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22/1994

22_私にとっての『寝る』行為

おはようございます。きんぴらです。



 私は寝ることがある。


 私だけでなく人間の人は少なからず寝ていると思う。



 だが、私の睡眠は少し特殊だ。特殊というほど変わったものではないが、性格が顕著に出ている。


 私はビビリ症であると同時に綺麗好き(潔癖ではない)で、神経質といった特徴がある。


 それゆえに幾つか行動にも癖がある。


 一つはパーソナルスペースがめちゃくちゃ広く、全く知らない人間の場合自分の体から30cm以上離れていないと落ち着かない。ソワソワしてその場を離れる。


 極端に他人の息やタバコの煙を嫌う。それ故にコロナ何某が話題をさらう以前、2年ほど前から毎日マスクをかけて生活をしている。


 服はその日家に帰るとすぐに着替える。外を歩いた服で家にいたくない。家の椅子やベットに座るなんぞもっての外。だから家に友人はもう何年も呼んでいない。遊ぶなら外でだ。外でも屋内にある椅子にしか座らないという条件付きだ。


 

 とまぁ、よく「細い」とか「神経質」と言われる私だが、では寝ているときはどうか……寝ているときも神経質なのだ。


 周りに人がいると全く寝られない。ウトウトしてもすぐにハッと瞼が開く。近くにいても寝られるのは、家族と信頼しきった彼女くらい。彼女になりたての人は気になる上に近くに来たがるので私の睡眠を最も邪魔する存在なのだ。


 地震が起こった瞬間に起きる。なんなら揺れるより先に起きてないかと思うレベル。半目で「あ〜揺れるぞ……あ、揺れた揺れた」と思いながらベットから降りて本棚を抑えている。


 外から声が聞こえるとすぐに目を覚ます。少し前に女性の悲鳴が聞こえたときは飛び起きた。だがそれも離れた交差点だった。この話は大したことではないが、外で揉め事があったのだ。それも朝の4時頃に。まったく。


 私にとって睡眠とはすごく大切なもので、かつ環境が整っていなければ得られないもの。


 


 ——だが、実はもともと神経質だったが子ども頃は寝るときはそうでもなかった。素直によく寝るいい子だったのだが、ある日それらを根底から覆す事件が起こった。それにより、寝つきは悪くなり、気配ですぐに目を覚ますようになった。


 背筋も凍る恐ろしい話——。


 その事件というのはまだ学生のころに実家で起こった。私の実家は、周りは畑に囲まれていてすぐ横には一軒しか家がない。大通りに面してもいないので、街灯もろくにない。畑の向こうにマンションの灯りが見える程度だ。


 二階建のかなり大きい家。二階には大きな部屋と小さな部屋があり、私は大きな部屋を一人で使っていた。大きい家なのに部屋が二つしかないのは、二階には走り回れる程の巨大なベランダがあるからだ。


 夜中に聞こえてくるのは虫の声くらい。


 うだるような暑さの夜中、私はその日も扇風機の熱風を浴びながら寝苦しくも眠りについていた。


 網戸を開けて夏の風を取り入れる。その熱風を扇風機で浴びせるから、なんなら扇風機がない方が涼しいのではないかと思うほどだ。クーラーなどどいう便利な文明の利器はない。

 

 そうは言えども眠くなるのが人間の欲。暑くとも眠るのだ——。



——っっっ!!!!!!!!!!


 頭に激痛が走った。


 ちょっとやそっとの激痛ではない。本当に「死ぬ!」と覚悟するほどの激痛だ。一瞬で目が覚めた。その痛みは堪えられるようなものではなくて、夜中に「いってぇ!!」と叫んだのは後にも先にもこのときだけだ。


 強烈な痛みと共に、冷や汗が吹き出す。目は痛みでこれ以上ない力で閉じられ、体が震える。階段を上がってくる親の足音が聞こえる。先ほどの悲鳴で何事かと目を覚ましたのだろう。


 だが今はそんなことは関係ない。


 暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い……


 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い……


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……



 命の危険を感じる。だが、とにかく頭頂部の少し後ろが痛みの発生源であることは感じる。恐ろしくも確認しないことにはなんともならない。


 私は電気をつけて、震える手で髪に手櫛(てぐし)を差し込んだ。


 その瞬間——、ゾッとした。


 硬いものが(うごめ)いている。


 ものすごい恐怖を感じたが、これが自己防衛本能というものだろう。私は怖いにも関わらず、それを掴んで毛髪の中から引きずりだした。


 ——10cmほどのムカデだった。


 犯人の正体がムカデとわかった瞬間。恐怖と痛みが全て怒りに変わった。手は幸い噛まれることなく、床に叩きつけ踏み付け引きちぎり、素手で命を奪い去ったのを鮮明に覚えている。


 あれが闘争本能というものなのだろう。正体がわかった瞬間に、何もわからない恐怖から解放されて、殺される前に殺すという判断を脳が下した。実家は田舎なので何度もムカデを始末したことはあるが、素手でムカデを絶命させたのはこのときが初めてだ。


 ムカデを殺したところで痛みが取れるわけではない。さらに脳の付近にムカデの毒が入ったことで自分がどうなるか分からない恐怖に支配される。


 このときはその恐怖で泣いた。



 その後、数日この痛みと付き合うことになった。強烈な痛みが24時間続く。痛みのせいで授業はまったく頭に入らないし、眠ることができない。だがそれ以上に、「寝たらムカデに噛まれる」というトラウマが眠るという行為を許さなかった。


 去りゆく痛みと共にその恐怖は(しず)まって今は日常生活に戻れたが、当時は本当に恐ろしかった。眠れない日々が続いていた。


 私の夏の夜、最も恐ろしい実体験だ。



 ——話を戻すが、私が寝てもすぐに起きてしまったり、敏感に反応するようになったのはこの事件がきっかけだ。信用に足らない存在が近くにいる場合、眠るという生物にとって最も油断する行為を行えなくなってしまった。元来生物とはそういうものなのだろうけれど……


 だが、それで良いと今は思っている。確かに小さな地震や物音で目が醒める分、睡眠の質は悪いのだと思うが、これが本来の生物としては正しい反応のように思うし、彼女に関しても本当に信頼したらすぐ横にいても眠ることができる。


 だからただ危機意識が高まっただけと捉えて今はこの体質を気に入ってもいる。そして、そんな経験を踏まえたからこそ睡眠の時間を大切に取っているのだろうと思う。


 3大欲求の一つをこれからも大切にしようと思う。




 今年も夏がやってきた。雨は次第に減り、これからはカラッとした熱気が街を包む。


 私は都会にいて、もうムカデに頭を噛まれることはないだろう。


 いや。もし私が今も田舎暮らしをしていても、私はもうムカデに噛まれない。


 私には自信がある。


 ムカデが髪に触れた瞬間、目を覚まして対抗措置を取れると。


 二度も同じ(てつ)は踏まない。


きんぴら



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