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半端野郎は時間を稼ぎたい。

続きがちょっと気になった方。

ブクマお願いします。

「さあ、ここから新たな歴史の第1章が始まる!」



 その言葉を皮切りに、廊下から重々しい音が聞こえてくる。

 ……シャッターが降りてる?

 これ、逃げ道塞がれてないか?

 同時に、先生(?)の隣の空間に変化が生じる。

 見覚えのある、青白い光。

 俺たちの目の前に、()()()()()()()()()()《門》が現れた。

 恐らく、移動距離も相当長いのだろう。《門》の向こうから、外国の言葉が聞こえてくるくらいだから。



「この先に進めば、君たちは正しい選択をしたことになる。さあ、早く行きなさい」



 進めば、なんて言葉を使っているが、これはどう見ても誘拐だ。

 助けは? とも思ったが、この時間になってなんの連絡もないことを考えると、可能性は低いようだ。



「まずはそこの坊主のきみ。さあ、一番乗りだ」



 太一がほぼ名指しだった。

 まずい。この先に進んだら、日本どころかこの世からも消えてしまいそうな気がする。



「……」



 太一は動かないまま、担任を睨み付けている。

 そして、口を開く。



「あんた……、先生じゃないな?」



 ◆◆◆



「鶴宮さん! 社長と連絡が取れました!」



 松村が、鶴宮の手元の電話に外線を繋ぐ。



「……おまえなあ」



 鶴宮は開口一番、溜まった恨みを吐き出した。



「知ってて黙ってたな?」



 電話の向こうから、わざとらしい高笑いが聞こえてくる。

 鶴宮はもう少しだけ言葉を交わすと、



「分かった」



 受話器を置いた。

 そして、大きくため息を着つく。



「敵の目的が分かった。生徒の誘拐だ。今すぐ、警察と軍を動かすぞ!」



 さらに現場は忙しさを増す。



 ◆◆◆



「先生じゃない……?」



 太一の言葉に、クラスがざわつく。

 すると、後ろのほうで女子が一人立ち上がった。



「きみ、もしかして『視えてる』の!?」



 どうやら、彼の《知覚強化》が、役に立っているようだ。



「みんな逃げろ、こいつは先生じゃない!」



 今まで静かに座っていた生徒たちが、一斉に逃げ出した。

 後ろの出口に人が殺到する。

 が、



「あれ、鍵がかかってるぞ!?」

「か、固い……!」



 鍵とは本来、内側からなら簡単に開けられるものだとおもっていたのだが、まるでびくともしない。



「無理だよ。今はセキュリティシステムを作動させているから、そこで解除しない限り開かない」



 後ろから、勝利を確信した偽教師がゆっくりと近づいてくる。

 屈強な男子が一人、立ち向かっていったのだが、会えなく気絶させられてしまった。

 見た目通り、《身体強化》の能力者のようだ。



「大体、俺たちは能力者だろ!? なんで誘拐されなきゃならねえんだよ!」



 生徒の一人が半泣きで叫ぶ。

 言われてみれば、確かにそうだ。



「……まさか」



 父親が軍本部にいる二瓶さんが、なにかを思い出したように呟く。



「ここにいる全員、殺すつもり……?」



 その絶望的な言葉に、喚いていた生徒たちが一斉に静かになった。



「新時代の(いしずえ)になるんだ。大丈夫。君たちの命は有効に使わせてもらう」



 当たっちゃったよ悪い予感が!

 こいつら自分さえ良ければいい奴等じゃねえか!

 何が『大丈夫』だ嘘つきめ!


 彼女がみるみる青ざめていく。その唇の端から聞き慣れない能力の名前が出た。



「《譲渡》の能力者……!」



 目の前の偽教師は、少し驚いたように目を丸くすると、急に笑顔になった。

 俺は、そのあまりの気持ち悪さに、鳥肌がたった。



「それに気付いたということは、君、軍の関係者の家族だね?」



 本当の先生なら、その事実は当然知っているはずだ。

 それを知らないことを暴露した。

 それはつまり。


 ()()()()()()()()()()



「ああ、ちなみに言っておくが、この学校の生徒や教師は、ここには来ない。彼らは、君たちが入学式に()()()()()思っているのだから」



 俺はどうやって逃げるか考えていた。

 二瓶さんの《転移門》は? 無理だ。人が通れる大きさにはできても、逃げられる距離と人数に限界がある。

 それに、いくら俺たちが能力者として未熟とは言っても、20人もいる。

 それをたった一人でどうにかしようと乗り込んできていることを考えると、手練れの可能性が非常に高い。

 この間の先輩たちのようには、決していかないだろう。


 だが、考える余裕すら与えられなかった。

 偽教師が、蹴った床が凹むほど脚力を強化して、扉近くで固まっていた俺たちに向かって来たのだ。


 生徒が悲鳴あげるなか、俺は一言だけ後ろの友人に告げた。



「ちょっとだけ、時間稼ぐ」



 俺も全力で一歩を踏み出すと、能力を発動した。



 ◆◆◆



 〈太一目線〉



 俺のこの学校でできた初めての友達が、一言だけ呟いて前に走った。


 〈ちょっとだけ、時間稼ぐ〉



 そんな無茶な、と言いたかった。

 でも。



「す、すげえ……!」

「助かった……」



 何人かは、安全が確保されたと()()してしまうほどの変化が起きた。


 あいつが、自分の能力を使ったのだ。


 俺たちに渾身の殴りをしようとした偽教師は、一番前にいたあいつを狙った。

 だが



「ぬおおおおおおっ―――!?」



 ()()()()()

 あいつの見えない壁は、殴ってきた教師の拳をしっかりと受け止め、そのまま力を()()させた。


 ガードのために防御を高めていたのか、コンクリートでできた教室の壁を壊して、外まで飛んでいった。


 ……生け捕り目的のはずなのに、あれは殺しにきていた。



「で、おまえ何を見たの?」



 能力を解除した太一が、俺に尋ねてくる。

 バカが……! あいつに対抗できるのはおまえしかいないのに!

 こいつの能力は1日に一度しか使えないという、とんでもない弱点がある。

 あいつが戻ってきたらどうするんだ!?

 あいつは、俺の心の叫びを知るよしもなく、



「誰かも、なにか言ってなかったか?」


「あの先生は意識を乗っ取られてる。どこかに操ってるやつがいるはず。そいつを倒せば、この状況も変わるかもしれない」



 出口に一番近いところに座っていた女子だ。さっき俺に、『視えてるの?』と言った女子でもある。



「へえ、そりゃまたどうして?」


「そこの男の子だって分かってるでしょ?」



 彼女の言うとおり、俺には見えていた。


 先生の頭にくっついて、空中に漂う、()が。あれは、高密度の――



「『異能エネルギー』? ってことは、その糸を切れば、とりあえずこの状況はちっとはましになるってことか?」


 話を聞いた男子の一人が、希望に満ちた声で言う。

 だが。



「……それって、相当離れてても使える能力だよね」



 俺に『視えてるの?』と聞いた女子が、落胆した様子で現実を叩きつけた。



「あたしも《伝達操作》だからさ、分かるんだよ。いくら《知覚強化》の能力者でも、その糸が『見える』ってことは、その先生一人を操るのに、全神経を集中してる証拠。対象を()()にすれば、数十キロは離れてても操れるから」



 逆に言えば、あの先生をどうにかして無力化できれば、他の脅威はない、ということにもなる。

 問題は、どうやってそうするか、だ。



 俺は、友人に目を向けた。



 ◆◆◆



 なぜ、《不自然な状況を、自然に思わせる能力》があるにも関わらず、鶴宮は「一クラスだけ出ていないこと」を認識できたのか。


 それは、あくまでこの能力が、「五感にのみ作用する能力」だからである。


 生徒の制服。そのボタンには、位置情報を知らせるためのチップが埋め込まれている。

 その位置が、本来いるべき場所からずれていたのである。

 また、この能力は機械には通用しないため、廊下に設置してある監視カメラを見れば、すぐに異変に気づく。

 しかし、送られてきている映像には、何ら変化がなかった。

 つまり、今の敵が占拠しているのは。



 学校の監視モニタールーム。



「これで8割は完了しました!」



 狙いが当たり、全国の軍や警察が次々と学校に侵入した誘拐犯を捕らえていく。



「ん!?」



 モニターを見ていた松村が、突如食い入るように一つの画面に覆い被さる。



「どうした?」


「鶴宮さん、これ」



 彼女は鶴宮の手元にあるパソコンに、問題の画面を送った。

 そこには。

 拡大して、やや荒くなった画像の静止画を、処理して見やすくしたもの。


 雲一つない青空に、一ヶ所だけ不自然な存在。



 それは、人間だった。



 白銀の髪。

 偵察機に気づいているのか、視線がこちらを向いている。



 そしてその目は、瞳の部分が真っ赤に染まっていた。

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