あとがき
本作『僕の心臓が止まった日』を最後まで読み進めていただき、心より感謝申し上げます。
この物語は、あまりにも身勝手で、同時にあまりにも純粋な、ある一人の青年の「嘘」から始まりました。
主人公のはるとが選んだ「自分を憎ませて去る」という決断。
それは一見、相手を想う究極の自己犠牲に見えますが、実は遺される側のなつや、共犯を強いられたあきにとっては、生涯癒えることのない呪いを与えたも同然でした。
愛という言葉は、時にこれほどまでに暴力的で、鋭利な刃物になり得る。執筆中、私自身も彼らの痛みに何度も胸を締め付けられました。
物語の舞台となった水戸の備前堀、千波湖、そして弘道館。
これらの風景は、単なる背景ではありません。
はるとが命を削って刻んだ文字や、土に埋めた航空券と同じように、三人の記憶を閉じ込め、時が来るまで守り続けた「共犯者」でもあります。
もし皆さまがいつかこれらの場所を訪れることがあれば、三番目のベンチの裏側に、目には見えないはるとの指跡を感じていただけるかもしれません。
本作のクライマックス、披露宴でのビデオレターのシーン。
あそこで、はるとに「綺麗な言葉」だけを語らせることはできませんでした。
死を前にした人間が、愛する人を他人に託すとき、そこには必ず醜い執着や嫉妬、そして「死にたくない」という生への渇望があるはずです。その醜さを含めたすべてを曝け出してこそ、はるとという人間がこの世に生きた証になると信じ、筆を執りました。
「夏」という季節は、眩しすぎる光の裏側に、常に深い影を落としています。
はるとが駆け抜けた夏、なつが立ち止まった夏、あきが耐え忍んだ夏。
それぞれの夏が、いつか皆さまの心の中にある「忘れられない季節」と重なり、小さな光を灯すことができれば、作者としてこれ以上の喜びはありません。
「Winter never ends(冬はいつか終わる)」ではなく、「Summer never ends(夏は終わらない)」。
はるとが遺したその言葉通り、愛した記憶は、たとえ形を変えても、新しい命や季節の中に永遠に溶け込んでいくのだと信じています。
最後に、この物語の完結まで寄り添ってくださった読者の皆さまに、最大級の感謝を込めて。
季節は巡り、また新しい春が始まります。
皆さまの歩む道が、温かな光に満ちたものでありますように。
著者 拝




