第三十三話
「いや、神とか言われましても……」
僕がそう言うと慣れていないのか、恥ずかしそうに顔を赤らめる。よく見るとかなりの筋肉質、修行とかでは無いように見える。
「あ、いや……そういう設定なので」
設定ってなんだよ。
ただ、この人は確かに『ヒロタカ』と口にした。僕はその事が気になっている。すると彼はベンチから立ち上がった。
でかっ!
恥ずかしそうな雰囲気からは想像出来ないくらいに、彼は180を超える身長と厚い胸板で狭山より更に大きく見える。例えるなら野生の武将だ。
「いや……今のバンドがそういう設定なんだよね」
彼はあっさりと神という設定を投げ捨てた。
「バンドの人なんですね」
「ああ、ドラムを叩いているのだけど今のギターが少し変わった人でね。慣れるためにこの格好で街を歩いているんだ……」
彼のバンドは、勢いのあるリーダーなのだと、少し狭山が可愛く思えてきた。
「そうなんですね……」
僕は、少しだけ気の毒に思えてそう言った。
「そう言えば……いや、そんなわけ無いよな」
物憂げにそう言う彼に、僕はヒロさんの事に触れるのでは無くバンド名を呟いた。
「s.o.b……」
「なんだよ……俺の事、知ってたのか」
「えっ……」
「s.o.bのドラムだってわかってたんだろ?」
この武将の様な人が、ヒロさんの言っていた雅人なのだろうか?
「まぁ、今は……」
「SAVE THE GOD」
「ジュンさん来たんですか!?」
言葉を遮る様に現れたのは、モーゼの様な布を纏った細身の男。背は少し高いがこちらも髪が長く髭を伸ばしている。
「やっほー! どうよこの衣装、神々のバンドって感じがするだろ!?」
異様な雰囲気を纏うルックス。だが、その見た目からは想像も出来ないくらい軽い口調で、その男は現れた。
「雅人は慣れたのかよ? ……って言うか知り合い?」
「ああ、s.o.bを知ってくれてる人なんだ」
「そっか……」
そういうと、ジュンと呼ばれるモーゼは少し暗い顔をした。
「まぁ……そうだな。SAVE THE GODもすげー曲やるから聞いてくれるよな!」
僕はコクリと頷く。神々の見た目でバンド名が神を止めるというのは如何な物かと思ったが、ヒロさんのバンドのドラムという事もあり、どんな音楽なのかは気になっていた。
変な格好の二人と、僕。
多分この二人は凄いアーティストなのだろうと思う。
「ねぇ、高校生?」
モーゼはそう言って、僕に聞いた。
「はい……」
「そっか……雅人……いや"神ですゴッドです"も高校生なんだぜ?」
「そうなんですか?」
「俺たちはさ、この神々が怒り狂った様な世界を神の力で止めようとしている」
「あ、それでSAVE THE GOD……」
「そう、なんか深刻な話を笑い飛ばしてやりてーじゃん?」
「そうですね……」
なんとなくこのバンドのコンセプトがわかった気がした。
「なんだよ、雅人はわかるのに俺は分からないわけ? やっぱメジャーってすげーんだな」
「ジュンさんそれは言わないで下さいよ」
「だからゴッド、イエスと呼べって言ってるだろ!?」
雅人さんの反応から、モーゼのジュンさんが一目も二目も置かれているのがわかる。
「あの……僕もギターやっているんですけど」
「マジ?」
「はい……」
「それならセッションしちゃう?」
「ちょっとジュンさ……イエス様……俺たちこれから撮影なんですけど……」
「そうだったかぁー。それじゃまた後日だな! アンプとかはあるからギター持ってこいよ!」
爽やかにそう言うと、布を膝まで捲りながらガニ股で公園を出て行った。雅人さんは腰を落とし、
「それじゃ、俺等は用事あるから……」
そう言ってスマートフォンを取り出し僕らはLINEを交換した。
帰り道、彼とこの場所で会ったと言う事に、何処か運命的な物を感じずにはいられなかった。
家に着くと、僕はs.o.bを調べる。案の定、この日会った人と格好は違うが同じ人だと言うのがわかる。その写真の真ん中に黄色のパーカーを着ている人物が見えた。
「ヒロさん……一体どこに行ったんですか」
忘れもしないその姿に、僕は目を潤ませた。
だからといって、僕には時間がない。あと一曲を完成させ狭山が進める様にしなくてはならない。
そう考え、僕はギターを走らせた。
弾き方にも慣れ、以前よりは大分弾けるようになったと思う。自分の音……ヒロさんと言う装備を外した僕はオリジナルを作るのにはここまで弱いのかと痛感する。
しばらく弾いて、諦め掛けた頃に僕のスマートフォンが鳴った。
普段通りのLINEの呼び出し音に、表示をみる。そこには"神ですゴッドです"とふざけた様な名前が表示されていた。
「はい、もしもし」
「あの、昼間の高校生だよね? 祐樹で合ってるのかな?」
「はい……」
「申し訳ないのだけど、今から出れないかな?」
「今からですか?」
「ああ、ジュンさんが呼べって聞かなくてさ。あの人こうなるとどうしようもないんだよ」
「別に行けますけど……」
そう言って、僕は近くのコンビニを伝えると車で迎えに来てくれる事になる。もちろんギターを持って来いとの事だ。
今からスタジオにでも行くのだろうか……。
不安と期待の中、僕はギターをケースにしまい、家を出る準備を整えコンビニに向かった。
お読みいただきありがとうございます。
この先変化が訪れるかも知れません。
♪♪♪
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