LOAD GAME →ザベイスにて 残り時間119:00:00
※今回の最後の謎解きには参考文献があるのですが、ネタバレ防止のために後で記載させて頂きます。ご了承ください。
※謎解きは難しめに作っているので多分解けないと思うのですが、もし分かった人いたら中上まで御連絡頂けると幸いです。画面の向こうから敬意を表して拍手させて頂きます。
懸命に頭を捻って考えたものの、バターは結局古文書の謎を解くことはできなかった。無念極まりない表情でそれを嘆きつつも、彼女はパックと共に集合場所である宿に帰還する。
そこで彼女はパックと共に、他のメンバーと頭を悩ませる羽目になっていた。
「ちょ、ちょっと待って! 順番に整理するよ、まず兄さんが……」
「そ。俺はNPCの落とし物を拾ったら、自分のじゃないと言われて、なし崩し的にこれを手に入れちまった」
攻略の鍵を拾っていたのは、パックとバターだけではなかったのである。パフはその拾得物である簡易辞書を掌で弄んでいる所であった。それは形の上では紙製の辞書ではあるものの、機能的には電子辞書と同じである。
とはいえ所詮簡易版であり、大した情報が載っているわけでもない。その為パフの扱いはぞんざいで、気軽にパックにも投げ渡してくる。
慌ててそれをキャッチしつつ、パックは次の手がかりに目を移す。
「それで、姉さんが拾ったのは……紙?」
「そう。市場の一角で、胡散臭いNPCがくれたのよ」
テーブルの上に広げられたのは、パック達が手に入れたのと同じように古びた古文書である。ティーはアイテムを買った拍子にそれをおまけとして手に入れていたのだ。そこにはこう書かれている。
“そそひはしよほ”
ティーは子供騙しのそれを、つまらなさそうにひらひらと振っていた。
「And……! これが私の見つけた物です! みんなで謎解きするです!」
最後にアメリアが楽しそうに取り出した物も、同じように古びた古文書であった。ただし、ティーの物とは違う点が一つ。それはパックの物と同様に日本語で書かれていたのだ。
“仲良し姉妹はいつも二人で決して終わらぬ鬼ごっこ。追いつく度に大喧嘩。でも大丈夫。仲直りして、また走り出す。これ、なーんだ?”
「猫と遊んでたら、飼い主のLadyがくれたです!」
パックは思わず天を仰いでいた。“名もなき砂漠”に確かにギミックは無いし、広大なフィールド探索は退屈である。ただ、それが全てではなかったのだ。
謎解き。これこそがこのフィールドの醍醐味だったのである。そこでパフが弟たちの手に入れた古文書に目を通し、興味深そうに笑みを深くした。
「“塔の作りし正三角。1つは生きる、1つは動く、1つは逆さま。謎を解きしは逆さまのもとにて道は開けよう”……ね」
「パフさん。どうします? 正直、私何が何やらちっとも分からなくて……」
「んー。ま、仕方ないさ。謎解きステージだし、これを楽しむのも一興って奴だね」
そう。パフは既に幾つかの謎を解いているのである。それはティーも同じであり、分かっていないのは残りの3人だけなのだ。
今更になってパックがそれに気付き、無邪気に頭をひねりつつも謎解きを待っているアメリアに負けまいと頭を捻る。
しかしながら、時間切れだった。
紙とにらめっこする2人を優しく見守りながらも、パフはまずティーの古文書を指さす。
“そそひはしよほ”
「これは簡単だな。と言っても、アメリアには難しいかも……」
「Nah! 3分間待って欲しいです! 解いてやるです!」
その言葉にむきになったアメリアが、穴が開きそうなほどに手に持った古文書を睨みつける。そのまま無意識の内に身体を左右に逸らし、同時に古文書も傾く。
その瞬間、パックも兄姉に続いて頭の中を閃きが過る。
「あっ! 分かった」
「えっ!? 嘘、パック凄いじゃない!」
「Shucks! ちょ、ちょっと待つです!」
アメリアと並んで問題の解けないバターは、気が付けば涙目になっていた。思わずパックに答えを教えてもらおうとして、それを優しい瞳で見守っているティーに気付いて奮起する。
そして、悲喜交々の5分が経過していた。
真っ白に燃え尽きたバターを尻目に、パックが答えを導く。
「“ここに無き物”! ひらがなを50音表で一個ずつ右にずらせば良いんだね!」
「What’s!? そんなの……ズルいです!」
簡易辞書を開いてひらがな一覧を表示させた彼は、会心の笑みを浮かべていた。一方外国人のアメリアは解けず、悔しそうに握りこぶしを作る。
そこでティーが、アメリアの拾ったなぞなぞを見ていた。もっとも彼女の場合、端的に結論に達する。
“仲良し姉妹はいつも二人で決して終わらぬ鬼ごっこ。追いつく度に大喧嘩。でも大丈夫。仲直りして、また走り出す。これ、なーんだ?”
「駄目ね。暫く考えたけど、分からなかったわ」
「むー。確かに難しいわ。終わらない鬼ごっこ……大喧嘩と仲直り……」
今度はバターと二人で頭を悩ませる。そしてその時、パックは自分の隣でアメリアの瞳が輝くのを確かに見ていた。
「あぁ。これはスフィンクスの質問……の亜種だな。補足が付いてるし。“ここに無き物”はこれのヒントで、正解は……」
「No! パフ、言っちゃダメです!」
時間のかかりそうなのを見越したパフが解こうとした瞬間、アメリアがそれを止める。彼女は自慢げに胸を張りながら、ささやかな優越感に浸っているのである。
「ふっふーん! さぁパック! 解いてみるです!」
「えぇっ!? 僕!?」
「そうです! さぁ、3分間待ってやるです! おねーさんからの親心です!」
実に良い笑顔だったので、パフは思わず止めるタイミングを無くしていた。
「それを言うなら、親心じゃなくて姉心じゃないかしら?」
「あねごころ……あねご……ころ……ハッ! 姐御転!? おねーさん転んだですか!?」
「はいはい。今日も日本語講座の時間ですよー」
気が付けばバターは、解けない鬱憤を誤魔化していた。
「兄さん……ヒント……」
「そのまんまだ。他のステージには有ったけど、このステージには無い物。……特に“水没都市”では印象的だったな。言うまでもなく、現実にも存在するぞ。まぁ、見えない時はあるけどな」
そこでようやくパックはおぼろげながら回答を察し、同時に答えるのに気恥ずかしくなってしまう。
「弟よ、分かったな?」
「うん……! 砂漠には無いけど、他のステージには有る! そして出てくるのは追いかけっこする姉妹! ということは……」
「そう! そうだぞ! して、それは!?」
解答を楽しそうに待っている兄と姉とその親友とアメリアを待たせるわけにもいくまい。彼は覚悟を決めると、意味もなく場を盛り上げる兄と期待を込めた姉の前で口を開いていた。
「水着の女の子だね!?」
「……はい?」
「……馬鹿弟。そこに直りなさい、その根性を叩き直してくれる」
自信満々の回答は、居たたまれない空気となっていた。バターですらフォローできない失態に、彼は机の上に撃沈する。
「Ay……パック……。これじゃ、ブッチーやHellcatの童貞を否定できないです……」
「正解は月と太陽だ。日食とかを除けば、基本的にずっと追いかけ合っているだろ?」
この失態にはアメリアですらジト目で抗議している。兄は同じ男としてフォローしたかったが、残念なことに如何ともしがたい。それゆえ、話を進めることで誤魔化していた。
“塔の作りし正三角。1つは生きる、1つは動く、1つは逆さま。謎を解きしは逆さまのもとにて道は開けよう”
「多分、サボテンと噴水だ。オアシスにあった巨大なサボテンと、ここの巨大噴水がそれぞれ生きる塔と動く塔だ」
「なるほどね……。それじゃあ兄さん。最後の逆さまの塔は?」
「分からん。が、問題ないだろ? 正三角なんだ。2点が分かれば、最後の1点も分かるはず」
パックは兄の問いかけに、必死になって頷いていた。
このステージには周囲を見渡せるような高層建造物は無い。が、建造物でなければある。オアシスに存在する、巨大サボテンである。優に20メートルを超す柱サボテンは、触るたびに1ダメージを受けてしまう。
逆に言うと、1ダメージしか食らわないのである。その為ダメージさえ覚悟すれば、上に登ってこの広大なフィールドを眼下に納めることができるのだ。
「あそこ……か」
気まずさを誤魔化そうと率先してサボテンに登ったパックは、そこでひたすらに続く砂漠の大パノラマに圧倒されていた。砂漠は砂丘があるくらいで、遥か彼方までを見通すことができるのだ。同時に雲が、手が届きそうなほど近くを流れていく。
空色と砂色が視界の隅から隅までひたすらに続く風景は、地上からの眺めとは全く違って本能に訴える荘厳な美しさがあったのだ。
パックは無意識の内に息を吐いて、呆けたように眺め続けていた。
幸い、オアシスとザベイスを直線で結ぶと完成する正三角は1つだけである。もう1点はフィールド外なのだ。またパックは気付いていた。目的地付近はよくよく見れば、ザベイスの大通りの直線状に位置していたのである。
弟の献身によってナーガホームは再びザベイスに戻ると、一旦拠点の外に出てから大通りに沿って進んでいた。湧きよる敵など歯牙にもかけない。
砂塵舞う中を常に拠点を背にして進んだこともあって、目的地には6時間程度で到達していた。そこは一見すると何もない、枯れたサボテンだけが立っている砂丘であった。
パックが振り返ってみれば、砂漠の遥か彼方に巨大サボテンと、噴水の作る虹が見える。
「兄さん……ここで良いのかな?」
「そのはずだが……あれか? 答えを言わなきゃいけないのか?」
「Wow! ハイハイ! 私やりたいです!」
大手を振ったアメリアがピョンピョン飛んで精一杯アピールし、バターとティーが彼女に道を作る。
前に出たアメリアは枯れたサボテンに向かって、力強く宣言していた。
「“月と太陽”!」
風が、ピタリと止んだ。
「……?」
だが、一瞬だけだ。直ぐに吹き始めると、瞬く間にその勢いを増してく。途端砂が風にあおられて宙を舞い始め、鞭のしなるような鋭い音が響き始める。
「砂嵐よッ! みんな伏せて!」
その直後バターが叫ぶのと同時に、話すことさえ困難なほどの強風が巻き起こる。竜巻と見紛うばかりのそれは瞬く間に砂丘を削っていき、プレイヤーには一切の傷を与えない。
「これは……地下への入り口?」
そして砂嵐が去った後、そこに残されていたのは枯れたサボテンの地中に埋まった部分と、地下へ続く階段だった。
“王墓”
それが“名もなき砂漠”のダンジョン名である。その全容は砂に埋もれてしまい、把握することはできない。ただ、戦うには十分すぎるほどの広さがあるのは確かだった。
そのダイナミックな仕掛けは、すっかりナーガホームの面々を魅了していた。彼らは自然と湧き上がる冒険感を噛み締めながらも、ゆっくりと階段を下りて行く。
そして全員が中に入ると再び砂嵐が巻き起こり、全てを砂の下に隠していた。
“王墓”は、ピラミッドのような日に焼けた石をくみ上げて作られたダンジョンだった。部屋は5つしかなく、一応石の廊下で隔てられてはいるものの、顔を見ながら会話できる程度の距離である。全体を俯瞰するならば、“田”に似ているだろう。
東西南北の小部屋の構造は、ほとんど同じであった。壁に備えられた無数のたいまつが照らし出す部屋では、真ん中に甕を持った石像が立ち中央の部屋を向いている。石の床には同心円状の不思議な模様が描かれ、天井には蜘蛛の巣が張っていた。
中央の部屋だけは少しだけ違う。松明が存在するのは同じだが、中央に石像は存在しない。
代わりにあるのは古代の祭壇である。2つの火の消えた燭台に挟まれた巨大な石棺が安置されていた。その頭部には古代の王の顔を模した仮面が据え付けらており、明らかにただ者ではない雰囲気を醸し出している。その隣には小さな石板が存在した。
石に閉ざされた空間に足音を響かせながら、一行は一通りの部屋を観察すると中央の部屋で頭を突き合わせていた。
パフは“王墓”最奥の石板を前に顔を顰める。
「面倒だな……」
それは、全員の意見の代弁でもある。ティーですら、渋面を隠そうともしていない。パックの隣ではアメリアが真っ青になって頭を抱えている。バターは頭痛を堪えるかのように、額に手を当てていた。
「……雑魚が出ないのは良いわね。謎解きに専念できる」
良い所はそれぐらいであった。フィールドの敵の経験値が多めなのは、ダンジョンに敵が出ないことを反映しているのであろう。
謎解きを重ねてきた一行であるが、さすがに目前のこれにはお手上げだった。
石板には次の文字が刻まれている。
『
1
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2
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』
「なッ、なんなのよ!? これは!?」
「暗号文ね……。手間のかかる真似を」
「はぁ!? こ、こんなの……解けるわけないでしょうがあああッ!」
思わずバターは石板を指さすと素で罵声を浴びせていた。狭い石室の中を怒声が反響する中、腕を組んで立ち尽くすティーは窘めることをしない。彼女をもってしても、お手上げだったのだ。
「あわわ!? に、兄さん、どうしよう!?」
「My!? こ、このままでは、全滅です!?」
残された時間は少ない。パックはアメリア共々、気が付けば兄に視線を向けていた。
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