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毒好き令嬢は結婚にたどり着きたい【書籍発売中・コミック連載中】  作者: 守雨


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22 炭焼き小屋の住人

「ステファン。生きていたのね」


 小さな声で話しかけた。ステファンは生きていたが、人相が変わって見えるほど痩せて弱っていた。私に気づいても起き上がれないほどに。


 すぐに全身を診る。脇腹に大きな刀傷があり、化膿し始めていた。これは……。


「薬を持ってきたわ。すぐに手当てするから。ボルダー、外を見張っていて」

「了解です」


 私はリュックから薬を取り出して持参の木の器に薬を入れ、水で溶かした。


「少しだけ頭を持ち上げるから、薬を飲んで」


 腹筋を使えないステファンのために首の後ろにリュックを当てて、木のスプーンでほんの少しずつ薬を飲ませた。ステファンの唇はひび割れていて脱水状態だった。高い熱を出す体力も残っていないのか、体に触ると微熱程度だ。

 薬が効いてもここまで体力を低下させてしまっては。危ない。


「あなたが帰ってくるまで我慢できなくて探しに来たのよ」


 スプーンで薬を飲ませながら意識して明るい声と表情で話しかけた。ステファンはひと口ずつ薬を飲み、やがて全部飲み干した。


「お嬢様」

 吐息のような、声にならない声でステファンがつぶやく。

「さあ、傷口に薬を塗るわね」


 赤黒く血が固まっている傷口には黄色い膿が集まり始めていた。私は傷口にべったりと塗り薬を厚く塗る。その上から油紙を当て、布でおなかを巻いた。


「何も心配いらないから。ハンナも待っているわ。私と一緒に帰るのよ」


 ステファンが小さくうなずく。

 まだまだ水分が足りないステファンのためにお湯を沸かして蜂蜜と少しの塩、乾燥肉、麦を入れて煮た。肉は食べられなくても出汁代わりにはなる。

 やがて鍋の中身がグツグツいい出した。カップに汁を入れて冷ます。これもスプーンでひと匙ずつ飲ませる。


「怪我は敵にやられたのよね?」

うなずくステファン。


「あの少女が助けてくれたの?」

 うなずく。


「他にこの小屋に住んでいる人は?」

 首を振る。


「じゃあ、眠って。早く体力を戻さなきゃね。生きててくれてありがとう。私をまたあの食堂に連れて行ってくれる約束を忘れないでね」


 ステファンはほんのり笑顔になり、安心したのかすぐに眠ってしまった。ボルダーが話しかけてきた。


「お嬢様は少女を待つ、私は馬車を調達。これでいいですか?」

「完璧」

「急いで行ってきます」


 私の返事を聞いてボルダーは親指を立ててニヤリと笑って出かけて行った。


♦︎


 戻って来た少女は私に驚いたが、すぐにガツガツと鍋の中身を食べながら事情を話してくれた。今日は獲物は得られなかったようだ。


「名前はノーラ。家はもう少し上にあるの。父さんは家に入って来たあいつらに殺されました。私は奥の部屋の窓から抜け出してここまで逃げたの。途中の川にこの人が倒れてた。その時はこの人もまだ少しは動けたから肩を貸してここまで連れてきました」


 敗残兵はまだ近くにいるかもしれないということか。


「食べ物はあなたが?」


「ウサギと鳥を捕まえられたけど、この人、どんどん弱って、食べられなくなって。もうダメだと思って……」


 少女が涙ぐむ。


「ステファンがお世話になったわね。ありがとう。あなたのお母さんは?」

「子供の頃に病気で死にました」

「そっか。では、ノーラ、私たちと一緒に来てくれると嬉しいのだけど」

「いいんですか?」

「当たり前よ。あなたは私たちの恩人よ。あなたが嫌だと思うまではずっと私の家にいて欲しい。ステファンは私の大切な大切な人なの」


 当のステファンは深く眠っていた。ボルダーは馬車の確保に出かけている。早く家に連れて帰りたい。


 辺りが暗くなり始めた頃、物音がした。ボルダーだろうと出迎えようとして足が止まる。複数人の足音だった。


 しばらく様子をうかがっていると、足音がこちらに向かって来た。間違いない、複数だ。


「あなたは隠れて」

 ノーラを部屋の隅に引っ張って座らせ、上から炭を入れる箱を被せた。私は物入れの陰に隠れた。ステファンは動けないからそのままだ。


 やがてバン!とドアが開いて三人の男たちが部屋に入って来た。皆、顔や腕にかなりの怪我をしている。私はポーチに手を入れて中を探った。

 男たちはガラバレス語で会話を始めた。


「なんだ、こいつか」

「まだ生きていたんだな」

「しぶといやつだ。とっくに死んだと思ってたのに」


 そう言って抜刀した。ステファンを傷つけた奴らなら遠慮はいらない。手に持っている物を何度か強く振ってから男たちに放る。二度、三度と繰り返した。


「うわっ!なんだ?」

「いてっ!噛みつかれた!」

「うわわ!蛇だ!」


 床で毒蛇が三匹シャーシャー言いながら這いまわっている。男たちは慌てていた。二人は噛まれた腕や脚を押さえていた。


「おい!女がいるぞ!」


 私に気づいた一人が叫んだ。私は立ち上がり、ポーチに入れていた手をゆっくり出す。私の右手にはウネウネと暴れる毒蛇。


「わわ!こいつ、毒蛇を持ってるぞ!」

「私を殺したら仲間も死ぬ。解毒薬を作れるのは私だけよ」


 二人は毒蛇と聞いて慌てた。まだ噛まれていない男は蛇を踏み潰そうとしてジタバタしている。蛇は興奮して頭を持ち上げて飛びかかろうとうごめく。私はステファンに駆け寄り手に持っていた毒蛇を男に向かって放り、ナイフをブーツから取り出した。男は蛇に夢中だ。

 思い切りナイフを投げた。ナイフは男の二の腕に刺さったが、すぐに抜き取られた。


「うわっ!何しやがる!ぶっ殺してやる!……あ、あ?」

 

 男が私に向かって剣を振り上げたが、剣の重さに耐えかねたかのようにグズリと床に崩れた。ナイフに塗った即効性の麻痺毒が効いたようだ。特別に濃くしたサソリの毒を使ったからね。サソリをたくさんくれたフレイチェ様に感謝!


 身を守るために毒を使う。これが正しい毒の使い方よ!


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