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毒好き令嬢は結婚にたどり着きたい【書籍発売中・コミック連載中】  作者: 守雨


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20 希望はある

 私は今、フレイチェ様のお屋敷にいる。フレイチェ様は食事が摂れなくなり寝込んでしまわれた。


 どうにか水のような薄いパンがゆを口にしてはいるようだが、顔が紙のように白く頬はゲッソリと肉がこけ落ちてしまった。


「殿下はご無事よね?」

「ええ。皆さんが探しているのです。きっと帰ってきて苦労話をたくさんお話ししてくださいますよ」

「あなたの大切な人はどうしているのかしら」

「きっと殿下をお守りしています」


 フレイチェ様が微笑む。


「殿下が何かわがままをおっしゃってないといいのだけれど」

「ステファンは大人ですから、上手に収めてくれていますよ」


 二人で現実逃避していた。


(もう生きていないのでは)などと口にしたら現実になりそうで。


 なぜエーリック殿下とステファンだけが見つからないのか。




♦︎




「お母様、私がステファンを探しに行ってはいけませんか」

「もう少し待ちなさい」

「もしかしたら怪我をして動けないのかもしれません」

「それでもです。あなたが捕まって取り引きの材料にされたらどうするの。殿下のために王国軍が残って探しているのならあなたはここで待つべきです」


 わかってる。それが正解なのはわかってる。でも、と大声で文句を言いそうになり私は居間から走り出た。ハンナが心配して付いてきた。


 自分の部屋に入り、ベッドの布団に顔を埋めて声を隠して泣いた。


 泣いてる私の背中をハンナがさすってくれた。ハンナこそ自分の兄が戻って来ないことを悲しんでいるのに。


「ハンナ、どうしよう。どうしよう」

「大丈夫です。大丈夫ですから」


 二人で抱き合って泣いた。もう会えないのだろうかと思うと、体に大きな穴が空いたようだった。



♦︎



 数日後、エーリック殿下が探索中の王国軍の前に現れて保護され、王宮に戻られたという知らせが我が家に届けられた。


「エーリック殿下からお話があります。王宮までエレン様にも来て欲しいとのご希望です」


 そう言われて父と私が出向いた。




 エーリック殿下の部屋に通された。殿下は痩せて顔色も悪い。それでもきちんとした服装に着替えて椅子に座って私たちに向かって頭を下げられた。


「エレン、すまない。僕を逃すためにステファンは犠牲になってくれた」


 犠牲?犠牲ってどういうこと?頭の中がシンと冷えていく。



「海に向かって進んでいた時のことだ。山の中からかなりの数の敵兵が飛びかかってきた。我が軍が私を守って戦っていたのだが、敵も引かなかった。奴らが次第に僕に近づいてきた」


 殿下は苦しそうなお顔でお話をしている。


「やがて我が方の陣形が崩れて、あわや僕に敵兵が襲いかかるという時に、共に行動していたボウエン家の私兵の一人が、わずかな隙を見て僕の腕を引いて山の中へと走ってくれた。それがステファンだった」


「それで?それでどうなりました?」


「ステファンは僕の腕を引いてだいぶ離れた場所まで走ってくれたが、僕が疲れて休むと敵が近づく、を繰り返していた。ついに僕の体力が限界で走れなくなると、ステファンは僕を木の枝や落ち葉で覆って、隠してくれた」


 エーリック殿下がそこで水をひと口飲んだ。


「僕を隠し、自分の水と食料を全て僕に持たせて見張っていたが、やはり敵が近づいて来た。ステファンは『絶対に動かず声も出さないように』と言って自分から敵の前に飛び出して、そのまま敵を誘導するように斜面を駆け降りて行った。僕はそのあと食べ物が尽きるまで隠れていた。数日してから方々を探していた王国軍によって発見されたのだ」

 

 エーリック殿下が両手で顔を覆った。


「僕が非力なばかりに多くの兵が死んだ。ステファンも僕のために犠牲になった。すまないエレン」


「お待ちください。殿下はステファンの最期を見てはいらっしゃらないのですよね?」


「見てはいない。だが、ステファンを十人以上の敵が追いかけて行った。とても一人では……」


「どんな場所だったか、何か覚えてはいらっしゃいませんか」


「森の中ゆえ、これと言って……。ああ、逃げる途中だが、白いワシのような形の岩があったくらいか。それも大きくはない。大きさは僕の身長くらいだ。そこを通り過ぎてしばらくして僕は走れなくなり、ステファンが隠してくれた」


 父は暗い顔をして下を向いた。でも誰もステファンの最期を見ていない。それなら生きているかもしれないではないか。


「殿下、お話しして下さりありがとうございました。希望が持てました」


「いやエレン、しかし」


「大丈夫です。遺体が出ていないのなら、ステファンが生きている希望はあります」


 そう言い張る私が痛々しく見えたのか、誰も何も言わなかった。気まずい空気のまま、私と父は屋敷に戻った。




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