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第十六話

 バンドのメンバーが決まった日。この日は夜までバイトがあった。スーパーの裏方野菜を延々と詰めたりパックしたりする仕事。


 仕事中もバンドの事を考えていたはずが、僕の妄想は膨らんでいき家に着くと大盛況のライブをしている所から恋愛の世界に入り込む。


「ねぇ、祐樹はあたしと高田さんどっちが好きなわけ?」

「それはもちろん、美波ちゃんだけど」

「酷い。西村くん、さっきまで奏に気がある様な事してたのにぃ」


「ごめん……僕は、美波ちゃんが好きなんだ」

「祐樹……」

「美波……」


 こうして二人は一夜を共にする事となる。

 そう、これは太田のエロゲの中の世界だった。


 あいつ、なんで物を作ったんだよ。と言いたい所だけど、名前を設定したのは僕だ。


 綺麗な萌絵に、いかにもなゲームサウンド。ヒロイン達に名前をつける事ができると言う妄想要素の詰まった作品だ。


「太田がこれ作ったのか……」


 彼のふくよかなボディが頭をよぎり、僕は現実世界に戻されてしまった。ただ、その予想していたより遥かにクオリティの高い作品に尊敬と共に嫉妬のような感情が生まれるのを感じた。


「おっエロゲじゃないっすかー。祐樹くん、エロ本が見当たらないと思ったらそっち派すか?」

「ち、ちがいますよ」

「それで、美波ちゃん? 奏ちゃん? どっちで妄想したの? えっと選んでいるキャラは……金髪のショート……」

「わわわわわー!」

「あらあら、中々一途でございますのね」


 ヒロさんが冷やかして来る中、僕は落ち着いた口調で呟く。


「これ、クラスメイトが作ったんですよ」

「マジで? 今の高校生ってすげーんスね……なになに、俺もちょっと……あ、キーボードを押してもらっていい?」


「いやいや、嫌ですよ」

「はぁ? なんだよ。つまんね……」

「なんでマジ切れしてんですか!」


 最近ヒロさんは暇なのか、勝手に家にくる様になった。特に気にはしていないがある意味心霊スポットだなと思っている。


「それで、やりたい曲は決まったの?」

「いや……そもそもあんまり音源もないので」

「なんか適当に名曲でも教えてやろうか? 気にいった曲みつかるかもよ?」


 そう言って、ヒロさんはYouTubeを開く様に言った。教えてくれたのは、五曲。どれも全く違う音楽らしい。


 一曲目はニルバーナのスメルズなんとかという曲。重苦しい雰囲気に枯れたギター。今まで聞いたことない様な雰囲気に飲み込まれる。

 

「なんかカッコいいですね……」

「だろ? このボーカルギターのカートコバーンは、ショットガンで自殺しているんだけど……」

「ちょっと、ちょっとそういうのはやめましょう? 今からやるバンドの曲ですよ?」

「えー、ロックなのになぁ……」


 続いては二曲目。

「セックス・ピストルズの……」

「わーっ!」

「どうしたんだよ?」

「このバンド名を女の子の前で言う僕の気持ちになって下さい!」

「気にしすぎだよ……バンド名なら遠慮なく言えるという特権がだな……」

「ダメです!」


 三曲目……。

「マリリンマンソン、どの曲でもいいけど、とりあえずはザ、ビューディフルピープルかな」

「題名からは想像出来ない位、凄く邪悪な感じですね……」

「ステージでは聖書燃やしたりとか色々やる人だからね、そういう所も完成されてるよ」

「いや……まともな人居ないんですか?」

「まともまとも! 前職は弁護士らしいし」

「余計にまともに感じないです……」


 それから五曲と言っていたのだけど、ヒロさんは色々な音楽を聞かせてくれた。洋楽が多いのは影響を受けたからなのか、あまり触れにくい事を考えてくれたからなのかは分からない。


 その中で僕は、ムーンリバーと言うジャズの曲がきになった。


「うーん、渋いな、刺さったのはジャズか……」

「ジャンルはよくわからないですけど、メロディと雰囲気が凄く好きですね」

「この曲はカバーの定番曲だけど、初めてやるには結構難しいと思うんだよな……」


 ヒロさんはそう言うと、間を開けてメモを取る様に言うと歌詞を書く様に言う。言われるがまま歌詞を書き終えると、そのまま上に彼の言うコードをつける様に言った。


「BPM160くらいで合わせてエイトビートで弾いてみて?」

「えっ……このコードですか?」

「そう」

「速すぎません?」

「いいからいいから!」


 僕はそのコードに合わせて、テンポを取るためクリックを出し弾き始めた。


 すると、彼は合わせて歌い始める。

 テンポが早く、音も違う。だけどそれは紛れもなくヒロさんのムーンリバーだ。


「凄い、凄いです!」

「うーん。スタートのザビは、ミュートしながらパワーコードにしてみようか!」


 言われるがまま、弾いてみると曲に流れの様なものが生まれる。彼はそのまま目で合図を送る。


 僕は雰囲気に合わせて単音を撫でたり、まだちゃんと音の出ないフルコードで弾いたりしてみた。


 まるで、オリジナル曲の様なその曲は僕の心を掻き立てる。今出来る全てで弾かなきゃ……。


 この世界感を作り上げなきゃ……。


 弾いていたのはほんの二分位だったのかもしれない。だけど、その瞬間は物凄く長いように感じた。


「うん、詰めれば良さそうだな!」

「いやいや、なんなんですか! 何者なんですか!」


 テンションが上がり、言葉が出ない。

 ヒロさんは頭を掻きながら恥ずかしそうに、


「プロならこれくらいは誰でも出来るっすよ? これでバンドの曲出来そうっすね!」


 今までの練習は繋がって居たんだ。


 僕はこの時初めて、この幽霊の……

 いや、ゴーストプロデューサーの凄さを知った。

お読みいただきありがとうございます。


ここでやっと、タイトル回収です!

引き続き書いていきますので宜しくお願いします!


♪♪♪


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