第九話 ミルフィとローパー狩り
2017/4/9 誤字修正。
ミルフィのお手製のアップルパイを食べ終わってしまった。
かなりのボリュームで食べ応えがあったので、小雪や真衣にも食べさせてやろうとフレンドメッセージを送ってみたのだが、二人とも今はログインしていない様子。明日は旅行だし、俺も十一時には止めて寝るとしよう。アラームをセットしておくことにする。
一人で食べきって心地良い満腹感だ。
ちょっと木陰で膝枕を要求したくなるほどだが、自重しておこう。頼んでもミルフィは断ってくる気がする。
代わりに俺はミルフィに笑顔で礼を言った。
「ありがとう、とっても美味しかったよ、ミルフィ」
「そう言ってもらえて何よりです。また作ってきますね」
「次に渡すときは、こっそりで頼むよ」
他の冒険者の反応がアレだったので言っておく。団員のみんなには悪いけど、ここの動画は保存だけしてアップはしないでおこうっと。
「ああ、はい。冒険者の皆さんにも作ってあげたいのですが、材料と時間が…」
「まあ、それは仕方ないかな。大量生産じゃ手作りにはならないだろうし、特別な相手だけで」
「とっ、特別な相手、ですかっ!?」
ミルフィが、のけぞって凄い反応をしたが、恋愛の方向で受け取られてしまったらしい。
「いや、特別な報酬って意味だけど」
「そ、そうですか…そうですよね、すみません」
この子、ボス戦での戦闘中は勇ましい隊長だったが、こういうときは初心な女の子みたいで、可愛いな。
しかも仲良くなれているし、良い雰囲気の気がする。
――って、いかん、相手はNPCだぞ?
「さて! じゃ、俺は〈南の遺跡〉へ行こうと思う」
俺は座っていた石段から立ち上がった。
ユキがいるかもしれない。リアルの女の子を求めていざ行かん。
「はい、では、お供しますね」
ミルフィとパーティーを組み、二人で街の外へ出た。
もちろんシロも一緒だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「驚きました。昨日まで、ほんの初心者と思っていたのですが…」
遺跡に向かう途中、コヨーテを倒したところでミルフィが言う。
「まだ初心者だよ。まあ、レベルは上がったし、動きも馴れてきたかな」
俺は剣を一振りして鞘に収めながら答えた。
パラメーターの【筋力】と【敏捷】と【器用】が上がるにつれ、俺の動くスピードも上がり、動きやすくなっている。
戦闘のタイミングにも俺自身が馴れてきた。
ルーンナイトのステップアップで手に入れたスキル、【タイムアクセル】はTPを4消費して、動作や再攻撃可能時間を少し早めることができる。【呪文短縮】のスキルと同時使用も可能で、これで呪文詠唱時間もさらに速くできる。
このゲームを始めたばかりの時は、魔法剣士は剣も魔法も使えて便利という印象があったが、実際に戦闘をこなしていると、剣と魔法を同時には使っていられないことに気付かされる。
剣を動かすだけでも集中力を使うし、呪文は呪文で魔法文字の詠唱に気を遣う。さらに呪文はカスタマイズが可能なために細かい設定を気にすると時間と集中力を思った以上に使ってしまう。
そうなると、カテゴリ別の熟練度が設定されている分、剣なら剣だけで戦った方が攻撃力が高くなる。
魔法剣士の火力不足、器用貧乏というわけだ。まあ、選ぶ時点である程度の予想は付いてたんだけども。
その問題を少しでも手数で解消し、魔法剣士系のジョブを使いやすく底上げするためのスキルなのだろう。
ただしTPが増えてはいるものの、まだ百ちょいなので、すべての動作に使っているとすぐに息切れとなる。TPは時間と共に少しずつ回復するが一分につき1ポイント、そんなゆっくりなペースだ。
だから、短縮系のスキルはここぞと言うときやTPが満杯近くになった時に使えば良さそうだな。
〈南の遺跡〉が見えてきた。
昨日は夜だったので全体像は分からなかったが、かなり広範囲に渡る遺跡のようだ。巨大な柱の残骸があちこちに転がっている。その直径は二メートルにおよび、まるで巨人でも住んでいたのかと思うほどだ。
俺はユキの姿を探したが、長髪の青いソードダンサーは見当たらない。それよりもゴツい戦士やローブ姿の魔法使いがあちこちにいて、今日はやけに冒険者が増えている様子。
「くそっ! メタリック種なんて出てこないじゃないか。ガセネタじゃねえのか?」
「いや、ゲーム内・公式のスクショだ、いじるのは不可能だから、間違いは無いと思うが…」
「ここって障害物が多いから、火線が通りにくいんだよなぁ」
「ちょっと! それはアタイの獲物だよ。横取りしないでよ」
「ああ? ラストキルを取ったもん勝ちだろが」
文句を言い合う冒険者もいて、どうもギスギスしている狩り場だ。
さっさと通り抜けた方が良いだろう。
「中へ入ってみよう」
俺は奥を指差す。
「はい」
ミルフィは、仲良くしましょうと呼びかけでも始めるかと思ったが、彼女は特に何も言わずに付いて来た。
柱の上から奇襲攻撃してくるコヨーテに警戒していたのだが、他の冒険者達がすでに片付けてくれている様子。
「移動の時は込んでるエリアの方が楽かなあ」
俺は何気なく言う。
PKもあるので、相手に無用な警戒心を与えないためにも、戦闘をしているプレイヤーからは離れて進む必要があるが、モンスターの奇襲や包囲が無いのは楽だ。
「ええ、その通りです。逆に冒険者のいないエリアはモンスターハウスと呼ばれる溜まり場もあって、極端に難易度が上がります。そうなると適正レベルエリアであっても危険ですから、覚えておいて下さいね」
ミルフィがアドバイスしてくれた。
「ふむ。了解」
すでにオートマッピングで遺跡の地下への入り口までの道順は分かっているので、迷うこと無く地下に入れた。
が、ここでもやはり冒険者でごった返している。
「おい、そこ! 今から【フレイムウォール】を使うから、どけっ!」
そう言うなり金色ローブの魔法使いが俺のすぐ近く、後ろに炎の壁を作るので焦った。
「うわっ!」
「せめて魔法剣士と指定してからにして下さい。逃げてもいないのに攻撃するなんて、マナー違反ですよ」
ミルフィがその魔法使いに抗議する。
「ふん、入り口でぼーっと突っ立てる方がマナー違反だ。ここはオレ達が狩り場にしている。さっさと失せろ」
「行こう、ミルフィ」
「はい…」
ああ言う手合いは言い争うだけ時間の無駄だ。どう見ても人通りが多い入り口を狩り場にする事自体、頭が回っていない。あそこは空いているのでは無く、みんなが他の冒険者のことも考えて遠慮しているだけなのだ。
先に進むと、今度は通路でバインドスネークと戦っている赤い革鎧の弓使いがいた。
戦闘中なので待った方が良いが、横を通ればすり抜けられそう。
少しだけ待って、片が付きそうになったので近づく。
「ちょっと、PKのつもりじゃ無いんなら、一言声を掛けてからにしてよ」
弓使いが俺に弓を向けるので思わず両手を挙げたが、向こうもPKを警戒しただけのようだった。
「ああ、ごめん」
「リュートさん、人のいない場所を探しましょう」
ミルフィが言うが。
「いや、地下四階へ向かうつもりだ」
「そうですか。なら確か、向こうでしたね」
「ああ、君もここ、来たことがあるの?」
「ええ、マリーンの頼みで調査に来たことがあります。その時は何も見つからず、完全な空振りでしたけど」
「そう。綻び…バグを見つけたことはある?」
「綻びですか? いえ、特に変わったような点はありませんでしたね」
ミルフィが見つけていれば、その時点で運営も把握しているか。NPCが見ただけではバグかどうか分からないかもしれないが。
他の冒険者に注意しながら地下四階に降りると、木の立て札が設置されていて、そこから先は冒険者はどうやっても進めない様子だった。
見えない壁に体当たりしている戦士が数人いる。
「ぬおおお、オレは進みたいんじゃー!」
「マップが埋まんねーだろが!」
「秘技、三角飛びぃ!」
「あれは…大司祭様から通達があった《エルダの立て札》。あれが立っている間は、何人も通り抜けることは不可能です」
ミルフィがこの世界としての設定を言う。
「だろうね」
「どうしますか?」
「ちょっと他を回ってみよう」
「分かりました」
ミルフィを連れて、地下四階を歩く。うにうにと触手を動かすローパーが出てきたが、茶色だ。ま、ミルフィはフルプレートを着込んでいるし、触手が鎧の中に忍び込まない限り、美味しい――オホン、マズいことにはならないだろう。
「じゃ、ミルフィは見物しててくれ」
「はい、ご武運を」
俺とシロだけでローパーに立ち向かう。エンチャントソードで炎を剣に使い、攻撃力を上げ、まずは触手から刈っていく。
触手の動きが激しくなったが、間合いを取って攻撃すればコイツは足が遅いので怖くない。囲まれると厄介だが、エリアに冒険者の数が多いせいか、一匹だけだ。
「よし、丸坊主にしてやったぜ!」
「ワンッ!」
時間は掛かったが、後は体当たりしかできないローパーの本体を斬り込むだけ。
「うーん、結構苦戦したなぁ」
楽勝だと思ったが、丸坊主の本体だけで15回の攻撃を必要とした。複数に囲まれてたら確実にやられてたな、こりゃ。
経験値は30ポイントと多めだ。
「核を狙ってみて下さい。ダメージが上がりますよ」
ミルフィがアドバイスをくれたが、見えないコアを狙えと言われても、今の俺にはちょっと無理だ。
「ここだとキツいな。ミルフィ、悪いが、手伝ってくれるか?」
「悪いなんてとんでもない。喜んでお手伝いさせて頂きます」
ありがたい。
ミルフィに先に攻撃してもらってローパーのHPを削り、俺がラストキルを取る。もらえる経験値は半分になったが、それでも一人で狩りをするよりもずっと効率が良い。
『ジョブのステップアップ! ジョブ〈ルーンナイト☆〉の熟練度が【中堅】に進みました』
『中級技【兜割り】を手に入れました』
「おっ! 熟練度が上がった」
「おめでとうございます!」
そうやって狩りをしながら地下四階のマップを埋めていると、ユキが俺を見つけてやってきた。
「ああ、いたいた」
「やあ、また会ったな」
さすがに奇遇だね、などとは言えないな。最初からユキと会うつもりでここに来たんだし。




