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プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~  作者: 翠碧緑
2章:思春・王都動乱編

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107話 悪の愁嘆場


「何をしていた。遅いぞグリムプレート」


「ええ、ごめんなさい。用事を思い出していたら、遅れてしまったわ」


 暗い穴の中でカシアンは遅れてきたグリムプレートを叱った。


 この統制もなにもない軍隊には細かい時間指定などできるわけもなく、集合時間など設定されていない。


 それでも遅れたと言われるほどに、グリムプレートと呼ばれる女はゆったりとした到着だった。


「もうさすがに遊びはやめてもらうぞ」


「善処いたしますわ」


 それは絶対にやめることはないという宣言だったが、カシアンはそれ以上なにかを言うことはなかった。


 このあとは大事な作戦が待っているのだ。無駄な時間を消費している余裕はない。


「では行くぞ」


「ええ、よしなに」


 カシアンたちがいるのは地下に掘られた巨大な空間だ。

 そこにはカシアンの兵士たちが飢えた目をして開始のときを待っている。


 岩の段差の上に立ったカシアンが演説を始める。


「我らは生誕の時より常に支配されてきた! それは魔族からの独立により終わるかと思われた!」


 それに聞き入るのは、『弱者』に分類されたと信じる中間層たちだ。

 本当の弱者はこんなことをしている余裕などない。


「だが、終わらなかった! 次に君臨したのは宗教、階級、暴力だ! なにが独立だ! 何も変わらなかったのだ!」


 その場には熱があった。

 それは無駄に熱量があるせいで、まるで彼らが正義なのではないかと錯覚させる。


「そして、あの大戦争だ! 我らはただ貧しくなるだけだった! だがその折、我らを縛る絶対的な支配者たちが次々に滅んだ!! やっと自由が来たのだと誰もが微笑んだ!」


 彼らは武器を握りしめる。

 それは剣だけではない。斧や、鍬。さらにはただの木の棒。

 そして、自らの魂を生贄として召喚される()()()()()()()だ。


「それでも支配者は現れた!! お飾りの王が自我を出したのだ!! もうたくさんだッ!! なあ!! そうだろう!?」


 狂った咆哮がその地下空間に響き渡る。


 深く掘っていて良かったとグリムと呼ばれる女は冷静に思った。


 音を感知されたらどうするつもりなのか。

 本当に馬鹿ばかりだ。


 熱に浮かされずにその空間の壁に寄りかかる彼女は退屈そうだった。


「これより反王の意思を示す!! 諸君らの力を貸してほしい!! 行くぞ!!」


 戯言(たわごと)を大声で放つカシアンはとても気分が良さそうだった。酔っていた。

 そして彼は手に握る装置を起動した。


 それは地下の空間に設置された『魔石』に繋がっている。

 その装置により、グリムプレートが『知識の蔵』を破壊したときのような爆発を起こす。


 その爆発は支配者の集う場所を破壊し、傲慢な血を根絶やしにできるのだ。


 計算して設置された魔石が連続して爆発していく。

 それは地下空間から宮殿地下まで繋ぐ階段を形成していく。


 そして、その爆発は王都の宮殿の貴族が集う場所──議事堂を破壊するのだ。


 今ちょうどその場所では反王軍と聖国に対応するための議会が開かれている。

 そして、ちょうど王国中の貴族が集結していたのだ。


「ふはははははははははッ!!」


 その爆発を見ながら、カシアンたちは狂ったように笑った。狂気に落ちていた。


 それを後ろから見るのは、周囲から狂った女と評されるグリムプレートだ。

 だが、彼女こそが一番常識的であり、まともなのだ。


 なぜならわかっているからだ。


 この巨大な破壊兵器の設置をなぜ許されているのか。

 それは目こぼしされているからだ。


 議会の行われている時刻がなぜ正確に知られているのか。

 それはその情報を流されたからだ。


 そもそもこの議会を開き、国中の貴族を集められるのは誰なのか。

 

 それが誰なのか、彼女は知っている。

 彼女だからこそ理解しているのだ。


「くくくくく……」


 反王の意思なぞ、魔族に(くみ)する気なぞ、彼女には存在しない。


 その女はその優秀な頭脳で全てを読み切り、その上でここにいる。


 人間がどうなろうと、魔族がどう動こうと、世界がどうなろうとどうでもいい。

 

 ──()()()()()()()()


 ずっと我慢してきたのだ。鉄の面を張り付け、ここまで生きてきたのだ。

 そろそろ許されてもいいだろう。


 彼女には生きにくい世の中だった。しかし、やっと理由ができた。


 亡き夫に誓い、彼女は全力で殺戮(あそび)を始めるだけだ。


 それが────呪われた血を受け継ぐ、『ハディア・ハピフクス』の願望だった。

 




 大地が揺れる。


 それは地下に設置された化石燃料のエネルギーが暴走したことによる人為的な爆破が原因だ。


「……!?」


「なんだ……!」


「なんだこの揺れは……!?」


 宮殿の議事堂。そこで繰り広げられていた腐った会話は、その振動により打ち切られた。


 肥え太った貴族たちはまわりを見回すだけだ。

 議会の最中なのに眠っていた貴族も目をこすりながら起きた。

 議会が終わった後に女に会いに行こうと思っていた男たちもニヤけていた顔を真顔にする。


「なんか……近づいてきていないか?」


「まあ地震だ。この議事堂が崩れることはあるまい」


 それは事実だった。

 この議事堂は、いや、宮殿は守護されている。ヒビすら入ることはないだろう。


 だが、それはその守護者が働いていればの話だ。


「──え」


 間抜けな声が上がった。

 彼らが感じたのは浮遊感だ。


 まるで空に放り出されたかのよう。

 実際は大地が消えたのだが。


「うわああああああああッ!?」

「たしゅけ……っ!!」


 議事堂の床が崩落し、中心にいた豚たちが無様に落ちていった。


 その穴の深さ自体は大したものではなかったが、割れた床の破片が彼らを襲った。

 そして、彼らを潰し、引き裂いた。


「進めええええええええええっ!!」


「ひっ!?」


 そして、その穴には大きな道があった。それは階段状になっていてさらなる地下に繋がっていた。


 そこから溢れ出してきたのは、汚らしい愚民たちだ。

 着ている服も肌も髪の毛も何もかもが不潔で、臭いもひどいものだった。


 それらが巣穴から湧き出る虫のように広がった。


 汚らしい畜生が、腐った豚どもに群がり、食らっていく。


「この、下民風情がッ!!」


「ぎゃああああああっ!!」


「よくも!?」


「死ね!死ね!」


 だが、豚どもは特別な力を持っている。

 次々と虫を焼いていく。害虫駆除だ。


「む……?」


「《ガタエシ・イフシキフスフ》“……こいつらを殺せ!!”」


 しかし、虫たちの一部が少し大きな虫に変化する。


「魔物!? ひぎゃああああああっ!!」


 赤と黒でできた鎧を持つそれらが豚どもを切り裂いた。


「どけ!!」


「何を! 貴様っ!!」


 そこまで行くと余裕を気取っていた豚たちが議事堂から逃亡を図る。


「なんだ?! 開かないぞ!?」


 しかし、その議事堂は扉を重く閉ざし、虫と豚であふれかえる檻と化した。


「何を……!?」


「まさか……まさか……カル────」


 議事堂の壁を必死に叩いていた豚が誰か人の名前を告げようとしていたが、それを言う前に切り裂かれた。


「ふははははははッ!!」


 豚たちが誅殺されていく景色を見て、()()()()が笑っていた。


「素晴らしい!! 成ったぞ!!」


 それだけでカシアンは満足していた。胸がすっとしていた。

 結局は彼も不満を何かにぶつけたかっただけだ。


 理想の世界の実現など、方便でしかない。

 平らかな世界とは自分の()()()あるのだ。


「さあ!! 王はどこだ!?」


 議事堂の最奥に位置する玉座を見るが、そこには諸悪の根源たる黄金は存在していなかった。


 おかしかった。

 この議会には王も参加しているはずだったのに。


「リーダー! 王だけじゃない!! “聞こえる者(ウィスパード)”の奴らもいねえ!!」


「な……に……?」


 それは本当におかしい。

 なぜならそいつらこそ、この国の汚点ではないか。


 それでは──。

 それではまるで──。


「……なんだ?」


 議事堂の壁が輝きだした。

 それはこの宮殿の守護者による魔法だった。


「おい!? 地下が変な光で塞がったぞ!?」


「何!?」


 それは例えるなら、温度や鮮度を保つために皿にかぶせる金属製の覆い──クローシュで蓋をされた料理だ。


「……クソ! クソがあああああああッ!!」


 そしてその中を綺麗さっぱり焼く。

 出来上がるのはきっと焦げた豚と虫のとても不味そうな一品だ。


 この宮殿は一人の女に守護されている。

 だからこそ彼女は王よりも力を持ち、支配する。


 絶大な魔力を持つ女は宮殿の防御システムを全て自分で賄うことで、安全と安心を提供する。


「ふはははははははっ!!」


 その議事堂を見下ろせる宮殿のテラスにその女はいた。

 

 酒の入ったグラスを持ち、右手のフォークに刺さった肉を口に含んだ。


 議事堂が巨大な防御魔法を形成し、その中から閃光が漏れた。

 テラスの丸テーブルに座り、食事しながら女は全てを眺めていた。


 呆然として表情を無くし、消し飛んだ反王軍のリーダーの最期。

 毎回女に言い寄ってきていた鬱陶しい貴族たちが醜い死体を晒す光景を。


「ああ……美味いな」


 最高の肴だった。


 大掃除というのは気持ちがいい。気分がいい。すっきりする。


 その女こそ宮殿を支配する者。


 この世界の人間が政治力などで他人をどうにかできるわけがない。

 彼女が君臨するのは、その絶対的な防御力が故だ。


 女はこの宮殿内において、絶対の力を誇るのだ。


 本来はただのエネルギー提供のための駒に過ぎなかった一族が、いつの間にか自分のエネルギーとして人間を支配していた。


 その血の名はカルクルール。


「はあ……一番の酒かもしれない」


 その女こそ『フィンナ・カルクルール』。

 王国において王よりも上に位置するだけの女だ。


 卓上の料理に蓋をしていたクローシュをフィンナは開け、その中に入っていた美味しそうな肉料理に手をつけ始める。


 あんな痛快な喜劇を見せられれば、食も進むというものだ。


「溢れ出る魔力はこうして使うのだよ。私達が抱えるものはけっして障害などではない」


 食事をしながら、フィンナは同じ席に座るもう一人に声を掛けた。


「…………」


 その人物も先ほどの計算された陰惨な光景を見ていた。

 謀殺のなんたるかを叩き込まれていた。


 その人物はまだ成人にもなっていない少女だった。

 

 その特徴はフィンナと似ている。


 青い目。体内の異常な魔素生成。魔力酔い。

 そして愛に狂った女だ。


「その左腕の装置は中々に合理的だ。キミの魔法もな。しかし、もっと有効に使い給え」


 同じ力をもっと効率的に使えと母は娘に語る。


 それを黙って聞くのは、サフィレーヌ・カルクルールだ。


「……お母さまもわたしと同じだったのですね」


「そうだとも。ああ、勘違いはしないことだ。キミを次期当主にしたのはそんな理由ではない」


 フィンナはサフィレーヌの指摘をすぐに肯定し、なおかつサフィレーヌの長年の悩みをそんなものと斬り捨てた。


「この“宮殿”をお母さまは支配している。それがカルクルールの権力の正体」


「その通り。どうした? さっきから料理に手を付けていないね。たくさん食べて分解するのに魔素を使うといい。『消化吸収という魔法』を使うのだよ」


 それはフィンナの純粋な指南であったが、サフィレーヌはそれどころではなかった。


 サフィレーヌが宮殿に帰ってきたのは、あんな光景を支配者と見たいと思ったからではない。


「……お母さま。わたしが急にここに帰ってきた理由はわかっていますよね?」


「いくつか候補はあるが、まあ、一つだろう」


 サフィレーヌが本題に入ると、フィンナはナイフとフォークを置いた。

 そして、ナプキンで丁寧に口の汚れを拭き取った。


 先ほどまで大量殺戮を行っていた女とは思えない気品がそこにはあった。


「お母さまらしく、()()()お聞きします」


「ほう……。ふははは、いいだろう」


 娘の皮肉を交えた発言を聞いて、母はご機嫌だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 今ここにあっては当然の疑問だった。

 フィンナ・カルクルールという女は王族を利用し、その権力を維持している。


 それが一般的な認識だ。

 

 しかし、一部の上位貴族は知っている。

 彼女の絶対の保身、保全の力を。それは時に魔族すら凌駕する。


 だからこそ、彼女は王族の権力などいらない。

 女王が消えた今、新たな女王になってしまえばいい。


 たしかに黄金を宿す王族の価値はある。しかし、それは血の中にしかない。

 玉座につかせることなく増やし続ければいい。


 それでも、サルヴァリオンをフィンナ・カルクルールが残す理由。


「そんなのは簡単なことさ」


 それは単純なものだ。

 とても独善的で、自己中心的な彼女らしい理由だった。


「サフィレーヌ。キミが一番理解できるものだと思っているがね」


 フィンナにしては珍しく、言葉に詰まっているようだった。


 それを感じながらも、サフィレーヌは答えを待った。

 そして同時に胸を締め付けられるような感覚を得る。


 なぜならフィンナの言う通りその答えはサフィレーヌが一番理解できてしまうものだったからだ。


「私が────()()()()()()()()()()()()()()()()


 あれだけの暴虐を行っておきながら、その愛に焦がれた女は少しだけ人間的な寂しい微笑みを浮かべていた。


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