導入第3話:10歳の美少女騎士団長は、悪しき魔族を倒し、帰りの馬車で寝落ちした。
残り1人の男は目深に頭にフードをかぶっていたため、顔は見えなかったが、その右手の指先を前方へと突き出すと、その指先から銀色に光る光弾を4発撃ち放った。
投降しようとしていた4人を背後から打ち抜き瞬殺したのである。
――ドサッ――
4人はほぼ同時に崩れ落ちた。フードの男の指先からはおぞましい波動を放つ光弾が更に一発撃たれ、カリナはそれに襲われる。
「エリュシオ! 剣に魔法結界をエンチャントして!」
『承知しました』
即座に聖剣レギオンブレイドの表面に結界魔法が発動し、敵の光弾はあっさり弾かれていた。
それと同時に男はフードをゆっくりと後方へと降ろした。
「角に金目!」
男の正体をミリアが言い放つ。頭部の角、金色の瞳――、生身の人間とは異なるその外見は、絶対的な相容れなさをかもし出していた。
「やはり魔族でしたか」
「分かっていたノカ?」
「半分は推測でしたが、残りは確信です。こんな明かりもない道を目が見えているようにさっさと歩けるなんて、よほどの訓練を受けているか特殊な目を持っているかのどちらかです」
カリナの推測に魔族の男はニヤリと笑った。
「その黄金の輝く剣、それを持っているということは小娘、貴様ただ者ではナイナ?」
だがカリナはわかっていた。穏やかそうに語りかけていながら、こちらの心理を乱すことが向こうの目的なのだと。魔族は油断のならない生き物なのだから。
相手のペースに応じず、相手の目的を見抜いて言い放つ。
「カロリーナ嬢を殺さなかったのはその生きた血が必要だからですね?」
会話に応じず、いきなり確信を突きつけてきたカリナに対して魔族は苛立ったように片目をしかめる。そしてさらにカリナは突きつける。
「カロリーナ嬢の誘拐を〝発注〟したのは、おそらく魔将軍クラスでしょう。高レベルの呪術を行うために王族クラスの高貴な血が必要になったのでは?
そのため大部隊を率いて押し寄せるよりも、現地の人間をたぶらかし巻き込んで誘拐事件を企てた方が効率がいいと踏んだのですね」
カリナは逆に言葉を駆使して相手のペースを乱そうとしていた。事実相手は、令嬢を殺さない理由を看破されて〝人質を殺すぞ〟と言う脅しが使えなくなっていた。
「その令嬢を殺せば、依頼人である魔将軍から怒りを買う。そうなればあなたの命は風前の灯」
――チャッ!――
カリナは言葉の韻と同時に剣を握り直して正眼に構えた。
「皆殺すシカないナ――」
対する魔族の男も武力行使しか道は残されていなかった。独特のイントネーションの声が重く響く。
10歳の少女剣士――、闇を行く魔族の密偵の男――、
戦いの口火が切られようとしていた。
§
魔族は気づいていなかったが、カリナが剣を構えるのと同時にミリアとエルリックが目線で頷きあい、カリナもそれは気配で感じ取っていた。
そこからは〝4人〟の行動は一瞬であった。
崖崩れを仕掛け終わった後のソフィアが少し離れた位置から魔法を仕掛けていた。
「魔力抑制フィールド発動!」
呪文と共に波動が一気に広がり魔族の男に重い力がのしかかる。
「ぐぅっ?!」
さらにミリアが手投げ式の焙烙玉を魔族の男の顔面めがけて投げた。
――ボォオン!――
中に火薬が詰め込まれた焙烙玉は炸裂して男の視界を奪った。
「ガァッ!?」
さらに同時にエルリックがシールドを前に立てて突進し男の胴体を強打し、魔族の男が肩に担いでいた令嬢を手早く奪い取る。
そしてダメ押しに男の胴体を蹴飛ばして、令嬢から引き剥がしたのである。
「今だ!」
まさに好機だ。1人だけになった魔族へカリナは一気に駆け出した。
残るはカリナと魔族の男の1対1だ。
エルリックに蹴飛ばされ体勢を崩しかけている魔族の男だったが、気配だけで右手の指をカリナのいるであろう方向へと向けてきた。
そして5本の指先から同時に、白銀の魔力弾を撃ち放って来た。
「死ねェ!」
カリナは、眼前に迫るその5つの魔力弾丸を、すでに抜刀していた黄金色の聖剣を翻して弾き返したのである。
「なんだと?――ただのガキが、俺のこの弾ヲ?」
慌てて再度指先に魔力を込めようとするが、ソフィアの妨害魔法でなかなかそれもままならなかった。
そして、珍しくも精霊のエリュシオが怒気をはらんだ声で言い放つ。
『カリナはガキでは有りません』
同時に聖剣レギオンブレイドの表面に、光り輝く魔導の力が迸っていた。抗魔調伏の対魔族用の攻撃結界である。
『彼女こそは、未来の勇者たる、偉大なる素質を秘めた〝聖剣の巫女〟です』
それに対してカリナは焦ることなく敵のそのどてっ腹を真一文字に一気に切りつける。
「いやぁあああああっ!!
――ザヴァァアアッ!――
「ぐぁあああっ!」
レギオンブレイドの切っ先は、魔族の男の腹部を深々とえぐって切り裂いた。魔族の男はそのまま起き上がることもできなくなっていた。
そんな状況下でカリナは、その男に剣を突きつけながらまだ間合いを計っている。
「な……何者ダ? 貴様……」
その言葉を聞きながらカリナの仲間たちが集まってくる。まずエルリックが言い放った。
「我らは魔法剣士騎士団アルカナヴァンガード――、その幹部だ」
次にミリアが言う。
「彼女こそは、アルカナヴァンガードの団長にして、先陣を切る者」
さらにソフィアが言った。
「彼女こそは、聖剣レギオンブレイドの継承者――、勇者カリナ・ウイングス」
その言葉に魔族の男は驚愕の表情を浮かべていた。
「勇者? 勇者だと? こんなガキが?」
だがカリナは明快に言い換えした。
「魔族の人たちってみんなそれを言うのよね」
『言わせておきましょう。どうせここで死ぬのですから』
「そうね――」
カリナはその両手で聖剣レギオンブレイドを高く振りかぶった。
「ま、待て! 話し合おう! お前に魔王軍の重要情報を教える! 侵攻計画も知っている!」
ここに来て魔族の男は命乞いを始めた。だがそれに取り合うカリナではない。
「見苦しいよ」
それがカリナから魔族の男にかけられた最後の言葉である。
かたや、エリュシオと呼ばれたその精霊は、聖剣から黄金色の波動を解き放ちながら最終浄化処理の魔法を実行する。
『最終浄化魔法、執行します』
剣先が翻り、魔族の男の首が切り落とされ魔の命が断たれる。
そして、その体内に蓄積されていた魔力がどす黒いオーラを払って一気に吹きだす。その魔力そのものが炎となりその男を骨まで焼き尽くす。
その炎を眺めながらカリナは静かな怒りを込めて言い放つ。
「魔界から二度と出てこないことね」
こうして令嬢の誘拐犯たちは残らず始末されたのである。
§
するとその時、カリナたちが元来た道の向こうを見れば、そこには山の頂に明かりが灯っていた。人間が手にしている松明の明かりである。
「あれは王族親衛隊の人たちだな」
冷静に告げるエルリックにソフィアは答えた。
「今更何しに来てんだか」
それに対してカリナはたしなめるように言った。
「彼らは彼らなりに職務に熱心です。そう悪しげに言わないでおきましょう」
「あなたに言われちゃ仕方がないか」
そう言いながら苦笑しつつカリナたちは彼らを待っていると、確かに王族親衛隊だった。
「そこにおられたか! アルカナヴァンガードの皆様方」
隊長らしき人物が礼儀を尽くした言い方で呼びかけてきた。
「戦闘の気配が感じられたので急いで駆けつけてきた」
彼らの善意を感じてカリナもまた礼儀で返した。
「ご心配いただきありがとうございます」
軽く会釈をしてさらに言葉を続けた。
「誘拐犯の一団は魔族が背後に関係していたことが分かりました」
「何? 魔族が?」
その時、周囲に転がる4人の亡骸を目の当たりにして親衛隊の彼らはため息をつく。
「金になる仕事があるとか囁かれて引き受けたのだろう。そしてその結果がこれか――」
「魔族を信じた結果です」
「同情には値せぬな」
「同感です」
そしてその上で、王族親衛隊の彼らはカリナたちに対して頭を下げた。
「先ほどはカリナ卿に失礼な態度を取った。誠に申し訳ない」
たしかに、失礼――と言うより頑迷さを感じた出来事だった。でもカリナには、正面から非礼を詫びてくれただけその心遣いが嬉しかった。
「いえ、お気になさらず、願わくばこれからも良い関係を」
「お心遣い、感謝する」
一方で、睡眠薬でも飲まされているのであろう今なお眠り続ける令嬢は王族親衛隊の彼らへと引き渡した。その上で、王族親衛隊の隊長はカリナに告げた。
「もう夜遅い。我々が馬車を用意するのでカリナ卿とその従者の方々をお送りしよう」
「本当ですか?」
「うむ」
それが彼らの最大限の礼儀だと、カリナは理解していた。
「ありがとうございます!」
カリナは満面の笑顔で、そして10歳相当にふさわしい柔和な笑顔で、感謝を口にしていたのである。
§
そこから馬車の場所までは、カリナはエルリックの肩に腰をかけていた。そして、そのまま山の麓まで戻るとすでに王族親衛隊の彼らが用意した4人乗りの馬車が待っていた。
そこにカリナたち4人が乗り込み、王族親衛隊の彼らは敬礼で見送った。無論カリナも車上から一礼して礼儀を返したのである。
走る馬車の中でカリナは思いを口にする。
「いい人たちでしたね」
だがミリアは不満げに皮肉った。
「そうですか? 初めはかなり言いたい放題だったけど?」
それに対してカリナは思いの訳を口にする。
「仲良くなれたんだから、それでいいのよ」
「結果オーライというわけか」とエルリック
「はい」
馬車の中に笑顔があふれた。
そしてそれからさらに馬車の中で揺られ続ける。
それはカリナに心地よい揺れをもたらした。
カリナがいつのまにか静かになったことに気づいたソフィアがカリナの顔を伺えば――
「あら寝ちゃった」
カリナはいつの間にか睡魔に負けて船を漕いでいた。
「仕方ないさ、まだ10歳だからな」
「ええそうよね」
するとミリアは苦笑交じりに言う。
「最強の10歳ですよね」
「ああそうだな」
ミリアとエルリックは笑いあう。
ソフィアはカリナをそっと愛おしく抱きしめながら馬車の中で寄り添っていた。
こうして、深夜にまで及んだ令嬢誘拐事件は、カリナたちの活躍により無事に解決されたのである。
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