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狼の時代  作者: 閃紅
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二人だけの旅路14

今回登場の鍋、松吟庵は実在しているのですが史料が全くありません。

宗厳の兄であったかもです。

当作では柳生の頭脳として作りました。

呆然としている玲を可笑しそうに鍋が見ている。

玲が景狼を見るが、先ほどの嬉しそうな表情から一転していつもの無表情であった。

「まずは新次郎と会ってからであろう」

栄厳が言う。

「そうですな…今奥原殿へ遣いに行っているので、夕飯の時に会えるであろう」

「それまでゆっくり過ごされよ」

「部屋へ」

新左衛門が鍋に言う。

「自分の家のように休まれませ」

「いずれは自分の家にもなるかもしれませんね」

鍋が微笑みながら立ち上がると、広間を出て行く。

景狼と玲も一礼すると続いて出た。


景狼と玲、鍋が去った広間には新左衛門と栄厳が向かい合っていた。

「父上、どう見られましたか」

新左衛門が栄厳に茶を注いだ。

「そうじゃな。黒峰がどういうつもりであのようにしたのかわからんが、あれは人じゃないな」

「人ではあるが童よ」

栄厳が茶を飲むと続けた。

「あれくらいの歳なら少しは感じよう」

「じゃが、あれには無いように見える」

「じゃから表情が無い」

「あれはただ見てるだけじゃ」

「景秀の文には珠洲殿により山の外に出していないとある」

新左衛門が景秀の文を見ると、栄厳に渡した。

「そのようじゃな。では身内以外を知らないという訳じゃな」

「黒峰は特殊ぞ。あれしか知らないとああなるのか」

「じゃが玲は違うのう。あれは豊かじゃ」

栄厳が首を傾げると同時に広間の障子が開いた。

背の高い僧侶姿だった。

額を深く覆い、首元まで滑らかに垂れる墨色の薄絹の頭巾を被っている。

鈍色の直裰、内側に白衣、胸に掛ける袈裟は黒漆の如法衣といった姿である。

二人の間に座ると深々と一礼した。

白く細い、節のない女性のような指先に、水晶の数珠を絡めている。

涼しげで切れ上がった、どこか冷徹さも感じさせる美しい眉と目元、女性と見間違うような白く美しい顔が2人に向けられる。

「お待たせいたした」

その美しく女性のような人から想像が出来ない低い声が発せられた。

「おお、よく来た柳寿丸よ」

「兄上、お久しゅうございます」

栄厳と新左衛門が嬉しそうに笑った。

「松吟庵、参りました」

松吟庵が再び頭を下げた。

頭巾の隙間から、耳元やうなじに沿って、剃り落とされずに艶やかに切りそろえられた黒髪がわずかに覗ける。

「先だっては兄上のおかげで山城の国衆との諍いうまく丸め仰せました」

「それはよきこと」

松吟庵が頷く。

「柳寿丸よ、黒峰のこと、どう見る?」

栄厳が景秀の文を松吟庵に渡す。

松吟庵は文を一読すると床に置いた。

「関白様が黒峰をお呼びになるのはよくあることでは」

「確かに黒峰は関白様により動いてはおりますが、ここ最近は無かったかと」

「黒峰が息子を送ってきた真意が知りたいのよ」

松吟庵が少し考えると言った。

「殊更何かある訳ではないでしょう」

「というと?」

「よき機会なので景狼殿を行かせようと思っただけでは。文によれば景狼殿は山を出たことがないとのこと」

「このままでは黒峰のお役目が果たせないでしょう」

「なるほどのう」

栄厳が頷く。

「では玲は新次郎の嫁としてはどう思われますか」

新左衛門が松吟庵に茶を注いだ湯呑みを渡す。

「玲殿がどんな娘かわかりませんが、呆然としている玲を可笑しそうに鍋が見ている。

玲が景狼を見るが、先ほどの嬉しそうな表情から一転していつもの無表情であった。

「まずは新次郎と会ってからであろう」

栄厳が言う。

「そうですな…今奥原殿へ遣いに行っているので、夕飯の時に会えるであろう」

「それまでゆっくり過ごされよ」

「部屋へ」

新左衛門が鍋に言う。

「自分の家のように休まれませ」

「いずれは自分の家にもなるかもしれませんね」

鍋が微笑みながら立ち上がると、広間を出て行く。

景狼と玲も一礼すると続いて出た。


景狼と玲、鍋が去った広間には新左衛門と栄厳が向かい合っていた。

「父上、どう見られましたか」

新左衛門が栄厳に茶を注いだ。

「そうじゃな。黒峰がどういうつもりであのようにしたのかわからんが、あれは人じゃないな」

「人ではあるが童よ」

栄厳が茶を飲むと続けた。

「あれくらいの歳なら少しは感じよう」

「じゃが、あれには無いように見える」

「じゃから表情が無い」

「あれはただ見てるだけじゃ」

「景秀の文には珠洲殿により山の外に出していないとある」

新左衛門が景秀の文を見ると、栄厳に渡した。

「そのようじゃな。では身内以外を知らないという訳じゃな」

「黒峰は特殊ぞ。あれしか知らないとああなるのか」

「じゃが玲は違うのう。あれは豊かじゃ」

栄厳が首を傾げると同時に広間の障子が開いた。

背の高い僧侶姿だった。

額を深く覆い、首元まで滑らかに垂れる墨色の薄絹の頭巾を被っている。

鈍色の直裰、内側に白衣、胸に掛ける袈裟は黒漆の如法衣といった姿である。

二人の間に座ると深々と一礼した。

白く細い、節のない女性のような指先に、水晶の数珠を絡めている。

涼しげで切れ上がった、どこか冷徹さも感じさせる美しい眉と目元、女性と見間違うような白く美しい顔が2人に向けられる。

「お待たせいたした」

その美しく女性のような人から想像が出来ない低い声が発せられた。

「おお、よく来た柳寿丸よ」

「兄上、お久しゅうございます」

栄厳と新左衛門が嬉しそうに笑った。

「松吟庵、参りました」

松吟庵が再び頭を下げた。

頭巾の隙間から、耳元やうなじに沿って、剃り落とされずに艶やかに切りそろえられた黒髪がわずかに覗ける。

「先だっては兄上のおかげで山城の国衆との諍いうまく丸め仰せました」

「それはよきこと」

松吟庵が頷く。

「柳寿丸よ、黒峰のこと、どう見る?」

栄厳が景秀の文を松吟庵に渡す。

松吟庵は文を一読すると床に置いた。

「関白様が黒峰をお呼びになるのはよくあることでは」

「確かに黒峰は関白様により動いてはおりますが、ここ最近は無かったかと」

「黒峰が息子を送ってきた真意が知りたいのよ」

松吟庵が少し考えると言った。

「殊更何かある訳ではないでしょう」

「というと?」

「よき機会なので景狼殿を行かせようと思っただけでは。文によれば景狼殿は山を出たことがないとのこと」

「このままでは黒峰のお役目が果たせないでしょう」

「なるほどのう」

栄厳が頷く。

「では玲は新次郎の嫁としてはどう思われますか」

新左衛門が松吟庵に茶を注いだ湯呑みを渡す。

「玲殿がどんな娘かわかりませんが、文によれば珠洲殿と霧生を出ておるようなので人との交わりを知っておられるように見える」

「されど男女のこととなれば話は別でしょう」

「まずはわたしが会ってみましょう」

「おお、それは上々」

栄厳が膝を叩く。

「兄上の見る目なら確かじゃ」

「では」

松吟庵が立って、広間から出て行った。


充てられた部屋に案内された景狼と玲はそれぞれ過ごしていた。

景狼は目を閉じて転がっており、玲は地図を広げて何やら呟いている。

そのうちに部屋の外から声がした。

「中宮寺を預かってる松吟庵と申す者でございます。黒峰景狼殿、玲殿にお会いしたい」

よく通る低い声だった。

景狼が起き上がると玲に頷いた。

「はい」

玲が服装を正す。

「失礼します」

部屋に入ってきたのは背の高い美しい僧侶だった。

二人の前に座ると床にスラリと細い指をついて頭を下げる。

「綺麗…」

玲が見惚れている。

景狼は不思議そうに松吟庵を見てる。

「松吟庵と申します」

松吟庵の声を聞いた瞬間、景狼の表情が変わった。

笑みが浮かんでる。

「ええ!綺麗な男の方ですか…それとも女性?」

玲が驚いている。

「どちらに見えますか」

松吟庵が薄い笑みを浮かべている。

「どっちなんだろう…」

玲が首を傾げている。

「松吟庵なんだろう」

景狼が言う。

松吟庵の綺麗な顔が歪み。

「若君、気にならないのですか」

「ならん」

「こんなに綺麗なお姿で、こんなに凛としたお声なんですよ」

「ならん」

松吟庵は2人のやり取りを見ている。

なんだか楽しい気分になっていた。

「玲はお前は女か」

突然景狼が冷たく言い放った。

「女ですよ」

玲が頬を膨らませる。

「玲、お前は玲だ」

「そして松吟庵は松吟庵だ」

松吟庵が低いが楽しそうな笑い声をあげた。

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