02:大慌ての身支度
軽装鎧を身につけた兵士たちが通り過ぎる。
「え? あれ。団長じゃないか?」
「――寝坊したなあれ」
「ソフィア魔道士長も大変だな」
だが、人目など気にしていられなかった。
ソフィアは、カリナを小脇に抱えるようにして、寝室から少し離れた場所にある、お風呂場へと駆け込んだ。
「みんな準備はいい?」
ソフィアが声をかける先には、侍女たちが準備万端で待っていた。
「はい、お任せください!」
「聖剣の巫女様をこちらへ」
カリナはこの騎士団の団長である、そして、聖剣保持者であるため聖剣の巫女ともよばれるのだ。
侍女の人数は五人ばかりで、彼女たちがカリナをソフィアから受け取ると、手慣れた感じで手際よく、カリナの入浴と着替えをはじめた。
「服を脱がしたら、そのままバスタブへ」
「洗い桶を並べて、髪の毛も一緒にやっちゃいましょう」
「顔のお手入れと、歯磨きもやっちゃいますね」
五人総掛かりでまたたく間に脱衣、入浴、洗髪、歯磨きが同時に行われる。こうした大急ぎの朝というのはよくあることなのか、五人の連携作業には、いささかの乱れもなかった。
カリナもバスタブの中のお湯の暖かさで人心地ついたのか、ようやくそこで朝の挨拶をする気力が戻ってきたようである。
「ふわ……みんな、おはよう」
「はい、おはようございます」
「すぐに終わりますからね」
「来賓の方達が来る前に、間に合わせますから」
「いつも通りだね? よろしく」
侍女たちとカリナの間には信頼関係が出来上がっていた。カリナも姉を頼っているかのような気軽さがにじみ出ていた。
嫌がることなく、全身の全てを委ねた。
そして、体が洗われ、髪の毛がすすがれ、歯磨きと顔のお手入れが終わり、入浴はすぐに終わった。
五人のうち一人が、大型のバスタオルのような布を持って待っていた。それで、すっぽり全身を覆うと、水滴を拭き取り、髪の毛を乾かしていく。
体の水滴を拭き取り終えると、清潔な布を何枚も用意して濡れた髪を手早く乾かしていく。
「ふわ――、目が覚める」
全身を乾かし終えたら次が着付けでやある。
女児用のズロース(いわゆるかぼちゃパンツ)に、太ももまでくらいの長さのシュミーズ。ペチコートを着せて、アンダーボディスドレスを着せる。
さらに足首までの丈のサーコート衣装を着せて、ロングブーツを履き、腰に革帯を撒く。カリナが身につける魔導剣士衣装――その略式である。
「今日は、野戦行動を行うわけじゃないから、儀礼目的の略装で行くわよ」
「はい!」
「では、ホーズズボンや胸甲鎧は使わないということで」
「えぇ、ソレでいいわ。」
カリナが与えられている公式衣装はいろいろな形があり、目的に応じて選ぶことになっている。そのカリナにどんな衣装を着せるかを決めるのはソフィアの事が多かった。
そのタイミングで髪にブラシが入れられ、髪型が整えられる。
カリナは髪がとても長い。腰骨より少し下あたりの長さで流れるような金色の髪が輝いていた。
さらに、両肩からマントがつけられ、両耳には小粒のイヤリング、頭には冠の代わりにネックレスのような聖銀のサークレットが乗せられた。
「巫女様こちらへ」
侍女たちに手を引かれて招かれたのは化粧台の前だった。スツールに腰を下ろして両サイドに立った侍女たちから手早く顔のお手入れが仕上げられる。
「頬紅は弱く、唇紅は淡い色のものを、眉墨も少し入れるわよ」
カリナは10歳ながらこうしてお化粧もしていた。
「今日は七王国の軍部の顔役の方たちがおいでになられる歓待式よ」
「それじゃ派手にならない程度に」
「ええ、それでいて目鼻立ちがはっきりとわかるように」
顔のお化粧もばっちりと瞬く間に終わるのだった。
「出来上がりました!」
その声と同時に腰を上げて立つと差し出された鏡を受け取りカリナは自分の顔を眺めた。
「いつもながら綺麗な仕上がりですね。ありがとうございます」
「どういたしまして。聖剣の巫女様の身の回りのお世話するのが私たちの役目ですから」
「ソフィア様いかがでしょう?」
カリナと侍女たちが対話するその脇で、ソフィアにも声がかけられた。風呂場の入り口で立たずみカリナの仕上がりをつぶさに観察していた。
「上出来だわ、これなら間に合うわ」
「かしこまりました。それと朝食を歩きながら食べれるようなものを用意しました」
もう1人別の侍女が現れてトレーの上に丸パンに中にお肉や野菜を挟んだものを持ってきた。カリナはそれを受け取り早速パクつき始めた。
それまでの寝ぼけてぼんやりしていた彼女はどこへやら。集中して一気に食べると、もうその頃にはベッドの上でぼんやりしていた彼女はどこにもいなかった。
「ソフィア、来賓の形はもう来てる?」
「ルミナリアの国軍の方たちは早朝から兵士たちと対話してるわ。それ以外の方達はまだね」
「まずはそこに顔を出しましょう。その後来訪してくる順にそれぞれ挨拶します」
「ええ、行きましょう」
「はい!」
ソフィアと並んで歩き始める。入り口で一旦足を止め振り返るとカリナは侍女たちへと声をかけた。
「いつもありがとうございます。それじゃ行ってきますね」
「いってらっしゃいませ」
「お気をつけて」
そこには主従関係よりもお互いの信頼関係を重視するようなニュアンスがあった。カリナにとって侍女も大切な家族だったのである。
カリナとソフィアはそのまま練兵場へと向かったのだった。
次話は10分後に公開予定です。




