明日も元気に
警察の追求により菜緒を拉致したことは勿論、樹の殺害や当時付き合っていた恋人の殺害についても自供したそうで、当時の警察の対応はどうだったか、何故今発覚したのかなど連日世間を賑わせている。
動機は松田が言った通り、彼女を奪われた復讐で樹を殺した。樹が生きていると思った松田には再び憎悪が芽生え、近しい相手である菜緒を殺そうとしたそうだ。共犯だった可那子も捕まり全てがバレ、辟易した夫から離婚を言い渡されたらしい。まだ残りの処理や、裁判など残っているものの漸く一区切りがついた。その一区切りを祝って今日は協力してくれた皆と喫茶店で細やかなパーティーを開催した。
心の底から安心出来てとても楽しく幸せな一時はすぐに過ぎ、夜の20時にはお開きになってしまった。
今は千紘と2人で後片付けを終えて、薄暗いカウンターで紅茶を飲んでいる。何だか久々に飲んだ気分だ。
「美味しい……ありがとうございます」
「こちらこそ。菜緒ちゃんがいてくれて助かったよ」
初めは1人でやると言っていたけれど、流石にあの量を1人で片付けるのは骨が折れるだろうと協力を申し出た。菜緒の隣で紅茶を啜った千紘は他に誰もいない店内を感慨深げに見回している。
「本当は復讐が終わったら探偵業も喫茶店も辞めるつもりだったんだ」
「え?」
「姉さんが喫茶店は営業してくれるし、探偵を始めたのは犯人を探すのが目的だったからね」
そんなことを考えていたとは知らなかった。けれど良く聞くと過去形で話していると気がつき千紘を見つめる。
「何としても犯人を見つけて復讐して、その後のことなんて何も考えてなかった」
「今は……?」
「菜緒ちゃんや皆と過ごして、樹の存在を認めてもらって、樹の格好をしていても受けていれてもらって……離れがたい存在になってる」
嬉しそうに笑う千紘は、今まで見てきた依頼人のように朗らかな笑みを浮かべている。
「だから、これからも宜しくね」
「……はい!宜しくお願いします!」
元気良く頷くと、元気だなぁと染々と呟かれた。あのミナミを探してほしいと頼んだ時も同じように言われたなと思うと、そんな月日は経っていないのに懐かしく思えた。
「そう言えば、家決まりましたよ」
「ああ、どこ引っ越すの?」
「喫茶店と動物病院の真ん中辺りです」
「そうなんだ。そうだ、引っ越し祝いにタオルあげるよ。あと、使ってる延長コードそのまま使う?新品買って渡そうか?」
家にある延長コードが劣化している。それを鍋をつついている時に言ったのを覚えているのか、行為に甘え使用している延長コードを貰うこととなった。千紘は本当に面倒見が良い。
「でも、そんなに急がなくても、もう少し姉さんと一緒にいてくれても良かったのに」
「えぇ、流石にそこまで迷惑かけれないですよ」
「最初は戸惑ったし事情が事情だったからあれだけど、3人でいるの楽しかったし……ちょっと寂しいな」
少しだけ落ち込んだ表情を見せる千紘にクスクスと肩を震わせ笑ってしまう。
「もしかして寂しがりですか?」
「……」
どうやら図星のようだ。何も言わず紅茶を飲み干す千紘が面白くてしょうがない。
「ふふ、美味しい紅茶を飲ませて貰ったんで、明日も頑張ります」
「ん。無理しないでね」
「はーい」
困っている人を助ける喫茶店。そんな喫茶店は明日も元気に営業していることだろう。




