第十四話
ドクン……。
心臓部の鼓動が一度大きく脈を打った。
「えっと……どういう意味かな?」
「マルコでもそうだったけど、時々誰かと話しているよね?」
気付かれていた。
見られていない物だと勝手に思っていた。だけど、本当の事を言っていいのだろうか。いきなり幽霊が見えるなんて頭のおかしい人だと思われたりはしないだろうか。
「俺は構わないっスよ」
ヒロさんは、仕方ないよねと言った表情でペロリと舌を出し頭を掻いた。だけど、僕はヒロさんの事は言わない事にした。
「曲を考えててね。バンドでオリジナルを作りたいと思ってるんだ」
「オリジナルって自分たちの?」
「うん……まだ、作った事は無いんだけど僕の中のリトル祐樹と話してこのアイデアはどうだろうって……」
「なんか、スポーツ選手みたい」
「作り方わからないから模索するしか無いんだけど」
納得してくれたのかは分からなかった。だけど、彼女はそれ以上は言わなかった。
「誰がリトル祐樹だって?」
ヒロさんは目を細めて僕の顔をみる。だけどすぐに不敵な笑みを浮かべ怪しく口角を上げる。
「これで、オリジナルを作らなくちゃいけなくなったっすね」
多分、彼の事を言わず曲の話をしたのは、隠したい気持ちもあるけれど自分を追い込みたかったのかも知れない。
彼女が好きな物。それに応えたい気持ちと、自分のやりたい事が一致したのだろう。日が沈み母に言われて美波ちゃんを送った帰り道ヒロさんは僕に言った。
「母グッジョブだったよな!」
「いやいや、無茶振りすぎますよ本当に」
「でも、送って行きたかったんだろ?」
「まぁ……」
夕日が赤く僕らを照らす。長く伸びる影が一つ帰り道を染める。
「その影、これからの道みたいに見えない?」
「いやいや、途中で切れてますよ」
「でも歩けばそのまま伸びて行く……」
「ヒロさんは無いですね……」
「俺の道はうえなんじゃないっスかね」
そう言って空を見上げ、真剣な声で呟いた。
「多分曲のテーマってこういう何気ない日常の中から違和感を探して行く作業なんだと思う」
「違和感ですか?」
「そう、どうして影がないんだろう。道はないのかも知れない。あの子は何故家に来たのだろう?」
「それって答えあるじゃないですか」
「本当に?」
「ヒロさんは幽霊だから影は無いし、同じく道がなくても落ちたりしない。美波ちゃんは、ベースを教えてもらいに来た」
僕はそう、自信満々にヒロさんに言った。
自分から彼に教える機会なんてそうそうある事じゃない。
「そっか……祐樹にはそう見えているんスね」
「そう見えてるって……そうじゃないですか?」
足を止める。
聞き返した僕自身なにか引っかかる物があった。
「祐樹とどうして話せるのだろう。俺はずっと疑問に思っていたんだよね。影もない目的もない俺が……この目線からは謎しかない」
彼の言葉は、僕にも疑問を抱かせる。
「美波ちゃんは、本当にベースを教えてもらいに来ただけなのだろうか? それならマルコに行ったのは何故? 別に家じゃなくてもよかったのでは無いだろうか?」
「それは……」
頭の中で『固定概念』という言葉が浮かぶ。ヒロさんの言っている目線とはこの事なのだろうか。
「自分の目線で作品を作る事は悪い事じゃない。だけど、相手が全く違う目線を持っていると言うのは意識しなくちゃならない」
「聞き手の為に?」
「価値観を合わせる必要は無いけど、自分の価値観と同じ人に伝えようとするのと、違うと考えて伝えようとするのとでは伝え方が違ってくるだろ?」
確かにベースを習いに来ただけの人にベースを教えるのと、僕の家を見たい、知りたいとも思っている人に教えるのは違うかも知れない。
「祐樹と初めて会った時、自分は平凡だと言っていた。多分それは得意な事が無いと思っていたからだろうし、今でもそうは思っていない」
「僕は、平凡ですよ……」
「天才と平凡の差はなんだと思う?」
「それは……直ぐに出来たり……」
「だとしたら、直ぐにとはどれくらいの速さで出来れば祐樹は天才だと思うんスか?」
問いかけに、僕は言葉を詰まらせた。今ヒロさんくらい弾けたら……でもヒロさんがどの位かは分からないし。そしたらRISE UP位弾けたら……ならRISE UPはどうなるんだろう。
「俺は天才というのは客観的な物だと思う。多分、あの年で化け物みたいなハン☆パテですらそうは思って居ない……けれど、そんな事少しも考えて居ない位に間違えていても自身を持っている様な凄みを出せるのが天才なんじゃないかな?」
「そしたら僕は一生なれないですね……」
「自分ではね。だけどそれは俺もそうだよ、だから色々考えてしまうし積み上げて行って少しでも理想に近づきたいと思っている」
ヒロさんはまた、少し寂しそうな顔をした。だけど以前の様に彼の言葉がただの謙遜だとは思えなかった。
「祐樹はこれから何を伝えて行く? 音楽である必要はないけど、この世界は日々変わって行っている。俺が助けられるのはしがみつける間だけだというのは理解していて欲しい」
真剣な眼差しでそう言うと、急に表情を緩めた。
「でも、美波ちゃんは祐樹の事結構いい感じに思っている気がするんスよねー。いいなぁ、俺もあんな可愛い子とバンドしてぇ……」
「付き合いたいじゃないんですね」
「何言ってんだよ、付き合うまでのドキドキ感が一番いいんスよ!」
一気に空気を変えたヒロさんは、多分生粋のエンターテイナーなのだと思う。楽しませたいと思う対象はお客さんだけじゃなく周りの人こそそう思っているのかも知れない。
その晩僕は、いつも以上練習に精を出した。
お読みいただきありがとうございます。
またまたレビューありがとうございます( ´∀`)
今回はオリジナル作りでの話でした。ヒロさんの嫉妬や挫折、それを超えての今の立ち位置。さらには幽霊になってからの葛藤を書いた回ですが、上手く書けているだろうか……。
♪♪♪
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