2話
「…」
じっとその紙を見つめる。
“あなたは、出会うべき人。こちらの世界への訪問を許された人です”
「どういうこと?」
そっ、と枕の下にその紙を戻す。
正直気味が悪かった。
今日は学校はない。
かといって、することもない。
「…早く捨てよう」
紙をもう一度持ち上げ、両手で引き裂こうとする。怖くて、その打ち消しのつもりだった。
でも不思議な事に紙は破れる気配を見せない。
代わりと言うように、文字が変化していく。
“あなた縺ェ、??うべき人。∝?莨≧世界への訪縲ュ゙を險アれた人です”
ゾゾッ、と寒気が込み上げる。
今すぐ逃げ出したかったが、震えで体が動かない。
「なに、なんなのこ…れ……」
段々瞼が落ちてくる。さっき眠ったばっかりなのに、猛烈な眠気が襲い掛かってきたのだ。
「…」
次に映ったのは、またもやあの世界。
でも少し違う。
人々が居ない上に、私の住む街ではなく、草原のような場所だ。
「どこ、ここ」
周りを見渡しても続くは奇色な草原と、それらを照らし続ける月と太陽。
例えるなら、読まれなかったおとぎ話が狂って怒っているような、そんな雰囲気だ。
「お目覚めですか」
どこからか声がした。
でも姿は見えない。代わりに生温い風が吹く。
「な、誰なんですか?!」
少し声を張り上げる。
「落ち着いて下さい。」
「落ち着いてられないでしょ、急にこんなことになって」
私が怒りと混乱で必死だった。でも自然と心がゆっくりとブレーキをかけるように、その感情は薄れる。
「落ち着きましたか。」
「不思議なことにね」
そうすると、目の前に人が現れた。
身体がうっすらと透けている、中性的で、高身長の人間。
よくよく考えてみれば、こんな世界に居るのだ。人なのかどうかもわからない。
「初めまして。茜様。歓迎いたします」
彼が頭を下げる。美しく、繊細で儚げな顔立ち。綺麗な白色の、長くストレートの髪を後ろで高く結んでいる。
「…あの、私何が起こってるのかよく分かってないんですけど」
おずおず聞くけば彼はニコ、と笑い
「当たり前です。…なんせ、私にも何が起こっているか分からないんです」
「え?」
初めて彼は目を開いた。ダイヤモンドのような澄んだ青い目。
妖精なんじゃないかと思うほど美しい、としか言いようが無かった。
「本来、ここには死んだ人間しか入れないはずなんです。そこに貴方がやってきた。最初は生まれ変わりなのかと思いました。でも貴方は正真正銘生きている」
白い手袋をした手を顎に当てて考えている。グレーのベストに白い長袖Tシャツをしており、全体的な印象を通してはどこかの館の使用人のような雰囲気だ。
「…まず、この世界のことがよくわかっていなくて」
すると彼はキョトンとした顔をして
「いえ、知っているはずですよ。」
その回答に、自然と驚きはしなかった。
そんな気はしていた。ただ受け入れ難かった。
「…同じ人間として生まれ変わるっていう」
思わず口から言葉が溢れると、彼は頷き
「そうです。そもそも、それを知って居なければ生きている人間はここの世界には立ち寄れないのでね」
彼は少し息を整え
「…生きた人間がこちらに訪問するには、こちらの世界のことを事前に知っていなければ入れません。なので外界には一切情報が漏れない様にしていたはずが…困りましたね」
頬に手を当て、私を見て困った表情をしている。
一つ、私は疑問が浮かぶ。
「あの…私、最初にここに来た時、物に触れられなかったたり、名前を呼んだりしても届かなかったりしたんですけど…」
「あぁ、それはですね。あなたはこちらに"生まれ変わって"いる訳では無いので、実体が無く、意識だけがこちらに移動している形になります。なので他の方からすれば見えませんし、聞こえることも無いです。」
いとも簡単そうに説明をする。
「でも…今、こうやって話せているじゃないですか。それに、私のことも見えているでしょう?」
食い気味に質問する。すると彼は何故だか苦笑した。
「それはこの場所自体が特別ですからね。一番外界との繋がりが濃く、あなたはなんとか実体を持てているんです。でもその分、此方側の人間は私くらい長期間ここに居なければ、消えてしまいますがね。」
それを証明するかのように、腕を少し広げた。透けている身体が良く分かる。
「話を戻しましょう。あなたはひょんな事から、ここの世界に立ち寄る事が可能になってしまった。でもずっとこうという訳にはいきません。」
「…じゃあ、どうなるんですか」
彼は息を漏らして
「49日間だけ、此方の世界に訪問出来ます。でもその間は訪れる事が出来るだけで、触る話しかけるなどの関与は何一つ出来ません。49日が過ぎれば、訪問は出来なくなります。」
「…」
私は黙っている。
彼の目がとても優しくなった。
「大切な人が居るんでしょう。きっと。その人と話せなくても、近くで見守ることは出来ます。最後に、心の整理をつける期間だと思って下さい。」
何も言えなかった。
いや、本来ならとても私は恵まれている。まだ華恋の姿を見る事が出来るのだから、喜ぶべきなのだ。
なのに、話したいと思ってしまう。あの日々みたいにくだらないことで笑っていたいと思ってしまう。私はわがままだ。
「…わかりました」
手をグッと握ってそう言った。
「それでは、49日間。…お楽しみ下さい。」
そう言って彼は姿を消した。
風が吹く。今度は冷たかった。
2話です!!




