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毒好き令嬢は結婚にたどり着きたい【書籍発売中・コミック連載中】  作者: 守雨


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21 置き手紙

『お父様、お母様、お許しいただけないのは承知の上です。私はステファンを探しに向かいます。殿下のお話から場所がわかるのは今となっては私だけなのです。

 必ず生きて帰るつもりではおりますが、ひと月たっても私から何の連絡もない時は、遠慮なく薬師と侯爵家の跡継ぎを誰にするか、お姉さまたちと話し合ってください。では行ってまいります。エレン』



 敗残兵や野盗に捕まった時を想定して身元がわかるような物は持たず、わずかな着替えとそこそこの食べ物、今あるだけのお金、一式の薬と毒は少しずつ別棟に揃えておいた。荷物をリュックに入れて植え込みに隠してから厩に向かう。


「ちょっと馬を走らせてくるわ」

「では護衛の者を呼んできます」

「悪いわね。じゃ、待ってるから」



 護衛の到着を待たずにさりげなく馬を歩かせ、茂みの中から荷物を取り出す。門番には「そこまで行ったら戻るから」と無理のある言い訳をして、何か言ってる門番を後ろにして素早く出た。


「そこまで」と言ったが、角を曲がったらすぐに馬を走らせた。「ハッ!ハッ!」馬を急かす。私の愛馬は若い。少々のことでは疲れない。


(ステファン、生きていて。迎えに行くわ。どんな姿でもいいから、生きていて)

 

 一時間ほど走り続け、川に出た。さすがに馬を休ませ、水を飲ませた。私も水を飲む。

「ふぅー」

 草地に腰を下ろして足腰を休ませていたら馬の足音がした。嫌な予感がして振り返ったら、うちの護衛隊長のボルダーだった。


「こんなことだろうと思ってましたよ、エレン様。って、そんな嫌そうなお顔をして!」


「私を見つけられなかったことにして帰りなさい。一人で行くから。あの辺りの山のことならあなたより私の方がよほど詳しいわ」


「私が心配しているのはステファンなのです。たまたまお嬢様と方向が一緒なだけです。あ、舌打ちしましたね?侯爵家のお嬢様ともあろう方が」


「舌打ちのひとつもしたくなるわ。護衛を連れていたら捕まった時に平民のふりができないじゃない。そもそもボルダーは戦争からやっと戻ってきたばかりじゃないの。私のせいであなたに何かあったらボルダーの奥さんと子供たちに顔向けができないわ」


「私の女房子供には昨夜のうちに話はつけてあります。息子はもう十五ですので、何の心配も要りません」


「……」


「エレン様がオムツをしている時からおそばで仕えているのです。エレン様のお考えなどお見通しです。古株の使用人の勘を甘く見てもらっては困ります」


「はぁぁ……あなたを同行させたら私は使用人に迷惑をかける馬鹿娘になるじゃない」


「お屋敷を抜け出した時点で馬鹿娘と言われるのは覚悟なさるべきです。今更ですよ」


「ま、まあね。それもそうだわね。でもボルダー、私は納得するまでステファンを探すわよ」


「偶然ですね。私も同じです」


 それからは二人で先を急いだ。途中の夜は毛布にくるまって野営した。馬車なら五日かかる道のりを二日で到着した。


「この辺りなんですか?」

「人の背丈くらいの白いワシの形の岩はこの近くなの。エーリック殿下が見たそうよ」


 そこからは馬を引いて歩いた。馬のために枝を払いながら進む。しばらく歩いたら目的のワシの形の岩の場所に到着した。山奥のこの場所を言葉でなんて説明できないから私が来るしかなかったのだ。


「ここから少し逃げてから斜面を駆け降りたそうよ」

「王国軍はステファンを探したのでしょうか」

「殿下を守るための兵だもの、そんなことはしないわ。殿下を見つけてすぐに王宮に戻ったそうよ」


 王宮を出る時、そこは確認して来た。


 雨や風でだいぶ薄れてはいるが、人が通った跡があった。一人の跡ではない。しばらく斜面を下っていたらボルダーが話しかけて来た。


「エレン様は追跡ができるのですね。意外でした」

「薬草と毒蛇を探すために山歩きをするからね。自分の身を守るために山の生き物たちの跡を見分けるのも仕事のうちよ。子供の頃にステファンに教わったわ」

「なるほど」


 やがて川に出た。八人の敵兵の遺体が転がっていた。ステファンの遺体は無い。なるべく無残な遺体は見ないようにして探した。


 二手に分かれて川の手前の土のある場所を探す。しかし手前側には続きの足跡は無かった。やはり川を渡ったようだ。


 川を渡り、まばらになった木の間を抜ける。また人が歩いた跡がある。今度は二人。しかもひとつの足跡は小さい。どういうことだろう。


 さらに足跡をたどって行くと煙の匂いがした。人がいるってことだ。


 時々途絶える煙の匂いと風の向きを頼りに進む。煙を出しているのは敗残兵かもしれないから見つからないように進む。やがて煙の匂いが濃くなった。


 崩れかけた炭焼き小屋がある。煙はそこから上がっていた。私とボルダーは目と目で合図をして一度山に引き返した。


 ステファンがエーリック殿下と別れたと言う日からもう何日も経っていた。


(過剰な期待はしない。でも諦めない)私はそれをひたすら繰り返している。



♦︎



「あの小屋、沢の水を引き込んでいたから、もし敵兵がいるなら、夜にその水に麻痺薬を入れるわ」

「持ってるんですか?」

「私を誰だと思ってるの」

「うわ、笑顔が黒いですね」


 二人で小屋を見張った。


 しばらく見ていると、十歳くらいの痩せた少女が出てきた。山に向かって歩いている。弓矢を持っているから狩りに行くのだろうか。少女の姿が見えなくなったのを確認してから小屋に近づいた。


 小屋の窓に近づいて耳を澄ませた。人の気配がする。いても一人か二人。ボルダーと目配せをして入り口に向かう。


 ボルダーは剣を抜き、ドアを勢いよく開けて中に飛び込んだ。誰も騒がなかった。なので私も開いたままのドアから中を覗いた。


 粗末な藁のベッドらしき物の上にステファンが横たわっていた。



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