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第一話 新しい家族とニューゲーム

 一日一話4000字くらいの予定です。

 残虐な描写はほとんどありませんが、事前に前書きで注意書きするつもりです。

 

2017/3/14 少し修正。

 『仮想現実』が生まれておよそ半世紀――。

 サイドコアというスピーカーに似た非接触型(ノータッチ)のインターフェースが開発され、ベッドで寝ながら安全にゲームができる時代となった。

 もちろん(わずら)わしいゴーグルやコントローラーは不要である。

 視界は360度。五感すべてにリアルタイムで情報がフィードバックされ、触覚や嗅覚でさえもプレイヤーはその場で感じ取ることができる。

 究極の脳波誘導装置(インターフェース)『サイドコア』

 当初は電磁波を脳細胞に当てる危険性をマスメディアが扇動的に報じていたが、似たような仕組みである医療用MRI装置やTMS、携帯電話などの長期的な安全性が証明されたのをきっかけに、サイドコア・システムも様々な分野に積極的に応用されていく。やがて人々の抵抗感は小さくなっていった。

 むしろ、イメージトレーニングをフルに活用できるこのフィードバックシステムは、トップ・アスリート達には必須のものとなっており、初心者が手軽にスポーツを始める上での教材として学校教育でも利用され始めたほどだ。


 サイドコア世代が大人になった今現在、それはごく当たり前のゲームとなっている。


 そして、ここにまた一人、新たなプレイヤーが誕生しようとしていた。



「ええと? 名前は水沢(みずさわ)竜人(りゅうと)っと」


 俺は目の前に浮かぶウインドウに自分の名前を思念で(・・・)入力していく。

 学校でサイドコアシステムは使ったことがあるけれど、俺は自分のサイドコアのゲームは持っていなかった。

 マウスやタブレットのゲームしかやったことが無い。

 俺はどちらかと言えば本を読んでいる方が好きなので、わざわざそんな高額なものが欲しいとは思わなかったのだ。

 最近のゲームはどれもつまんないし。



「職業は高校生っと。年齢は十六。血液型はA型」


 項目を順番に入力していく。


「好きな食べ物? 何でゲームをやるのに、いちいちこんなものを入力しなきゃいけないんだ? 面倒臭いな……」


 とはいえ、これは単なる遊びでは無い。

 それなりの必要に迫られてのことだ。

 その理由――



 たった二日前、俺には姉と妹ができた。

 一介の高校生である俺にとっては、それはかなり衝撃的なことだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 今から二日前の金曜日のこと。


「なあ竜人、お前、寂しくないか?」


 夕食の時、男二人でカップ麺をすすっていると唐突に親父が聞いてきた。


 そう聞かれてドキリとしたのを覚えている。

 だが、俺としては怪訝(けげん)な顔で親父の顔を見返すだけだ。


「は? 何だよ、いきなり」


「いや、お前、彼女もいないだろ? 家に連れて来たことも無いし、弁当を作ってもらってきたこともないだろ?」


「だからなんだよ。ほっとけよ」


 彼女? なにそれおいしいの?

 俺としては、非常に不愉快な話題。

 しかも、クラスメイトに最近四組もカップルが誕生し、うち三人が知り合いであったため、俺の周りだけ春めいた空気が蔓延していたのだ。

 そうなると幸せのドーナツ化現象と言うべきか、恋愛など別にどうでもいいと思っていた俺もなんだかこのままでいいのか?という感情が渦巻いてくるから不思議だ。

 目の前で「あーん」をやられると、なるほど爆破したくなるのはこういうことかと妙に納得したものだが。


「ま、うちもな、ずっと男同士でやってきたが、飯を作ってくれる女性がいるってのはいいもんだぞ」


「……」


 母さんが胃ガンで死んだのは俺が小学校を卒業するひと月前のことだ。今でも、母さんの手料理の味を覚えている。

 特にセロリを入れたシチューが俺のお気に入りだった。


「でだ。実を言うと、俺にもモテ期?みたいなものが来ちまったみたいでな、ガハハ」


 親父よ、お前もか。


「死ねよ」


 いい歳こいた中年親父が照れてニヤつきながらモテ期?なんて疑問形で言ってくると、なんだか殺意すら湧いてくるぜ?

 どいつもこいつも。


「おいおい、そうひがむ(・・・)なよ」


「別にひがんじゃいないけど、勝手にしてくれ。俺には関係ないだろ」


「関係ある」


 一転して真面目な顔で親父が言う。


「ああ?」


 何がどう関係するというのか。


「実は再婚を考えていてな」


「えっ! マジで?」


 付き合っている人がいるとも聞いていなかったし、再婚のサの字も聞いていなかったので、俺には青天の霹靂だった。

 冗談にしか聞こえないが。


「マジだ。できればもっと早くお前にも相談したかったんだが……ユキヨさんがオーケーしてくれてないのにお前に先に話してその気にさせても、ユキヨさんに断られたら立つ瀬が無いだろ?」


「それは、まあ、そうかもだけど……」


「お前が反対するなら、この話は無かったことにするが、どうだ?」


 親父が聞いてくる。

 結婚の拒否権を俺に渡してくれるとは、その親父の度量の広さに自分との差を思い知らされた気分になった。


「いや、反対はしてないけど…」


「おお、そうか、ふう…反応がいまいちだから、ダメと言うかと思ったぞ」


「ええ? 言わないっての。もう俺、高校生だぜ?」


 正直、ピンとこない部分もあるが、親父の再婚に反対する理由は無い。本人の自由だろう。

 ユキヨさんがどういう人かは気になるけど。


「それとユキヨさんには娘さんがいてな。ああ、ユキヨは、()の降る君が()と書く。娘さんの方も二人とも雪の字があるんだが、中学生と高校生の子だ」


「え? それって…」


「ああ、お前の姉と妹になるな」


「ええ……?」


 連れ子がいるのか…まあ、俺も相手方から見れば連れ子なんだけども。

 年の近い姉妹って。


 俺が戸惑っているとインターホンが鳴った。


「おっと、雪代さん達が来た。じゃ、今日から全員でこの家に住むという方向で話が進んでるから、お前も話し合いに加わってくれ。ちゃんと挨拶するんだぞ」


「ちょっ、はえーよ! というか、おせーだろ、今それ言うの……」


 大声で抗議したくなったが、相手方に聞こえないように小声に留める俺。

 いきなり家族になる人が挨拶に来るとか、変に緊張してしまう。俺の態度次第では親父の再婚が破綻しかねないのだ。

 それだけじゃなくて、今日からここにみんなで生活だって?


 なんだよ、この無茶ぶり。

 なんだかんだ言って、親父も外堀から埋めてきた気がする。汚えなぁ。

 俺は自分の着ているTシャツのシワとズレを、ささっと手で直してから玄関に向かう。


「やあ、外は寒かったでしょう。ささ、狭いけどどうぞ。上がって上がって」


 玄関では一足先に、親父が気持ち悪いくらいに愛想良く三人を迎え入れていた。


「失礼します。ほら、深雪(みゆき)小雪(こゆき)、この人があなたたちのお父さんになる人だから、ご挨拶して」


 しっかりした感じの中年女性が二人の少女に向かって言った。

 ふうん、この二人も親父とは初対面か。


「うん、こんにちはー! 水沢小雪でーす」

「ふう…初めまして」


 ツインテールの髪型の明るそうな子と、ストレートのロングヘアの子。

 ツインテールの方は自分から水沢姓を名乗ったので、再婚には大賛成のようだ。だが、もう一人の子はため息交じりで視線も合わせないが……反対なのかな?

 とにかく、どちらもビックリするほど可愛い子だ。美形の家系だなぁ。


「よろしく、水沢健吾です。で、こいつが…おい、竜人」


 しまった。

 思わずロングヘアの子に魅入ってしまっていた。


「あ、ああ、初めまして、水沢竜人です」


「ええ、初めまして竜人君。雪代です。よろしくね」


「はい」


「へえ、ボクのお兄ちゃん、カッコイイ!」


 ツインテールの子はなんだか俺に興味津々だ。

 キラキラした目でこちらをロックオンしている。

 なんだか照れるね。


「……」


 一方、ロングヘアの子は不機嫌そうな顔で足下を見ている。

 まつげ長いな。それに細い足首。彼女が履いている黒のローファーは、新品のようで艶やかで綺麗だった。


「じゃ、ささ、遠慮せずに上がった上がった」


「お邪魔します」


 リビングに戻る。

 雪代さんがテーブルの上のカップ麺を見るなり困ったように言う。


「あら、食事中だったの、ごめんなさいね。後で何か作ろうと思っていたのだけど。でも時間がかかるから何か総菜を買ってくれば良かったかしら?」


「いやいや、雪代さん、気にしなくて良いよ。じゃ、竜人、ちょっとそこ片付けてくれ」


「ああ」


 カップ麺を片付けて、話し合いに挑む。


 再婚の話は誰も反対しなかったのでスムーズに進み、この家にみんなが住むという事で決まった。


 部屋割りは、ちょうど二階に二部屋ほど空いていたので、そこが小雪と深雪の部屋となる。

 そう言えば先週の日曜日に親父が部屋の片付けをやってたな。こういうことになるとは俺も予想してなかったが。親父も言いにくかったのかもしれない。

 雪代さんの部屋は一階の奥、親父の隣の部屋となった。……新婚だ。そのエリアは決して近づくまい。


 結局その日は雪代さんが夕食をまた作ってくれて、五人でピラフと野菜炒めを食べた。味はとても美味しかった。これからも食事は期待が持てそうだ。

 その翌日の土曜日、全員で引っ越し作業となったわけだが。




「えー? お兄ちゃん、サイドコア、持ってないの?」


 ツインテールの中学生、小雪ちゃんが驚いて聞いてくる。


「ああ、まあ、無くても困らなかったし」


 俺は肩をすくめる。実際、困ったりはしなかった。


「でも友達と話題とかに困ったりしなかった?」


「まあ、そういうときは適当に話を聞いて相づちだったから」


「うわ、それ、つまんないじゃん。パパ、お兄ちゃんに今すぐ買ってあげて!」


「ハハハ、よーしパパ、小雪ちゃんの頼みならなんでも買ってやるぞぉー!」


 パパと呼ばれた事が嬉しいのか無駄遣いするバカ親父。なんでもってなんだよ、なんでもって。浮かれやがって。


「親父、金、大丈夫なのかよ。結婚式の費用とか、あるんじゃないのか?」


 俺は問い質すが。


「ああ、心配しなくても、入籍だけだ。この歳で結婚式ってのもな。お互い二回目だしな。金の方は三人が大学に行くまでの教育費までちゃんと面倒を見てやれるから、心配するな。な、雪代さん」


「ええ、そうよ、私も勤めているし、お金の心配はしなくていいわ」


「ああ、うん、ならいいけど」


 そうは言っても、子供が三人もいるなら俺は国公立を目指しておくか。




 で、さらにその翌日の日曜、それが今日なわけだが――。

 小雪が俺にサイドコア用のゲームを教えてくれるという。


「ミッドガルド・ガーデンはね、ミッドガルドっていう世界でプレイヤーが自由にプレイできるの。剣でモンスターを倒してもいいし、街で職人さんを目指してもいいの。お金は要るけど、農場や自分のおうちだって買えちゃうんだよ!」


「へー」


 ゲーム内で水色の髪となった新妹、小雪が説明してくれた。

 顔の形とツインテールの髪型は現実と全く同じだが、髪と瞳の色をいじっているようだ。

 派手なリボンとネックレスに耳ピアスも付けている。

 ま、ゲームの中ならいくらオシャレしても問題は無い。

 ピンクと白のストライプのニーソに可愛らしいフリルのスカートを穿いて、先っぽに拳大の宝石が付いたロッドを持っているが、これは魔法使いだろう。


 ミッドガルド・ガーデン、略称はミッドガーデン、M(エム)G(ジー)や『箱庭』とも言うらしい。 

 自由度の高さが売りのRPGのようだ。


 家族でプレイするのはちょっと気恥ずかしい気もするが、せっかく小雪がレクチャーしてくれるというので、俺も一緒に遊ぶこととなっているわけだ。

 俺用のサイドコアは親父が昨日のうちに買って来た。

 幅十センチ、高さ二十センチの箱型のワイヤレス装置が二つ。色はブラック。これをベッドの枕の近くへ置いておくだけで、自動的に電磁波を脳に向けて飛ばす仕組みらしいが、詳しいことまでは俺も知らない。


 たが、新しいゲームというのはなんだかワクワクする。

 新しい妹という存在にも。

 仲良くなれればいいな。


 もちろん、俺も紳士として振る舞っておこう。ノーマルの紳士で。

 今日から俺は兄貴になったんだ。

この世界の電磁波は、脳に当てる場所や強さが計算され安全なモノになっているという設定にしたいと思います。

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