迷い猫2
ミナミは暖かい日向やカーテンの隙間が好きで湿った場所は嫌い。
紐や猫じゃらしが好きで、鳥を見つけてはミャミャっと鳴いているけど、実際近づくと逃げていく。
探偵に聞かれるまま色々と答えていると、探偵は暫し考えながら周囲を確認している。
「お前の家はあれだな。で、こっちが大通り」
臆病なミナミは大通りには近づかないと思うし、交通量も多い道をミナミが歩いたと思いたくない。
探偵も大通りの方には行かないと思ったらしく家近くを探している。
昨日も探したけど……と見ると、白い毛並みの猫を発見しミナミ!と叫ぶ。
「おい、いきなり大声で叫ぶな。猫が驚くだろ」
「あ!」
探偵に止められたものの時既に遅し。
飼い猫だというのに隣の家の塀によじ登り逃げてしまった。
「お前は家に行って猫の餌とキャリーケース。後、捕獲用のバスタオルと飲み水も持ってこい」
的確に指示を出してくる探偵に頷き、家に戻りすぐに言われた道具を用意していく。
そうして言われた道具を渡すと、探偵はキャリーケースを持ち、近所にある公園方向へと歩く。
公園に入り茂みを観察したり、ベンチの下を離れた場所から眺める。
良い素材の服を着ているのに、嫌いな動物のために動いてくれる姿を見て、仕事に真摯に向き合うこの探偵は格好良いな……と思えた。
「いたぞ」
「え?」
「さっきみたいに大声を出すなよ。落ち着いて、普通のトーンで猫に話しかけろ。餌と飲み水も持っていってやれ」
さっき見た感じ綺麗だった白い毛並みは土で汚れていたし、少し痩せてしまった気がした。
もう少しで上手くいく……と思うと緊張してしまう。
「大丈夫だ。あの猫もお前が来るのを待ってる。飼い主の不安な顔を見せるんじゃないぞ」
「……はい」
よし!と慎重に近づくとミナミはじっと菜緒を見ている。
「ミナミ。ご飯だよ~」
いつも話しているように話すと、ミナミの耳がピクピクと動いた。
「今日はミナミの好きな美味しいおやつもあるよ」
ミナミが好きな柔らかいおやつの封を切る。
ミナミの方へ差し出すと、鼻をひくひくとさせていた。
決してこちらからは近寄らないでじっと待っていると、ミナミが徐々に歩みを進めている。
そしてクンクンと匂いを嗅ぎ、封からはみ出たおやつをペロリと舐め始めた。
探偵がフワリとバスタオルをかけ、逃げ出そうとするミナミをくるむ。
そしてそのままキャリーケースに入れ、無事捕獲完了だ。
ミナミが無事に見つかって良かった。ポロポロと涙が止まらない。
「ありがとうございます……!」
「ああ。コイツもお前も良く頑張ったな」
後は依頼完了の知らせをして、後日喫茶店で千紘と話し本当に依頼が完了となる。
ミナミが無事で良かった。探偵に頼んで良かった。菜緒は泣きながら何度もお礼を言った。
***
***
落ち着いた所で家まで送ってくれるらしく、2人で帰り道を歩く。
「へぇ、バイトすんのか。なんの?」
「駅前にある個室居酒屋です」
「ああ、あそこか……あそこは止めとけ」
「なんでですか?」
「探偵をやってると色んな情報が入ってくるが、あそこは完全個室なのを良いことに色々としてるらしいからな」
その色々が何なのかは分からないが、探偵の口振りからしてもあまり良い話ではなさそうだ。
折角初バイトにしようと思ったのにな……と探偵を見る。
「じゃあ、初バイトを阻止する探偵さん。責任取ってくださいね」
わざとらしく伝えると、探偵は二度瞬きをして微かに微笑み、逆プロポーズかよ……と呟いた。
その微笑みが喫茶店で働く千紘に似ている。
「探偵さん、瀬浪さんに似てますね」
「ああ、双子だからな」
「……えぇ!?」
笑顔が似ていたのは双子だったからか。
まじまじと見つめるものの、探偵の瞳は黒くそこは違うんだ……と思う。
それに俺様な態度と少しオドオドとした態度の2人は性格も真逆なんだろう。
真逆な性格なのに姿が似てる。だとしたら千紘もボサボサ頭とかを整えれば探偵みたいに格好良いのでは?と思えた。
そう考えていると、何やら思いついたのか探偵がニヤリと笑った。
「おい、責任取ってやるからお前の体と時間を寄越せ」
「え、変態!?」
「生憎俺に子供を愛でる趣味はない。残念だったな。アルバイトの話だ」
「アルバイト……」
「雇われるなら、今回の依頼料は無しにしてやる。勿論給料は支払ってやるぞ」
探偵の発言に顔を赤く染めていたものの、聞くと喫茶店も探偵も人手が足りないらしく、アルバイトとして雇いたいということだった。
しかも依頼料なしの好条件。
喫茶店と探偵の2つを掛け持ち出来るなんて滅多にない機会だ。
1つ返事で働きます!と言ったことにより、菜緒のアルバイトが決まった。
***
***
何かあるといけないから……とミナミをお世話になっている動物病院に連れてきた。
「何々?なんでこんなに汚れてるの?」
いつもお世話になっている春野先生に脱走したことを伝えると、勇敢だねぇと笑っている。
近くにいた、時折見てくれている更木先生は菜緒に笑いかけた。
「無事で良かったですね」
「はい。ありがとうございます!」
隅々まで検査してもらい、問題なしと言われホッと胸を撫で下ろす。
「最近は車通りも多いし気をつけてね」
「はい。よし、ミナミ帰ろうね」
「お気をつけて」
「はい。春野先生も更木先生もありがとうございました」
こうしてまたミナミと一緒にいれて嬉しい。脱走しないように防止策を考えよう。そう思いながらミナミを見つめた。