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第三十四話

 ギターを抱え、コンビニで待っていると再びLINEの着信音が鳴った。


「はい……」

「もう着いてる? ……あー、いたいた」


 そう言って電話を切ると、黒いハイエースが僕の前に止まった。


「いきなり悪いな」

「やっほー! 今日しかタイミングないと思ったんだよねー!」


 助手席に座る雅人さん越しに、ジュンさんの姿が見える。二人ともTシャツのラフな格好になっているのがわかる。


 雅人さんは車を降りると後ろのドアを開けた。中にはアンプやプラスチックのケースが積まれているのが見える。


「狭いけど、乗ってくれよ」


 僕は周りを少し見渡し、車に乗り込んだ。側から見ていると拉致された様にも見えるかも知れないがあながち間違ってもいない様な気がする。


「あのさ、そのギターギブソン?」

「はい……SGというモデルです」

「SG位わかるよ、結構いいギター使ってんだな」


 ジュンさんはスタジオを目指し、車を走らせているのだろう。最初の印象の通りよく話しかけてくる人だった。


「あの、撮影してたんですか?」

「そうそう、この近くに広いスタジオがあるんだよ。PVなんかはそこで撮っててさ」

「なるほど……」


 目的のスタジオには直ぐに着いた。PVを撮影した場所ではなくこの辺りに来た時に使う所なのだという。僕らは車を降りるとスタジオのビルの前に細身の女の子が手を振っている。


 えっ……美波ちゃん?

 髪型が少し違う事に気がつき、近づいていくと美波ちゃんより背が高いことが分かる。


「ジュンさんほんま遅いわ……」

「……カナさん?」

「ちょっとまって、カナもわかるのに俺はわからないのかよ!?」


 ジュンさんはふてくされた様に呟く。


「はぁ、ジュンさんまた誰か拾ってきたん?」

「雅人の知り合いらしいぜ?」

「いや、俺もたまたま会っただけなんだけど」

「マジかよ?」

「俺いいましたよね?」


 美波ちゃんの好きなカナさんが居る。動画やCDショップで見ただけだったけど、ヒロさんの言うように彼女は美波ちゃんに似ていた。


「カナに惚れたかぁ?」

「いやいや……知り合いがファンで」

「そこは『僕が』って言うたらええやん?」

「……はい」


 少し冷静さを取り戻してきた僕はとんでもない所に来てしまったのだと思った。


 ヒロさんからは、ハンパテから雅人さんを引き抜いたと聞いていただけに仲が良さそうな事に少し驚く。事実だけでは見えない事も沢山あるのだと思った。


「でもまあ、好きなんやったらその子も呼んだらええんちゃう?」

「いいんですか?」

「折角やしなぁ。そうや、スマホだしてみ?」


 するとカナさんは僕の隣に寄せるとスマホで撮影した。


「これ送ったらすぐ来るやろ! うちが迎えに行ったるわ」

「マジすか……」


 案の定写真を送ると、直ぐに電話がかかってきた。


「ちょっと祐樹、どういう事?」

「あ、いや。僕もいまいちよくわからないのだけど……美波ちゃんも来る?」

「行きたいけど、今11時だよ?」

「カナさん迎えに行ってくれるって」

「嘘でしょ? ちょっと待ってて直ぐ準備する……」


 やり取りを見ながら三人は笑っている。家の近くの待ち合わせ場所を決めると30分後に待ち合わせる事になった。


「待ち合わせまで時間あるし準備しよか!」


 車に積んでいた機材をスタジオに運ぶ。量が多い事もあり僕もそれを手伝った。スタジオに入り、素早く機材を当たり前の様に素早く組み立てると音を出す。確認の為に弾いているフレーズの時点でレベルが違いすぎるのだと分かった。


「えっと……SGくん?」

「あ、祐樹です」

「祐樹はどちらかと言うとバッキングスタイル?」

「バッキング?」

「コードが主体で弾くとでも言えばいいのかな……」


「あ、はい。基本的には……」

「ならちょうどいい。俺はリードギターが好きだからな!」


 そう言ってジュンさんは滑る様にギターを奏でた。速く細かい……それにこれだけ早く弾いているにも関わらず凄まじく安定している。


 レベルが違いすぎる……。


 そう感じでいるとギターの音が止まる。


「まぁ、あんまり気にせず弾いてくれよ。ギターは別に上手い方が偉いわけじゃない、ただ楽しみたいだけなんだしさ!」

「あ、はい」


 僕はギターを構え、ムーンリバーのフレーズを少し弾いた。


「いやいや、結構弾けるじゃん?」

「まぁ、カバーなんですけど……」

「なるほど、カバーって事はアレンジを考えたわけか……」


 すると三人とも僕の方を見る。なんとも言えない緊張感が湧き、僕は背中から汗が溢れて来るのを感じた。


「その曲、歌いながら弾ける?」

「はい、バンドでもやっている曲なので」

「ちょっとワンコーラス歌いながら弾いてみてくれない?」

「ボーカルじゃないので歌は下手ですけど……」


 建てられたマイクの前で、僕はムーンリバーを歌いながら弾いた。すると雅人さんが合わせる様に叩き出し、カナさんもベースを弾き始める。


 高田さんとは違う音圧のあるドラム、まるで元々そうだったかの様なベースライン。更にはジュンさんはその音に乗せる様にムーリバーのメロディを崩した様なフレーズを入れ始めるとワンコーラスが終わった。


「なるほど、ムーンリバーか! それより雅人……祐樹の弾き方……」

「ですね……」


「えっ、何かおかしいですか?」

「必死さはあるけど、いいセンスしてると思う」


 そう言うとジュンさんはギターを弾き始めた。さっきまでとは違うシンプルでキャッチーなリフ。みんな知っているのか完成度の高いセッションが始まったかと思ったら直ぐに止めた。


「祐樹もコードで入ってきていいんだぜ?」

「いや、そんな……アドリブでなんか弾けないですよ……」

「この曲弾いてないのか?」

「いや、そもそも知らないですし……」


 そう言うと、スタジオが凍りついた様に音が止んだ。


「なんでそんなヒロタカみたいなフレーズ弾けてるのに、s.o.bの代表曲知らないんだよ……」

お読みいただきありがとうございます。


その人の音って分かりますよね!


♪♪♪


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