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SHADOW OF VIOLET  作者: 火瀬
4/8

third/devil

 数日後。

 香織は夜の街を、自宅に向かい歩いていた。

 残業の為、時間は既に深夜。

 人気など有る筈もなく、そこにはただ耳の痛むような静寂がある。


『こんな事なら、もう少し早く帰るんだった……』


 香織は注意深く闇を見渡しながら歩を進める。

 そして後僅かで辿り着く、と彼女が息を吐いた瞬間。



 前方の、闇が揺れた。



「!?」


 一度きりならば、目の錯覚で済ませられたかも知れない。

 しかし、二度三度……と、闇は水面の様に揺れ、波打っている。


「な、何……?」


 息絶え絶えに呟いた、 香織の言葉に反応するように、闇は平静を取り戻し、代わりに、赤い穴が四つ、音も無く開いた。

 深い、正しく深紅と呼ぶに相応しい。

 静なる闇と相反する、動なる赤。

 それは何よりも鮮やかであり、

 何よりも艶やかであり、

 ――そして何よりも、凶暴な色だった。


「ひっ……い、いやぁ……」


 赤い穴――それが何かの『瞳』である事はほぼ確実な事であったが――は、よりその赤色を濃くしながら、徐々に彼女に近づいてくる。


 香織は直ぐにでも逃げ出してしまいたかったが、彼女の体を支配する恐怖がそれを許す筈もない。 その場から一歩も動けないまま、彼女の混乱と恐怖は頂点に達した。


「いやぁぁあああっ!」


 悲痛な叫びは闇に溶け、そして――



『創司式結界法二十三号、展開!』


 どこからともなく聞こえてきた声と共に、赤い瞳の動きが止まる。

 香織が慌てて声の聞こえてきた方向に目を向けると、そこにはやはり、彼らが居た。


「お前がノロマだから香織さんが危ない目にあってんじゃねーか!」

「葉月さんの足が遅い所為でしょう。歳なんですから無理しないで」

「んだとコラ!俺はまだまだピチピチだっ!」

「いいんですか、そんな汚い言葉遣いで。香織に聞こえますよ、狙ってるんでしょう?」

「むきー!」


 まるでコントの様な掛け合いをしながら、ヒノエと葉月は香織の元迄やってきた。

 葉月の服装は昼間と全く変わりはなかったが、ヒノエの服装は昼間と違い、黒いシャツに赤いコート、といった少し変わった物だった。

 背中には、布に包まれた細長い物を背負っている。


「葉月さん、香織さんを頼みます」

「老後の事まで任せとけ」

「……」


 ヒノエは無言で赤い瞳に近づいていく。


「ヒノエさん!!」


 香織が堪らずに声を上げると、彼は振り返り笑ってみせた。



「ここからは、僕の仕事です」

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