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捜し人

 探偵を勧めてくれた友人の沙世と、最近嵌まっているケーキ屋でショートケーキを食べる。

 ふわふわのスポンジと濃厚な生クリーム。一口食べるだけで幸せな世界へと誘われる。


「美味し過ぎて幸せ……」

「ケーキに埋もれたい」

「分かる!沙世はチョコケーキ?私はショートケーキも良いしチーズケーキも捨てがたい」

「ここのチーズケーキも美味しいよねぇ」

「んー。でも千紘さんが作るケーキも捨てがたい」

「千紘さんってあれだよね?喫茶店の」

「うん」


 喫茶店で働くようになってから瀬浪が2人いるのに、2人とも瀬浪さんで呼ぶのが違和感を感じてしまった。

 だから名前で呼びたいと言うとすぐに快諾してくれて、それから千紘さん呼びになっている。

 探偵の名前は瀬浪樹らしく、こちらも樹さん呼びになった。

 普段は喫茶店で働いているために、あの日から樹には会っていない。


「紅茶もコーヒーもここまで美味しいとは!って思うくらい美味しいの」

「へぇ、1度行ってみようかな。探偵はいるの?」

「普段はいないよ」


 喫茶店について説明していると、モッズコートを着た男性が近づいてきた。


「君たち、少し話したいんだけど良いかな」

「えっ?」


 急に話しかけてきた不審な人物に驚く。


「ここの料金奢るから、ちょっと良いかな?」

「嫌です」

「ほんの少しで良いからさ」


 断っているのにしつこく話しかけてくる不審者を見かねたのか、隣のテーブル席にいた人が助け船を出してくれた。


「知り合いじゃないんですよね?あまり女性に対してしつこいようなら警察呼びますよ」

「……まあ、良いか。また機会があればよろしく」


 警察を呼ばれるのは怖くないのか、謎の言葉だけを残して帰っていく。

 また会う機会なんてあってほしくない不気味さだ。

 隣のテーブル席にいた男性にお礼を言うと、いえいえと爽やかな笑顔が返ってきた。


「実は、俺も君に話しかけたかったって言ったら警戒しちゃうかな?」


 苦笑いを見せつつ菜緒と沙世の前に立った男性は、1枚の写真を差し出してきた。


「探偵に捜して欲しい人がいるんだ」


 写真に写っていたのは幼稚園生くらいの女の子。

 一体この写真の子とはどんな関係なのだろうか。

 そう思いながら、頷き残りのケーキを食べていった。



 ***



 ***



 沙世と別れ、男性と喫茶店に入る。

 カランカランとドアベルの音がして、カウンターから千紘がひょっこりと顔を覗かせた。


「あれ、菜緒ちゃん?今日は休みだったよね……え、まさか僕間違えてシフト渡したかな?」


 今にもカップを落としそうに慌てる姿に、違います違います!と言って千紘を落ち着かせる。


「依頼をしたいらしくて……」


 菜緒の後ろで2人の様子を黙って見ていた男性は、ペコリとお辞儀をする。

 千紘も慌ててお辞儀をして、空いてる席へどうぞと店内に招き入れた。

 相変わらず陣取っている常連客が、よお菜緒ちゃん!と挨拶してくる。


「こんにちは」

「ツレはこれか?」


 小指を立てて揶揄する常連客に、違いますよ!と怒りながらカウンター席に座る。


「ほら、このメニュー見てください」

「ん?あ、本当だ……じゃあそれお願いしようかな」

「畏まりました。でも、受けるかどうかは千紘さんが決めるんです」


 ね?と千紘に笑いかけると、苦笑いを見せている。


「もう立派なアルバイトだね。そんな子には特別に紅茶を淹れてあげよう」

「やった!」

「貴方は紅茶かコーヒーかどちらが良いですか?ああ、これは相談のお供なので試飲程度に飲んでいただければ」

「では……紅茶をお願いします」

「畏まりました」


 アルバイトをすることでお客様じゃなくなったからか、千紘は敬語を止めて普通に話してくれるようになった。

 そんな日々の変化が嬉しくて、上機嫌で淹れてくれた紅茶を飲む。

 ほっと一息ついていると、男性が再び女の子の写真を懐から出す。


「申し遅れました。畑山哲と申します」

「瀬浪千紘です。彼女はアルバイトの若槻菜緒です」

「よろしくお願いします」

「依頼内容はどういった?」

「彼女を捜して欲しい」


 必死な形相で訴える畑山は、お願いします……と頭を下げた。


「親族同士のごたつきのせいで、会えなくなったんです。誰に聞いても答えてくれなくて……せめて今、どうやって暮らしているかだけでも確認したい」

「なるほど……どこに住んでいるかも分からないんですね?」

「はい」

「分かりました。調査結果だけお聞きになられますか?何とか本人にコンタクトしましょうか?」

「いいえ。何をしてるかだけ確認出来れば……それで」

「では、契約書を持ってきますね」


 どうやら依頼を受けてくれるらしい。ありがとうございます!と喜ぶ畑山に笑顔を向けながらも、あれだけの情報で受けると決めた千紘は何を思ったのだろう……と、契約書を持ってくる姿を見つめる。

 契約書を書き終えて帰る姿を見送り、千紘の方を向き直る。


「千紘さん……私も調査を手伝いたいです」

「良いよ。どうしたの?」

「千紘さんが畑山さんの話を聞く前に、もう受けると決めていたような気がするから……かな」


 考えながら喋るとしっくりときた。

 いつもならじっくりと話を聞き、無理ならキッパリと断っているし、自分が働き始めてからも断っていた数もかなり多かった。


「ああ、それは簡単な理由だよ」

「なんですか?」

「入ってきた時から必死そうで……ミナミちゃん探しを頼んだ菜緒ちゃんとそっくりだったから」


 確かにケーキ屋にいた時から必死だった。

 あの必死な表情を自分もしていたのだと思うと何だか気恥ずかしい。

 でも、そんな人の表情を見て本当に必要としている人を見抜く力を持つ千紘を尊敬する。



 ***


 ***



 探偵のネットワークは多岐に渡り、ただインターネットで調べる訳ではなく、地道に集めたデータからも重要な情報が出てくることがある。

 今回はそんな地道に集めたデータから情報を得るらしい。

 何より女性がいるであろう場所が、近代のネットワークですら情報をあまり拾えない田舎だったからだ。

 喫茶店近くにある会議室で集めたデータをひたすら見ていく。


「畑山……畑山……」

「おい、ブツブツ煩いぞ」

「だって唱えてないと分からなくなっちゃうんですよ!!」


 細かい人名が書かれた紙をひたすら目で追うと、眼球が疲れてきたのか瞼が痙攣する。

 手で目を押さえ再び眺めると、畑山の字を発見し嬉々としてマーカーで印をつけていく。

 見つけた人の名前を見ると、畑山由香と書いてあった。

 住所はここから飛行機で二時間の距離だ。

 今から行くのはしんどいだろうな……と考えていると、樹がどこかに電話をかけている。


「久々だな。ん?順調そうに見えるか?まだまだだろう。もっと俺を宣伝しろ」


 でた、俺様発言と思いつつも、探偵の実績を宣伝をしてもらってもっと仕事が増えていくのだから仕方ない。


「菜緒。見つけた奴の住所読み上げろ」

「はーい」


 住所を読み上げていくと、樹が復唱し電話相手に届ける。


「そうだ。どれくらいで終わる?………分かった。待ってる」


 通話を終えた樹は会議室にある椅子にどさりと座る。


「今のって?」

「他県に直接向かうこともあるが、俺の場合は他県に協力者がいる。今回情報を集めるのはソイツに任せた」


 半日もしないうちにデータは揃うだろうと言われ、感嘆のため息を洩らす。


「樹さんは凄いですね……仕事の仕方を知ってるというか……」

「褒めてもないも無いぞ?」

「素直に受け取ってくださいよ」

「ははっ、ありがとな」


 褒められると嬉しいのか、微笑む姿も格好良い。格好良い人が自分に笑いかけてくれるとなると、頬が赤くなってしまうのは道理で、照れた笑いを見せた。

 この先はデータが送られてくるまで待機らしく、近くのコンビニで買ったお弁当を食べたり、他愛ない話をしたり……とかなりのんびりした時間を過ごしていく。

 そんな時間を数時間過ごした所で、樹の持っていたノートパソコンがピコン!と音を立てて、データが送られたことが確認出来た。

 見ても良いようで、一緒に中を確認していく。


「畑山由香……妹……妹!?」

「は?まさかお前気がついてなかったのか?」

「だって、親族間のごたつきとは言ってたけど妹だとは……」


 妹だとは言ってなかったが樹も千紘も気がついていたようだ。


「妹と生き別れたんだろうよ。で、どんな生活をしてるのか気になったんだろ」


 親族間のごたつきは相当根深いらしく、調査してくれた人も情報全ては得られなかったらしい。

 とはいっても今回の調査は由香がどうしているかであって、それ以上は契約になかったから探らないようだ。


「まあ、妹は元気に生きててしかも自立に向けて動こうとしてるなんて、兄にしてみりゃ嬉しいだろうな……」


 データを見ながら樹はそう染々と呟いた後、協力者にお礼のメールを送っている。

 後日その結果を報告すると、畑山は涙を浮かべ喜んでいた。


「本当に会わないんですか……」


 居場所も分かっていて、こんなに涙を流すほど妹の情報で喜んでいるのに会わないのが納得出来ない。

 妹だって会いたいと思っているかもしれない。

 その呟きが聞こえたのか曖昧に微笑んだ畑山は、菜緒の頭を1度撫でた。


「勇気が出たら会いたいな。だから、その時は応援してくれる?」

「……勿論です!」


 パッと表情を輝かせると、畑山の表情に朗らかな笑顔が浮かんだ。








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