第19話 帰還
今回は結構短めです。
「因幡、僕達は一旦帰るけど、いいよね?」
「構わないわよ。 ただ、夜にはちゃんとここへ戻ってきて頂戴ね」
「ん。 ...じゃあみんな帰ろうか」
先ほど電話で、葉加瀬から『やらなければならないことがある』と伝えられた。 内容は教えてくれなかったが、多分それなりのことがあったに違いない。 幸い時間もあるし、用事を済ませてからここへ戻ってきても問題はない筈だ。
と、因幡の家を出たところで、中村が尋ねてきた。
「しかし、どうやって帰るんだ?」
「なんでも、携帯につけた発信機で僕らの位置を把握して、例の銃で帰り道を作ってくれるらしいよ。 ...よく分かんないけど」
中村は何か嫌なことを思い出したのか苦い顔をして、
「2つの世界は表裏一体、か...。 だったらそれも可能だな」
僕にはよく分からなかった葉加瀬の説明だけど、中村は理解できたらしい。 見れば、先生も納得したかのように頷いていた。
「それより、あの銃でか...。 行きのこともあるし、嫌な予感しかしないな」
「僕もそれは心配だ...」
そんな僕らの会話を、鷲尾君達は不思議そうな顔をして聞いていた。 そういえばこの人達は意気揚々として異世界に来たんだったっけか...。
「俺達は貧乏くじ引かされただけだったんだがな」
「あー、そうか。 中村は葉加瀬の代わりに、僕は赤池君の代わりに来たんだよね」
「異世界より彼女とのデートを優先した赤池ってまぁまぁヤバい奴だよな」
そういえば赤池君、後でみんな(僕を含める)に八つ裂きにされるんだったっけ。
「貧乏くじ引いて行ったにしてはお前ら楽しそうだったぞ」
「勇気ちゃんとこころちゃんがいたから」
「ロリコンは死んだほうがいいよ」
中村だけ因幡の膝枕に興味を示さなかったからね、筋金入りのロリコンだよ...。
そんな会話をしながら歩いていると、再び僕のポケットの中で携帯が震えた。 葉加瀬からの着信だろうか?
「あ、今度はメールだ」
「メール?」
「えっと、『そこで止まって待て』だってさ」
「なんだそれ」
僕らの位置を把握しているとの事だったから、動かれると面倒なのかもしれない。 だったら最初から動かなければよかったんじゃないかとも思ったけど...。
「元の世界に帰るところを見られたら色々と面倒なんじゃないか?」
「そのためにここまで離れたってことか」
思えば、さっき電話で『うさ耳の家を出てしばらく歩け』と言われたんだった。 葉加瀬はそこまで考えていたのか...。
「...ちょっと思ったんだが」
と、何かに気付いたように鷲尾君が口を開いた。
「こころちゃんに気付かれてないか?」
「「「・・・あっ」」」
「こころちゃんの前でちょっとでも元の世界について考えたんだったら、気付かれていてもおかしくはないぞ」
...あれ? 僕、さっき『こっちの世界は僕らの世界と同じくらい科学が発達している』とか考えちゃってたんだけど? これってもしかして不味いのでは?
「待て待て、能力が確定してない以上は何とも言えないだろ。 流石にこころちゃんも大勢の思考を一気に読むのは無理だろうし、バレてると決めつけるのはまだ尚早だ」
「だが相手はオカルト、油断はできない」
「だから、取り敢えず様子見だ。 こちらからアクションは起こさず、なるべくこころちゃんの前では余計なことを考えない。 俺は『こころちゃん可愛いハァハァ」とだけ考えることにする」
「それは犯罪者だよ中村」
でも、中村の言っていることは概ね正しい。 僕達が違う世界から来たということが知られれば、何かしらの問題が起きるのは間違いないだろう。
「うーん...バレてないといいんだけど...」
一方そのころ、因幡の家では...。
「へっくしゅっ!」
「あら、こころちゃん、風邪?」
「うーん、そんなことはないと思うんですが」
「そういえば神木君たちももう出ていっちゃったわよ? 貴方は行かなくていいのかしら」
(神木さん達、か...)
「こころちゃん?」
「あーいえ、私はやることもないので、ここで夜になるまで待ちますよ」
「そう、ならいいのだけれど」
(...神木さん達、『異世界』だの、『元の世界』だのとよくわからないことを考えていた...。 もしかしたら彼らは厨二病、あるいはちょっと頭のおかしい人達なのかも...)
守護者の一人、覚読 心。 彼女はちょっとだけ天然であった。
「まぁ、今後こころちゃんの前では変なことを考えないということで」
結局、僕らのこころちゃんに対する対応はこんな感じで収束した。
...正直、僕は不安だ。 守護者というからにはさぞかし頭もいい筈。 僕らの思考から得た断片的な情報をつなぎ合わせて、真実を突き止めることも難しくはないだろう。
「会い続けていればいずれバレる。 そうなることも覚悟して、俺らは彼女達に協力したんだ。 そうだろ?」
「膝枕には代えられない...ってね」
「それを聞いちゃうと全然かっこよくないぞ俺達...」
こころちゃんだけとは限らない。 気になることは他にもある。 だけど、今大事なのはそこじゃない筈だ。
「本当に大事なのは、そう、膝枕...」
「こいつ、マジでやべぇぞ」
「想像以上に女に飢えてやがる...!」
何を言う、君達も僕と同類だ。
「神木君、悩みがあるなら先生が聞きますよ?」
「ガチの憐みの目! やめてください先生、その技は僕に効く!」
「かわいそう...」
「名波君、さっきまで膝枕争奪戦で張り切ってた君にだけは言われたくないんだ」
というか、みんな(先生を除く)膝枕奪い合ってたじゃん!今更何を常識人気取ってんだよ!
「そんなことより神木、いつ帰れるんだ? もう結構この場から動いてないぞ俺達」
「そんなことよりって...。 あ、丁度メール来た」
携帯を取り出して確認すると、案の定葉加瀬からだ。
「なんて?」
みんなも後ろから僕の携帯を覗き込む。
「えっと」
僕はメールの内容を読み上げた。
「下から来るぞ、気を付けろ! ....どういう?」
疑問の声をあげる暇など無かった。
次の瞬間には、既に足場など無くなっていたのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「今度は下ですか」
嫌に冷静な先生の言葉と共に、2度目の落下が始まった...。
最近、コロナウィルスが話題になっていますが、俺は毎日ゲーセンに行っているのに健康なのできっと大丈夫でしょう!