first/everyday
喧しい――少し古風なベルの音が、簡素な部屋に響いている。
部屋には物が殆ど無く、僅かに有る物も乱雑に並べられていて、何処か閑散としている。
その中での唯一の家具である――それでも十分に汚らしいソファの上で、青年が静かに眠っていた。
歳は十代後半位だろうか、黒髪もぼさぼさのまま、僅かに頬笑みさえしながら幸せそうに目を閉じている。
先程からけたたましく鳴り続けているベルの音にも、 微塵も起きる気配は無い。
やがて電話のベルは止み、彼の眠りを妨げる物は何一つ無くなる――筈だった。
「起きんかくぉらー!!」
「うゎゎわわわっ!?」
唐突に響き渡った怒声に、青年は慌てて身を起こす。
その鼻先を壊れたドア――正確に言えば、『壊された』ドアが掠めた。
「……――っ!!」
ドアは壁に当たり、轟音と共に砕け散る。
青年は叫び出しそうになるのをぐっとこらえ、勢い良く入り口を振り向いた。
「来る度に扉壊すの止めて下さいよ、葉月さんっ!」
ドアの無い入り口に立っている男――水城葉月<ミズシロハヅキ>は、呆れた様に言った。
「お前が起きないからだろーがっ! 何回電話したと思ってる?」
「何回したんです?」
「2回」
「少なっ!!」
「この前30回かけても起きなかったじゃねーか!」
「ワン切り30回で起きろって方が無茶ですよっ!」
青年は叫び、疲れた様にがっくりと肩を落とした。
葉月は平然とした顔でふんぞり返っている。
切れ長の灰青の瞳に、筋の通った鼻、薄い唇。
色素の薄い茶の髪は日の光を浴びて輝き、金色に光っている。
『黙っていれば良い男』と数多くの人から評されるその男は、つまらなさそうに部屋の中を見渡した。
「それで、今日は何の用なんです?」
青年が問うと、葉月はあぁ、と頷いた。
「仕事持って来たんだよ」
「葉月さんの持って来る仕事って……ロクな事が無いよーな」
「どーせお前暇だろ?」
「暇じゃないですよ。仕事がないだけで」
「暇なんじゃねーか」
「仕事がないだけですって」
「もういいっての」
葉月は右手を振って青年を黙らせる。
「ここらで働いとかねーと飢え死だろ? 俺は飯代も葬式代も出す気はねぇぞ」
そして意地悪そうな笑みを浮かべ、ゆっくりと言った。
「死ぬか生きるかだ。何でも屋、ヒノエ・クレーバー?」




