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千紘と樹

 図書館でまずはインターネットを使い、千紘の特徴を入れて調べていく。似てるようなワードを抽出して出てきた情報を調べていくと、時間はかかったけど気になる記事を見つけた。

 5年前。まだ秋に差し掛かる前のこと。その日付の新聞を勇気が見つけ、他にも関連してそうな記事を沙世も探し出してくれた。

 パソコン前でそれぞれ確認していく。まずはネットで発見した記事だ。

 それは千紘と似たような特徴の人が山で遭難した話だった。

 山はここから車で20分ほどの距離の山で、秋には見事な紅葉が見れるお出かけスポットになっている。そこで遭難した話はあまり聞いたことがない。


「えーっと……」


 図書館ではお静かに。小さい頃から教えられている通り詳細を小声で読み上げる。

 山には林道がありバイクや自転車が良く通る。沢の先に休憩所があり、そこに新品のバイクが乗り捨てられていた。

 偶然発見した非番の警察官とその家族が不審に思い、頂上を目指しながら辺りを捜索。休憩所から歩いて100メートルほどの位置に、バイクの持ち主と思わしきスマートフォンが落ちていた。

 呼び掛けても返事はなく、確認のために数メートル下を覗き込むと、ライダースジャケットを着た男性と思わしき人が落ちていた。

 急いで警察と救急に通報。病院に搬送された。不審な点は見られず事故と見られている。


「………新聞の記事も同じような感じだな」

「念のためコピーしない?」


 これが殺人事件に繋がるかなんて分からないけれど、似た人の話は何でも手元に持っておいた方が良い。

 それでも殺人事件ではなく、ただの事故だったことと、詳細は書かれていないが事故にあった人も無事だったようでホッと胸を撫で下ろしてしまう。

 あの不審者は何のことを言っていたのだろう。そう思いながらコピー機を探していると、係員が話しかけてきてくれた。


「コピーですか?」

「はい」


 こちらですよと案内してくれた係員は、菜緒の手元を見て首を傾げる。


「昨日も同じ日付の新聞をコピーした人が2人いたな。同じようにこの記事開いてたような……違ったかな?」


 そのどちらもコピー機のありかを聞いてきたらしい。同じ日付の新聞の同じ記事を開いてた。怖さと不気味さで背中に寒気が走る。


「どんな人でしたか……?」


 恐る恐る聞く勇気の言葉に悩んだように係員が呟く。


「1人は男性で、これとは別にもう1枚コピーしてたかな?もう1人は綺麗なマニキュアをした女性だよ」

「……マニキュア……」


 勇気が呆然と呟く。沙世は首を傾げていたが、菜緒はもう手足が冷えていくのを実感する。

 勇気から聞かされていた先日の話と、昨日コピーをした人。恐らく全て可那子だ。


「その人はこの1枚だけ凄い急いでコピーして、入り口で男性に渡してたね。皆何をそんなにコピーしたがってるんだい?」

「ちょっと課題で調べたかったんです」


 沙世が係員の質問に答えている間も、寒気がどんどん強くなっていく。

 男性。可那子の話では旦那さんは出張中だ。だとしたら誰に渡したのか。

 3人で係員にお礼を言って、逃げるように元の場所に戻る。


「何だってんだ?」

「そんなの分かんないよ」

「……ねぇ、ちょっとこれ……」


 高校生が考えるには分からないことばかりだ。沙世の呼び掛けに視線を移すと、沙世の顔色が随分と悪いことに気がついた。

 沙世が見ていた記事の内容を見ると、菜緒と勇気の顔色も蒼白していく。

 先程と同じような記事。でもそれはその後の詳細を教えてくれる物だった。

 病院に搬送された男性は2時間後に死亡。小さく顔写真と氏名が印字されている。


「樹さん……」


 記事が間違いだと信じたい。でも、そこには確かに瀬浪樹。享年20と書いてある。


「嘘。だってこの間も一緒に仕事したよ?」

「……喫茶店に行こう」


 いつも話していた人が死んでいた。そんな話があって良いのか。混乱する頭の中で、勇気の言葉に頷く。あの不審者の言っていたことは、きっとこの事だ。真実を知るために千紘と話さなくては。ここまで来たら行くしかないと、3人で喫茶店に向かう。



 ***



 ***



 お店に入ると美樹が1人で営業していた。店内にはお客さんもいないし今がチャンスだ。

 カウンター席の前に立ち、どうしたの?と首を傾げた美樹にコピーした2枚の記事を差し出した。

 みるみるうちに表情を強張らせた美樹は、そう……と呟き悲しげに微笑む。


「ちょっと待ってて」


 エプロンのポケットからスマホを取り出し、どこかに連絡をしている。程なくして繋がったのか、微笑みながら言葉を紡いだ。


「樹のこと菜緒ちゃん達にバレたわよ。うん。今来てる。わかった」


 スマホをタップして通話を終え数分後。荒い息をさせ喫茶店に入ってきたのは、メガネをかけてヤボったさがある千紘だった。


「千紘さん」

「菜緒ちゃん……」


 不安そうな表情で見ていたせいか、近づいてきた千紘はいつもの柔らかい笑みを浮かべる。

 菜緒の目の前でメガネを取る光景は初めてだ。

 おもむろにメガネを取り、ボサボサ頭を軽くセットする。美樹から渡された、黒目に見えるようにするコンタクトを入れる。


「……高校生の癖に探偵を出し抜くとは良くやるな」


 現れたのは、どこからどう見ても樹だ。あの記事での内容では死んでいた樹がいる。混乱する頭の中で、千紘が演じる樹に抱きつく。


「千紘さん、樹さん……!」

「……ごめんね。菜緒ちゃん」


 樹の格好で千紘のように謝られても混乱するばかりで、ボロボロと涙が止まらない。


「答え合わせする?」

「……うん」

「分かった」


 コンタクトを外しケースに入れ、メガネを付けて乱雑にボサボサ頭に戻す。


「姉さん」

「もう呼んだわよ。すぐ来るって」


 誰を呼んだんだろう。そう考えながら何となく上を見上げると、困ったように微笑む千紘の姿があった。


「僕、樹を演じてはいたけど、こうして抱きつかれるのはやっぱり慣れないんだよね……」


 頬をちょっぴり赤く染めて恥ずかしそうにしている。その姿と自分が今千紘に抱きついてしまっていることに気がつき、絶叫しながら後ずさる。


「ごめんなさいごめんなさい!」

「むしろこっちこそごめんなさい」


 互いに謝り続けていると、何してんだ?と入り口から声が聞こえてきた。

 そこにいたのはいつぞやの警察官と不審者。


「ちなみに不審者じゃなくて記者よ」


 隣にやって来た美樹にこそっと耳打ちをされ、あの不審者が記者だったことに漸く気がついた。答え合わせの始まりだ。







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