【5:玉響イチジ、と言う少年。】
ずっと愛してたんだろう。出逢ってから。
【5:玉響イチジ、と言う少年。】
そして今も愛してるんだ。自分さえ棄てて。
「つまりは、まぁ、そう言うことだね」
あまりに礼儀を欠いた雰囲気はしかし誰も咎めない。この場の支配者は彼だから。ディーラーたる神は彼に優位な『切り札』を与えている。
その無礼な笑いの先にはベッドに横たわる少女と少女の手に自らの手を重ねながら付き添う少年。
もっとも、『切り札』は彼が笑う相手自身だが。
「彼女は、頑張ったよ。それこそ─────ボロボロだ」
くっと喉が鳴る。少年は聞こえてないかのように微動だにしない。
ひたすら、ひたすら少女を見詰めている。
わかっている。少年は、わかって、いる。
彼女をこんなにしたのは自分だ。自分がいなければ。
「……っ」
とうに安らかな終わりを迎えていただろうに。
「─────どうするんだい?」
ここで始めて道化に似た館の主は予想外にもその表情を悦楽に歪めてはいなかった。少年は逆にそんな態度に不信感を覚えるけれど。
主が姿勢を改める様子は微塵にも無かった。話はその間も続く。
「彼女はもう無理だよ。それこそ、
きみのようにならない限り」
「……、それだけは駄目だっ!」
平常の忘れっぽい、年不相応にあどけない少年はここにいなかった。
いたのは、しあわせな夢から醒め現実を直視してしまった、聡く愚かな罪人だけだった。
少年は自身のほうが病に臥せるかのように苦悶を表し己の胸倉を掴んでいた。
少年は思い出す。
少女と出会った奇跡。
少年は、生まれ付き高尚と低俗の狭間に位置していた。少年が歩けば前に駆け寄り口々に道を塞いで讃える民衆。通り過ぎれば背後はこそこそ吐かれる陰口。
反吐が出た。
そんなヤツらも、高貴なる父親も下賎な母親も。合間にいる雑種で、でも結局は偽って笑い掛けるしか出来ない自分も。
大嫌いだった。
だから、少年は人気の無い場所を好んだ。自分の部屋はいけない。母親がいるからだ。
金と引き換えに足を開き、その股から自分を血塗れで生み落とした母親が。
その育ちから潔癖になってしまった少年は閑散と荒涼とした寂寥な空気を好んだ。
……そんな少年だったから。
「───」
ただ超然と涙を流す少女に惹かれたのだろう。
「何をしているの?」
自然と、口が問い掛けていた。
穢れの一つも見受けられない少女。単純な悲しみに彩られ、そこには何の交じり気も感じられなくて。
純粋な感情だけを持つ少女。穢れた己とは違う。
「私は“ヒビ”。『刹那ヒビ』よ」
少年は少女の瞳に映る自己を内心恥じた。
この体には、もう取れない内から表れた黒い痣とか刻まれた赤い染みとか。
そのような穢れに塗れていた。
きっと。
そう、だから。
卑俗と自らを戒める少年は、無自覚に高潔な少女を愛したのだろう。
【→It continues to 檻のしあわせ .】




