
自分で読み書きができるようになると、ルイスはフィリスの仕事ぶりに憧れて母の本棚から「経済」「交易」「算術」などと書かれたものを読むようになり、おませさんねと言われてむふぅと得意げになっていた。恋物語からは加速度的に遠ざかってきた。いまも遠く彼方にいる。
「デート……? そういえば僕はなんの疑いもなくデート風景をカップル配信なんて言っていたけど自分がこれまで生きてきてデートなんか一度もしたことないのに? なんでぶっつけ本番でできるなんて思っちゃったんだ? しかもみんなに見せて課金までいただこうというたいそうなデートを? 練習しないで舞台に立つ役者なんて役者の風上にも置けないだろうに。僕は配信者の風上にも置けない……!!」
落ち込んでぶつぶつと言い出したルイスに、アダムはにやっと笑って「いい考えがありますので、ちょっとお耳を貸してください」と言った。
暑い!!いつの間にか真夏になっていますね!!
みなさま体調お気をつけてなんとか夏を乗り越えてください!!




