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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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117話 逃れられぬ呪縛


 焼けるような熱が、ダルンの体を貫いていた。


 遅れてやってきた激痛に、思わず膝が折れそうになる。


「……っ、ぐ……ぁ……」


 だが、倒れない。意識を失うことも、ましてや、死ぬことなどない。


 この程度ではダルンの体は機能を停止しない。

 光に貫かれ、失われた体組織は再生を始めていた。


 目の前には、跳ね飛ばした少年がいる。

 驚いた顔のままダルンを見ていた。


「……危なかったな。油断は禁物だ」


 あえて茶化すように、陽気な笑みとともにそう言った。


 それだけで、胸の奥がわずかに軽くなった気がした。


 五年前の孤児院のときのような無理矢理の救済ではなく、押し付けた幸福ではない。


 “ただこの少年を救えた”という事実がダルン自身も救っていたのだ。


「……ダルン。お前……」


 瓦礫の中で体を起こしたルクスが、呆然と声を発した。


 その顔は、怒りでも憎しみでもなく――ただ理解が追いついていない顔だった。


 それが、ダルンには妙に可笑しかった。


「……はは……心配するな。この程度の傷で……私は死なない」


「この程度って……。え……マジで? うわ、傷が治ってんじゃん。グロ」


 最初は心配していたルクスだったが、倒れぬダルンとその傷を見て安心したような声を溢した。


 しかしその反応は相変わらず独特で、その言葉遣いだけはどうしても直らないようだった。


「まったく……救われた感謝ぐらい持ってほしいものだな」


「……あざーっす」


「ははははははっ!」


 雑すぎる謝礼に思わずダルンは笑った。

 ここまで来ると清々しいものだ。


 ルクスは目を伏せ、照れ隠しのように言っているが、胸を撫で下ろし安堵の息を吐いた。

 

 これ以上何かを目の前で失わなくてすんだのだから当然だ。


「さて……」


 そのとき――空気が、張り詰めた。


 まるで世界そのものが息を止めたような静寂。


 ダルンはゆっくりと顔を上げる。

 そして、空に立つ影を見る。


「…………」


 ダルンの人よりも多少は優れた目で確認できるのは、黒と赤の鎧。


 そして、こちらを正確に射抜こうとする女神の名残。


「……来るぞ、リエーニ」


 少年はルクスと呼ばれなかったことに文句は言わなかった。

 ダルンにとっては孤児院で拾った子供のままであり、少年も彼の前では気取る必要もない。


「あのレベルの狙撃で連射できんのかよ……。ぜってぇ女神には文句言う」


「ほう、女神にか。お前の口の悪さには驚愕するだろうな」


 二人は冗談めかして言うが、状況は笑えない。


 先ほどの一撃でダルンは負傷し、ルクスは体力を消耗している。


 ダルンは修復を終えれば、まともに動けるようにはなる。

 しかし、少なくとも次の一撃まではどうしようもない。


 本当にルクスの盾になるしかなかった。

 次を受ければ、どちらか、或いは両方が確実に終わる。


 だが――


「物理的な防御ならいけるのかな」


 ルクスは土の大盾と壁を展開し、備えた。

 体に無理をさせて魔法を使ったのだ。


 その表情は疲れ切ったものだ。だが、眼は死んでいない。

 

 その諦めの悪さにダルンは感心しルクスから盾を受け取る。


「動けるか?」


 短い問い。


「……無理」


 その答えに、ダルンは満足そうに笑った。


「なら任せておけ」


 そして前に出る。少年を庇うように。

 まるで、今までの空白を埋めるかのように。


 今度こそ自らの王を守るために。仕えるために。


 耐えるためにダルンは盾を構えた。その後ろには小さな王が座している。

 何が来ようとも、受け止めてみせるのだ。



「……愚かな選択を笑いません。どうか、一瞬で痛みなく終えますように」


 天上からその行動を見た女が準備を終える。


 その鎧が輝くほどのエネルギーが銃に装填されていた。

 次に放たれるのは威力も、範囲も桁違いの一撃だ。


 大戦時、彼女は遠くからバレずに撃ち続ける仕事だけをやっていたわけではない。


 その“線”の大きさも、長さも数多く引いたものの一つに過ぎない。


 守護者と少年を焼き尽くすためにそれは放たれる。


 けっして彼ら“人間”には届かぬ位置。抵抗することはできない。


 ミーナが位置するのは天空。そこから見下ろす景色には一切の遮蔽物がない。


 だがそれは()()()()()()()()()()()()()()()()


 再び、世界に“線”が引かれる。


 だがそれは──ミーナの引いたものではなかった。


「─────!?」


 それは地上から彼女目掛けて引かれた光だった。


 鎧の自動防御が働き、彼女に肉体的な損傷はない。


「こ……れは……ッ!?」


 だがミーナに直撃した光は直接的な破壊を与えない特殊なものだった。


 『アイロティシフ・ドライブ機能停止──』

 『エネルギー供給循環に異常──』

 『裁撃鉄(サドゥッジメント)へのエネルギー充填不可──』

 『反重力維持に問題発生──』


 彼女の兜のバイザーに次々と異常発生を告げる報せが表示される。


 『全制御システムに異常発生──再起動します』

 『システム──停止』


 赤と黒の鎧はその優れた機能を停止した。


「…………」


 それにより、ミーナは無様に落下した。

 

 地上から彼女を狙った存在。


 彼女の武器と同じ性能を持つであろうものを作り出せる存在。


 彼女の鎧の機能を停止させるなどという特殊な光線を生み出せる存在。


「よくも……。よくも……ぬけぬけと……。おめおめと……ッ」


 ミーナの口が震える。それまで冷静だった彼女に感情が見える。


 またもアレは彼女の邪魔をする。彼女を苦しめる。


 ミーナを育み、導き、そして裏切ったこの世界の汚点。

 その者の名をミーナは知っている。


 落下しながら第二の光が走った方へミーナは銃を向ける。


「──プロティナアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 先ほどまで別の存在を狙うために充填されていた光が、そこへ向けて放たれた。

 まったく狙いなど付けずに激情の赴くままミーナは撃ったのだ。


 空間を塗りつぶす極太の線が走った。それを直視すれば、人は目をつぶるほど眩しいものだった。


 その光と熱はすぐさま地上に着弾し、世の邪悪に裁きをもたらそうとした。


 しかし、その破壊が何かを仕留めることはなかった。

 なぜなら、そこには自動操縦の銃が設置されていただけだったからだ。


 ただの無駄玉だった。


 『システム起動開始──』


 麻痺していた機能が復帰を始める。

 さすがに落下の衝撃は鎧だけでは防げない。


 このままならば地面に触れる前にはミーナの鎧は起動完了し、再び浮くことができるだろう。


「…………っ!」


 しかし、彼女に迫る影があった。


 それは成り行きを見守っていた、小さな王の守護者のものだ。


 ミーナの予測を上回る速度で、その男はやってきた。


 物理法則を無視し、人間を──並大抵の生物を超越した速度で男は接近してくる。


「……『猛奔破(もうほんぱ)』!」


 裁撃鉄(サドゥッジメント)をミーナはその男に向けて撃つ。

 光線以外も実弾としてその銃は撃つことができた。こちらの場合は魔法を使えばいくらでも銃弾を補充できる。


 落下しながらもミーナの狙いは正確だ。的確に男の急所を捉え、その弾丸は当たった。


 だが、それを受けても男は走ってくる。

 傷は与えても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……くっ!」


 その男が鎧も付けずに戦うのは、自分の体よりも柔らかいからだ。


 彼が他人よりも走り続け、振り切ってしまったのはその肉体が強靭すぎたからだ。


 見れば、最初の線に射抜かれた傷跡もほとんどが塞がっていた。


「うおおおおおッ!!」


「かはっ!?」


 盾を使ったただの突進攻撃。

 しかし、膨大な重力を纏った一撃がミーナに直撃した。


 彼は重力を操り、自分にかかる引力を全て前方に向けていた。


 そんなことをすれば、大抵の人間は肉体がばらばらになる。

 しかし、彼は──彼の血がそれを可能にしていた。


 『ブレイブハート』。

 『サルヴァリオン』。

 『カルクルール』。


 有名で特殊な人間の名前が数多くある。


 そして、彼に流れる血も、この力が支配する暴力的な世界で“公爵”に位置するものだ。


 この王国の中心に位置する偉大な人間の末裔なのだ。


 『ルクレヴィス』。


 彼の名は──ダルン・ヴォル・『ルクレヴィス』。


 そして、『猛奔破(もうほんぱ)』の二つ名を持ちし王に仕える偉大な貴族である。


「魔王領特使ミーナ殿。ご自身が行ったことの重大さをお分かりかな?」


 ミーナを弾き飛ばし、振り返りながらダルンは問い掛けた。


「……ええ、知っています。ダルン様」


 答えながら、ミーナは立ち上がった。ダメージは入ったが、彼女の鎧もまた頑丈だ。


「ならば……その罰を受けていただく」


 この国では貴族への暴力行為は死罪とされる。そして──王族への暴力行為は一族全て根絶やしである。


 もちろんただの文章の記述でしかない。

 守られることは少ないし、過剰に守る者もいる。


 だがこの場では、魔王領の幹部を殺す理由になる。


「できるのならば、の話ですよね?」


 ミーナの鎧の再稼働が完了し、彼女がまた重力に逆らって浮いた。

 そのまま浮上していく。


「ええ、できますとも。……ふんッ!!」


 ダルンが再び自分へと重力魔法をかけた。


 どうせ防御的な意味しか持たないのだろうとミーナは見下した。


 もう彼女は彼に攻撃を仕掛けるつもりはない。

 彼女が少年を撃ったのは単なる慈悲で、執着だ。


 もうそのこだわりはどうでもいい。

 諸悪の根源を近くに発見したのだから。


 このまま離脱しようとするミーナが停止した。


「……?」


 いや、それどころか()()()()()


 反重力によって浮いているはずの彼女の鎧に再び重さが宿っていた。


「さあ、逃げずにこちらに来てもらおうか……! ミーナ殿!」


「なんと無茶な魔法を……っ!」


 ダルンを中心に世界が沈んでいた。


 ミーナは()()()()()()()()()()()


 この世界の重力を超えた重さを彼は宿して、世界の中心となっていた。


 超重力を纏った男がミーナの着地を待っている。

 その肉体にかかる負荷は想像もできない。


 大地に縛り付けられた人間がさらにその呪縛を強化し、天上を翔ける裏切りの女神に仕えた戦士を翻弄する。


「ふんッ!!」


「顔に似合わずに、なんという力技ですか……!」


 ダルンの剣とミーナ銃がぶつかる。


 鎧の機能を駆使して、ミーナはダルンを蹴り飛ばし、再び浮くことに成功する。


「逃がすものか……っ!」


「……ッ!?」


 ダルンが剣を大ぶりに振り抜くと、周辺の重力の方向が歪んだ。


 ミーナは何故か頭を逆さまにして、空中に向かって落ちた。

 

 彼女の三半規管が混乱し、若干の酔いを発生させるが、なんとか本能に逆らって理性を維持する。


 ダルンに向かって銃を放つが、歪んだ空間が弾丸を狂わせる。

 同じ狙い、同じタイミングで撃ったものが、まったく別の場所へ向かっていく。


 その間にもミーナは空間でシェイクされ続けている。


 上下左右に回転する竜巻に巻き込まれたようだった。


「はああああああッ!!」


 重力の嵐を纏った彼の剣が、ミーナに振るわれる。


 その姿がミーナには270°逆さまの状態で見えていた。


「…………!!」


 あれは全力で受け止めなければ、鎧が破壊される。


 ミーナは炎の剣を抜き放ち、それと鍔迫り合う。


 ダルンの肉体はその表面のあちこちが引き裂かれていた。

 空中に剥がれた皮膚と肉、そして血が飛び散っていた。


 しかし、それをすぐさま修復している。この力を行使する限り継続する激痛に苛まれている。


 内臓の方はもっと酷いことになっているのかもしれない。


 ミーナは反重力の防御でなんとか引き裂かれないようにしているが、そのせいで他のシステムまで復帰できていない状況だった。


 この重力嵐の中で防御の方向を失敗すれば、ミーナの体はあっという間にねじ切れる。


 彼女の鎧が光り輝く。

 それは文字通り魂を燃やしている証。


 全力で男の攻撃に抵抗していた。


 ダルンは脅威を排除し、王の安全を確保したい。

 ミーナはここから脱出し、早く汚物を追いたい。


 噛み合わずとも彼らの戦いは続いた。


 そして、その戦いの特徴が災いし、彼らは気づくことがなかった。


 大地の遥か下で起こる身動ぎ。

 王都をいじめ抜く大災害。


 それがまた起こっていることを。


 大地震がまた世界を襲った。

 恐ろしいのが、それは最初の地震が起きたことによる余震ではないということだ。


 群発でもない。


 その大地震は同じ震源から発生した。

 そして、それが複数回起こっているのだ。


 これが何を意味するのか、知る者は少ない。

 たとえ知ることになっても、その頃にはその者たちはほとんどが死んでいる。


 そしてこの地表を覆う恐怖の衝撃は──大きくなっている。


 つまり、()()()()()()()()()()のだ。


 一つの時代、一つの歩み、一つの誓い。

 それらが終わろうとしていた。


 それを鑑賞するように座る女の姿があった。


 彼女がいるのは壊れた宮殿の玉座だ。


 これから起こる悲劇を記録するために彼女はそこにいた。


 彼女に観測され記憶に残ることは、永遠を意味する。

 だから、安心して消えてもいいのだ。


 彼女は眠そうに、退屈そうに、その時を待っていた。


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― 新着の感想 ―
何でこんな脳筋が外務なんかやってたんだ…
この世界の有名な戦場帰りが、特記戦力じゃないわけがないんだな
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