脅威度判定
「また、一人で来やがった。これだから転生者は甘い。ねえ、団長」
一人の騎士の野営服のような服を着た黒目黒髪の少女が、草原の小さな丘の上で、またいつもの杖を持って立っているが、何かが違う。
肘と膝には脚絆が巻いてあり、アテを付けている。
まるで、転んでも大丈夫のような装い。
そして、丘を降りて、うつ伏せで寝だした。低い位置から、地面を水平に見ている。
「おい、おい、何やってるんだ。降参のポーズが?シーフに確保の連絡をしましょうか?」
「おい、待て、このまま待機だ」
リグルーは特に考えもせずに待機を命じた。距離は500メートル以上ある。安全な距離だから無理をすることはない。
「ふ~~ん、施設偵察は基本中の基本ね・・植生の違いが・・ある。最近、土を盛り返した・・落とし穴が結構ある・・の可能性大」
「うん?」
少女は何かに気が付き、寝ながら、杖に、弾倉を付け、弾込めをした。
「弾込めヨシと」
そして、銃に対して、体を45度角度を付ける構えを取って、寝たまま打ち出した。
銃声が響く。
「おい、おい、何やってるんだ。どこに放っている。寝ながら撃つなんてお行儀が悪いな!」
「「ハハハッハハハハハ」」
「おい、まさか!」
リグルーはある可能性を思い立った。もしかして、伏兵を見抜いていたと。
簡単な隠蔽魔法を使える軍の斥候だ。
しかし、あの兵器は、近接戦闘でなければ脅威はないと評価した。
当たらないはず。
しかし、「ギャーーー」
シーフの潜んでいる草むらに着弾する。
「う・・ん。やっぱり・・いたね・・伏兵」
彼女は草原の大人が隠れるくらい伸びた藪を一発一発狙って撃っていた。
「そんなはずはない。ここから狙って撃って当たらないと過去の転生者からデーターをとってある。あの女から、シーフの潜んでいる藪まで、200メートル以上離れているぞ!」
「やってられるか!」と藪に潜んでいた他のシーフが恐怖に耐えかねて逃げ出すが、次々と当たる。
「吸う・・吐く・・止める・・撃つ・・吸う・・吐く・・止める・・撃つ」
少女は呼吸のリズムで銃を撃つ。
「ジクザクに逃げれば、エルフ射手と同じはず・・ギャ」
(何だ、逃走経路を予想して、撃っているのか。まさか)
少女はあらかたシーフを撃ち終わると、「ふう」と立ち上がり、
ゆっくりと安全を確認しながら、前に進む。
そして、7.62ミリ弾で腕が吹っ飛ばされて痛みでもがいているシーフの所まで来た。
シーフは左手で取れた右腕の根元を押さえて流血を防ごうとしている。
「う~ん。さすがね・・腕が取れた時の止血方法・・知っているのね」
その時、そのシーフとは別の伏兵が、横から投石する。少女はヒョイとよける。
「すごい・・ハラワタが出ているのに投石する・・戦士ね・・痛かったでしょう・・殺してあげるね」
銃声が響く
「敵の脅威度・・国軍の常備軍レベルで実戦経験豊富とみるべき。やっぱり・・この世界の住人・・侮っては・・いけない」
☆回想五年前
「母様、何故、銃があれば無敵じゃないの?この世界の人、銃を作れないよ」
「アリサ、私がここに来るまで、沢山、戦闘したけども一度も楽勝は無かったよ。特に魔法、強化魔法は厄介ね。あっと言う間に距離を詰められる。ポーションを使うこと前提で作戦を立てて来た刺客もいたのよ」
グスン「母様、辛かった?」
「大丈夫よ。父様のおかげで、無事この国に住むことが出来たのよ。ここには私の母国の道具や智恵があるけども、決して、この世界の人を侮ってはいけないわ」
「だってね。私が写真を見せたら、ドワーフ族の人が江戸時代末期の溶鉱炉を作って、動力はどうしようかと思ったら、風魔法で簡単に解決したのよってアリサには難しいわね。おやつにしましょう」
「はい!」
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「おい、あいつ、シーフを盾にしてやがるぞ!」
腕が飛ばされたシーフは、少女によって、前を歩かされている。
まるで、落とし穴を見抜いているようだ。
「な、なんだ、今までの奴とは違う」
たった三分で伏兵は全滅した。
「何故、当たる。あのてっぽうという奴は・・まさか、寝て撃てば命中精度があがるのか?」
異世界から来る転移者は、いつも、子供だが、こいつは、この世界の住人特有の、子供でも甘さがない。小さな大人、こいつは転生者ではないとリグルーの勘が告げる。
しかし、やや強い敵認定の範囲を出ない。
今まで、倒した転生者とは違う木の部分と鉄で出来た杖。
リグルーは思い出した。傭兵団の兄弟分から聞いた話を。
『鏖のアリサという冒険者は、少女で、一人で100人の盗賊団を殺したこともある。だから、お前、もし、黒目黒髪の、木と鉄で出来た杖を持った少女と敵対することになったら、問答無用で逃げろ』
(まさか、こいつが、いや、やや強い転生者だ。レベルはエルフ射手2,3名、あの体では連撃は出来ないだろう。な~に、いくら当たっても単発ならやりようはあるさ。練度は中ぐらいでいいだろう。一人だしな)
リグルーは知らずのうちに、連勝によって、相手を侮るようになっていた。
最後までお読み頂き有難うございました。




