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ロイの言葉の意図はすぐに分かった。
「確かに双子のように見える国王陛下とフィリップ王弟の二人と比べて、リシャール王弟はあまり似ていないと思います。でも、珍しいことでもないですし、祖父母からの遺伝とかではないんですか?」
「ええ、現にダミアン兄様と私が本当の兄妹だなんて、誰にも信じてもらえないものね」
「ダミアン君が言った通り、祖父母や、その前の祖先からの特徴を引き継ぐことも珍しくはありません。特にダミアン君とエステル嬢はファロンヌ人の父上と東の国出身の母上のため、お二人がそれぞれの親にのみ似たとしても不思議ではないでしょう」
僕たちが兄妹という事実はチボーだけでなくエリックにも衝撃だったようだ。チボーはもちろん、普段は落ち着いているエリックですら彼らしくない様子で、思い切り僕たちの顔を見比べている。
「エリックも知らなかったんだね」
「はい」
「ごめん黙っていて」
「いえ、そんなことは。ただ、その、驚いた……だけです」
意外な慌てぶりだが、エリックがエステルに向けた視線の熱さから理由を察した。だがそれだけなら、僕たちが兄妹だと分かってもエリックの想いには関係ないし(エリックの親が排他主義だったら問題になるかもしれないけど)、そもそも妹はロイの秘密の恋人と言われているのだから、エリックには叶わない恋だし……と、色々考えているうちに思い至った。僕たちの関係が分かったことでの動揺ではなく、ロイの親友の妹だから仲良くしているだけで実際は恋人ではないと期待してからの喜びが、動揺に見えたのだと。
要するに――また警戒する相手が増えた。はあ……。
「ダミアン君」
「はい、殿下」
「私は君が兄で、とてもお似合いだと思いますよ」
「……ありがとうございます」
これは牽制――? エリックに深読みさせるために、あえてエステル嬢の兄と言わなかったに違いない。
「そろそろ本題に戻りますね」
「はい、すみません殿下」
「問題ございませんよ」
ロイが口角を上げた。このような状況でも変わらない貴公子然とした振る舞いは、僕たちに必要以上に気にしないでほしいという彼の配慮だろうか。
「皆さんは前国王夫妻に会ったことはないはずです。また、彼らの絵は現国王の執務室以外にも飾られてはおりますが、疑問を持たれて鑑賞されなければ、気に止められないと思います」
確かに装飾――むしろ壁の一部になっている。どの部屋のどの絵に誰が描かれているものなのか、訊かれたとしても曖昧にしか答えられないと思う。
「リシャール叔父上はご存知の通り、髪と瞳の色は濃い茶色です。それに対して我が一族には肖像画で確認できる限り、そのような外見を持つ人物はおりません。当然、絵に残っていなかったり、ずっと昔の祖先ということもございますが……」
嫌でもルグランの主人を思い出させる。彼も同じような色合いだった。そして今回の件に絡んでいるならば、こちら側を疑ったほうが話は早い。
「ええ、皆さんもお気づきでしょう。ルグランの主人とよく似ておりました。ダヴィルー元侯爵がそのような容姿をしていたのだと予想されます」
「――でしたら、二人は兄弟でしょうか?」
「異母兄弟の可能性が高いと思われます」
エリックの問いを、ロイは半分だけ肯定した。
「おそらく二人はその事実を知っていたということよね。元国王陛下や現国王陛下たちはどうなのかしら?」
エステルが先ほど提示した疑問をまた繰り返した。
「そうですね。もしかしたら似ていないことに、疑いを持ったことがあるかもしれません」
「あの……」
「はい、ダミアン君」
「今回の黒幕はリシャール王弟らしいと推測できましたが、ですとダヴィルー元侯爵の爵位剥奪の原因——二十五年前の反乱の主犯者は結局誰なのですか?」
「良い質問ですね」
答えに困る質問という意味だろう。
「私はずっとフィリップ叔父上が起こした事件だと思っておりました。ですが、もう一度調べ直す必要がありそうですね」
「どうやって調べますか?」
僕が訊いた。ロイは考えているのか、少しの間沈黙する。ロイが何かを言う前に、エリックが言った。
「ロイ殿下。私の父は国王派ではありますが、今回の件に関して、少し話をしてみてもよろしいでしょうか」
エリックが確認しているのは、もし自分の父親が裏では王弟側だった場合、そこから密告される可能性を含んでいるためだろう。
「国王がどこまで把握しているのか分かりませんが、リシャール叔父上と繋がっていることはないでしょう。エリックの父上は信頼が置けますし、父に伝わったとしても問題ございません。探りを入れるため、少々多めに話してもかまいません」
「承知しました」
エリックは頭の回転が早く、自分が求められている役割をすぐに理解できる。ロイの思惑は、エリックが父親に話すことによって国王にまで伝わることだろうが、エリックの世間話から国王側が偶然事件に気がついたという形を取ることが重要で、ロイが水面下で調査を進めていたことが露見しないようにする必要がある。
王位継承権を巡る反乱でも分かる通り、微妙な立場の第二王子が優秀すぎてしまえば、それを疎ましく思う者が現れることは想像にかたくない。現王太子、ロイの兄――シャルルがそうでなくとも、周囲の自分の利益のみを考える人たちには、ロイのような公平で聡明な王族は天敵だからね。
「ダミアン君、エステル嬢」
「はい」
「こちらで働かれているパトリックさんに話を伺うことは可能でしょうか」
「はい、少々お待ちください」
扉を開けると、思った通りパトリックはすぐ側に待機していた。部屋に入り、ソファーに座っているエステルの横に立った。
「パトリック。単刀直入に訊くけど、ダヴィルー侯爵家って知っている?」
「はい、ダヴィルー侯爵家の名前は聞いたことがございます」
「じゃあ、今の当主とか財政とか現状は分かるかな?」
すでに爵位剥奪されているとは言わず試すような言い方をしてみたが、パトリックは本当に知らないようだった。
「いえ、知識として存じ上げているのみですので、詳しいことまでは……」
貴族一覧表などは世間にはもちろん出回っていないため、侯爵家の侍従といえど付き合いがある家以外のことをあまり知らないのは普通のことだ。もちろん雇い主にとって不利になりそうな、悪い噂がある家には敏感になる必要がある。だが、使用人がそれ以上の内情を知りすぎるのは噂好き、あるいは口が軽いと思われ、嫌がられる。
貴族の屋敷なだけあり壁は厚く、当然廊下にいたパトリックまで会話は届いていないが、優秀な侍従である彼は、前回僕たちが尋ねた内容との繋がりに気がついたようだ。
「おぼっちゃま。失礼ですがこの間の話……トニーが話していたルグランの主人とダヴィルー侯爵家は関わりがあるのでしょうか?」
質問の答えは、ロイが引き継いだ。
「ええ。ダヴィルー元侯爵の息子だと考えております」
「元侯爵ということですと、現在は息子――ルグラン主人の兄弟が引き継いで……」
ここまで言ったところで、腑に落ちたようだ。
「あ、取り潰しにあった家――ということでしょうか?」
「ええ。ですので、その当時のことに詳しい方にお話を伺いたいのですが、パトリックさんはどなたか思い当たる方はいませんか? できれば使用人として働いていた、貴族でない方ですとありがたいのですが」
第二王子直々の言葉に、長年侍従を務めているパトリックでも、いつもより緊張しているように見える。
「そうしますと、ジュリエットの両親がよろしいかと存じます」
「ジュリエットは、ヴァルリナの家にいる侍女よ」
エステルが付け足した。
「ええ。彼らは二十五年前の当時、ヴァルリナ宮殿で料理人と衣装係をしていましたが、その後、急にやめております。そのため……何か知っているかもしれません」
「いまどこに住んでいるか分かる?」
言いにくそうな顔をしたパトリック。話を聞けると提案したのだから、まさか知らないということはないはずだが……?
「バクランド領の屋敷でございます。以前は別の場所に住んでおりましたが、ジュリエットがエステルお嬢様と一緒に来た後、一人娘がいなくなり寂しいだろうからと旦那様と奥様が屋敷に呼び寄せました」
ということは、確実に父たちに伝わる。その後を想像する僕とエステルの憂鬱さを横目に、ロイが言った。
「パトリックさん。では早急に面会の手配をお願いいたします」
「かしこまりました」
「バクランド家に伺うのは何年ぶりでしょうか。懐かしいですね」
優雅に微笑む王子の隣で、『え、僕たちが行くの?』と思わずにはいられなかった。




