sixth/violet
影が、波打つ。
ヒノエの影はゆっくりと変形し、それはある形を作り出す。
腕である。
何十本もの腕が蠢き、分裂してゆく。
腕は、彼を抱き締める様に巻き付いていき、ヒノエの姿を完全な黒へと変えた。
それに『何か』達が群がってゆき、
突風が吹いた。
風は全てを揺るがし、なびかせ、明確な殺意を持って『何か』を切り裂いた。
「なっ!?」
『何か』の頭、腕、足、胴、臓物……それらが全て、細かな肉片や青い血液と共に空を舞う。
その風が、剣の一振りが起こしたものだと誰が気付くだろう?
腕が、解け
闇に、帰り
彼の、姿は
「『紫色の影は闇を喰い尽くす迄、止まらない』」
風になびく、銀色の長髪。
『何か』と同じ、紅の瞳。
薄紫色だった刀身は黒に染まり、禍々しく暗いオーラを放出している。
足元からのびる影は、鮮やかな紫色をしていた。
「そ……んな見かけだけのもの!」
香織の叫びに、残りの『何か』がそれに向かっていく。
それは静かに、剣――紫影を上段に構えた。
『紫冥斬"火手"』
呟きと共に、刄が青白い炎に包まれる。
そして、それは疾走を開始した。
それは断ち
それは斬り
それは裂き
それは貫く
血は一滴も流れない。
炎が、傷口を焼いているからだ。
炎が傷口から侵入しているからだ。
炎は『何か』の中で、その勢いを増し、
瞬く間に『何か』を白い灰に変えた。
それはゆっくりと、香織に近づいていく。
香織は目を見開き、後退り、震える声で呟いた。
「あなたは、なに?」
それは微笑して、呟きに答える。
「自己紹介はした筈でしょう?――僕は、ヒノエ・クレーバーです」
香織の首は宙を舞い、炎に包まれ虚空に消えた。




