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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第一章 広がる世界

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第二話 ミッドガルド・ガーデン

 俺は今、VRMMOの『ミッドガルド・ガーデン』をベッドに寝転がってプレイしている。

 サイドコアが起動すると部屋の天井が消え、代わりにウインドウが表示された。黒背景に白い枠線のシンプルなタイプだ。

 IDは表示されているが、パスワードは無い。

 生体認証でこのIDには俺しかログインできない仕組みなのだ。


「ようこそ、ミッドガルド・ガーデンへ。あなたはこれより――」


 女性の声でアナウンスが始まったが、俺は急いでいるので念じてスキップを選択する。

 オープニングは後からでも見られるからと事前に小雪が教えてくれた。

 『本当にスキップしますか?』という確認が出るが『はい』で。

 小雪も自前のサイドコアを持っていて、今は彼女の部屋でプレイしている状態だ。

 彼女を待たせては悪い。


 足下に粒子が集まり、石畳が俺を中心に広がっていく。

 広場が構成され、上が青色で埋め尽くされていき、青空となった。巨大な赤い月と青い月がそこに寄り添うように浮かんでいる。

 ゆったりと雲が流れ、空はどこまでも広がっていた。


 これがミッドガーデンの世界なのか。

 圧倒的な本物の質感に俺は声も出ない。

 空中に〈冒険者の広場〉と文字がオーバーレイで浮かんで消えていく。


 ここは街中の一区画の広場のようで石畳の上に俺は立っている。

 向こう側に見えるのは神殿なのか、ゴシック様式らしき石造りの大きな建物があった。 

 そして広場(ここ)には大勢の人間がひしめいている。

 鉄の鎧を着た威圧感のある大男や、草色のローブを着たエルフの魔法使い、黒装束の忍者やトカゲ人間までもいて、いろんなプレイヤーがいるようだ。

 彼らの笑い声や下らないジョーク、金属ブーツのカチャカチャという靴音も聞こえてくる。


 だが、これはすべてヴァーチャルの世界。


 本当は部屋の中にいるというのに、不思議な感覚だ。

 手を動かそうと思えば動くし、立っている感覚もちゃんとある。

 自分の服も触ることができる。中世風の白い布の服だ。


「おっと、小雪ちゃんと合流しないとな」


 俺は見回して彼女を探そうとしたが、これだけの人数ではすぐに見つけられそうに無い。

 彼女はゲーム内でも同じ本名を使っているそうだ。それは個人情報として大丈夫なのかと俺は心配したが、彼女は笑って「下の名前だけならヘーキヘーキ」と言っていた。

 ま、俺の名前も竜人をカタカナにしただけなので、他人の心配をしている場合でもないか。


「お兄ちゃーん、どこー」


 聞き覚えのある声がしたので、俺は手を挙げた。


「ここだ!」


 すると一斉に周りの視線がこちらに集まった。ちょっとドキリとしたが、それだけだ。誰も文句は言ってこないし、すぐに彼らは俺に興味を失ったようで各々の話し合いを再開した。


「いたいた。じゃ、今日はよろしくね! お兄ちゃん」


「ああ」


 俺はこうして小雪と無事合流できたわけだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「じゃ、お兄ちゃんはヒューマンの剣士かな?」


 一通りの説明を終え、水色の髪の魔法使い〈小雪〉が聞いてくる。


「いや、魔法剣士(ルーンソード)だ」


 剣も魔法も使えるという、優柔不断な俺にはピッタリの職業(クラス)


「あー、それちょっと成長が悪いんだけど…まあいいか。ブルーの髪はいいとして、なんで顔、リアルのままじゃないの?」


「いや、当たり前だろ……」


 名前はごまかせるとしても、顔はすぐ特定されるじゃないか。


「リアルの方がカッコイイのに」


「そうかぁ?」


「そうだよー。じゃ、まずは盾と薬草を買って、野外(フィールド)でレベル上げしてみよっか」


「ああ、分かった」


「じゃ、防具の店はこっち。NPCじゃなくてプレイヤーのお店の方が良いのがあるから」


 露店が並ぶ通りに向かい、小雪が持っているロッドを振って〈検索ウインドウ〉を目の前に出した。


「ええと、種別(カテゴリー)は防具、小盾っと。使用者はレベル1で。レベルが上がったら、また新しいのを買うと思うけど」


 小雪が条件を決めてソートすると、ウインドウのリストに四つほど項目が出た。


「この一番下の〈ハイパー・デラックス・マグナム・死暴帝シールド改Ⅱ〉ってのは勝手に付けた名前だよな?」


 痛々しい名前の盾が目に付いたので、一応聞いておく。

 これが正規名称なら、プレイはご遠慮したい……。


「うん。【生産アイテム】は名前は自由に改名できるから。でもこれ、ただの木の小盾をちょっと改造しただけだねー。耐久値、初期より下がっちゃってるし。

 あ、ボクは【鑑定 Lv3】のスキルがあるから分かるけど、お兄ちゃんは買うときに気を付けてね」


 プレイヤーが販売している生産アイテムは、強力な物もあるようだが、詐欺もありそうだ。それにしてもボクっ子か……グッド!


「ああ、ま、これくらいのなら名前だけで分かるけどな」


「あはは、そうだねー。じゃ、二つ目のが良さそうだから、現物を見てみよ」


 そう言って小雪がリストをロッドで叩いて選ぶが、次の瞬間、彼女の姿が消えた。

 えーと……。

 小雪が買って来てくれるという事だろうか?

 それともパーティーをまだ組んでなかったからはぐれたかな?

 少し待つことにする。




「ごめーん、お兄ー、パーティー組むの忘れてた!」


 走って小雪が戻ってきた。


「そうだと思った」


 目の前にウインドウが表示され、『〈小雪〉さんからパーティーの勧誘を受けています。承諾しますか?』とメッセージが出た。もちろん承諾で念じる。

 右下に小雪のHPゲージが加わったが、レベル表示は『Lv ???』になっている。


「これ、パーティーメンバーのレベルも見られないのか?」


「あ、んーん、見れるようにもできるんだけど、ちょっと待ってね。はい。これで。助っ人や野良パーティーを組むときはあんまり見せない方が良いから、デフォルトでそうしてただけだよ。それと――」

  

 『〈小雪〉さんからフレンド申請が出されています。承諾しますか?』


「ああ、いいよ」


 承諾。家族だもんな。


「良かったぁ。それはちょっと……っていきなり断れたらどうしようかと。家族だもんね!」


「そうだな」


 まだ小雪とは会ったばかりだが、そこはそれ、上手くやらないと。


「ふふっ」

「はは」


 この子とは仲良くできると思う。

 姉の深雪の方はなんだか手強そうな感じだったが。食事の時もほとんど無視されたし。

 


 俺はウッド・ラウンド・シールドという小さな盾を買った。

 値段は50ゴールドだが、小雪が店主と交渉してくれて40ゴールドで買えた。

 彼女は【値切る】というスキルを持っているという。


「この盾はベルトで腕に固定できるから使いやすいよ」


 小雪が言う。


「なるほどね」


 持ってみると実際に盾の重さが感じられる。リアルだな。


「これ、装備はどうするんだ?」


 小雪に聞く。


「メニューの装備で盾を選べば良いよ。ベルトを自分で締めても装備したことになるから」


「へえ。じゃ、メニュー・オープン」


 ハンドサインや視線だけでもメニューの呼び出しは可能らしいが、馴れないと難しい。

 俺は無難に声に出して操作した。メニューバーが出てきた後は視線だけで操作は楽々だ。


 小雪の鑑定結果によると――



【名称】 ウッド・ラウンド・シールド

【種別】 小盾

【材質】 樫

【効果】 

 防御基本値+20

 防御率+10%

 平均防御力+2

 無効化+5%

【耐久】 100/100

【重量】 2

【総合評価】 D

【解説】

 初心者向けの小さな盾。

 誰にでも扱える軽さ。

 防御できる範囲は非常に狭い。

 〈装備可能〉



 【効果】の『平均防御力』というのは20ポイントの防御力が10%の確率で発動するので、平均して2ポイントの防御力が期待できるという意味だと思われる。

 『無効化』の方はよく分からない。

 俺は小雪に聞いてみた。


「無効化ってなんだ?」


「敵の攻撃を上手く盾に当てるとノーダメージってわけ。ま、最初は全然気にしなくて良いよ。シールドの【オート・カバーリング】ってスキルを覚えないとまず使えないもん」


「ふうん。そっか」


「まっ、頑張んな! 兄ちゃん」


 ムキムキの店主が太い声をかけてくれた。


「ど、どうも」


「ふふっ、このおっちゃんはボットだから真面目に返事しなくても良いよ」


「ああ、緑色のカーソルだっけ?」


「うん」


 全員の頭上に、小さな下向きの三角錐が浮いているのが見える。アクティブのプレイヤーは青色で、店主は緑色。

 緑色は実際の人間では無く、AIが操作しているという。

 とはいえ、表情も自然で防具を手入れする様もリアル過ぎてカーソルが無いと区別が付かない。

 プレイヤーがログアウト中にアイテムの在庫を店売りしたり、鍛錬でスキルを鍛えたりできるらしい。

 四六時中プレイしている廃人プレイヤーと、プレイ時間が限られる一般プレイヤーのバランスを取る仕組みだそうだ。




「次は道具屋だね」    


「ああ」


「こっちだよ」


 薬草は一枚2ゴールド。ヨモギみたいな葉っぱだ。HPを10ポイントくらい回復してくるという。

 二十枚ほど買った。

 ちなみに俺の今のステータスはこうだ。




[リュート]

 

HP 17 / 17  

MP 10 / 10  

TP  8 / 8

BC 0 / 100


【総合レベル】1

【クラス】新人冒険者(ルーキー)

【ランク】F

【ジョブ】魔法剣士(ルーンソード)

【ステップ】スタート

【カルマ】

 ノーマル

 ニュートラル


【筋力】8

【敏捷】6

【耐久】6

【器用】5

【知力】7

【魔力】8

【交渉】6

【容姿】6

【幸運】6


【攻撃力】18(+10)

【防御力】15( +9)

【素早さ】13(-1)

【魔法攻】11

【魔法抵】10


【装備】

青銅の小剣

布の服

樫の木の小盾

革製のブーツ


【所持金】20ゴールド

【勇名】 0

【経験値】0

【Next】10


[所持スキル]

 Lv1(必要TP 2)

薙ぎ払い(スイープ)





「じゃあ、〈始まりの平野〉でスライムを倒そっ。弱いから楽勝だよ!」


 小雪に案内してもらう。

 街の外には見渡す限りの草原が俺達を待ち受けていた。

 暖かい陽光の中、新緑の絨毯に時折そよ風が波の足跡を作っていく。

 こんなにも綺麗な、そして広々とした世界があったのか――

 俺はそんな新鮮な驚きを久しぶりに味わった気がした。


 ここでいったんパーティーを解散する。そうしないと経験値がパーティーで分散されてしまい、入りが悪いそうだ。


「じゃ、剣で斬り込んでみて、お兄ちゃん」


「おう」


 ここは妹に格好良いところを見せるチャンスだな。

 相手は透明なスライムだ。

 草むらの上をプルプルしつつ、のんびりと動いている。

 敵モンスターを示す黄色い菱形のマーカーも見えている。


 俺はスライムの後ろから素早く近づき、両手で握った剣で水平に強く振った。

 ズブッと妙にリアルな手応えがあり、だが、スライムはまだ死んでいないようだ。


「もう一撃、食らわせて!」


 反動のせいか思ったより剣が重く、すぐには斬れない。

 ピチャッと顔に液体が飛んできて、うえ、臭い。

 それでも俺はもう一度、剣を振るってスライムを倒した。

 ボフンと白い煙が上がって、スライムが消える。


「ね! 弱いでしょ」


「ああ。でも、お金や宝箱は出ないのか?」


 俺は小雪に聞く。


「ざんねーん、スライムは滅多に落とさないよ」


「ああ、そう」


 ステータスを確認するが、経験値が1増えていた。レベルアップまであと九匹か。

 HPも1ポイント減ってしまっていたが、スライムは動きはノロい。楽勝だ。

 俺はその辺にいる次のスライムに走り寄った。


「あっ! 逃げて! お兄ちゃん!」


「え?」


 小雪の叫び声に俺は振り向いたが、黒い影が背後にいた。

 なんだ?と思った刹那(せつな)、体に強い衝撃があり、俺は体ごと空中にふっとばされていた。


「うおっ!?」


 ドサッと草むらに転がるように倒れてしまう。ちょっと痛かった。

 起き上がろうとするが……あれ?

 動けない。

 な、なんだこれ。バグ?


「あちゃー……やられちゃった」


「え? え?」


 俺は何が起きたのかよく分からなかったが、HPゲージは真っ赤だ。

 『復活可能時間、残り9秒』という表示が出ていて、それがカウントダウンしている。


 つまり、どうやら俺は死んだらしい。

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