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SHADOW OF VIOLET  作者: 火瀬
2/8

first/everyday

 喧しい――少し古風なベルの音が、簡素な部屋に響いている。

 部屋には物が殆ど無く、僅かに有る物も乱雑に並べられていて、何処か閑散としている。

 その中での唯一の家具である――それでも十分に汚らしいソファの上で、青年が静かに眠っていた。

 歳は十代後半位だろうか、黒髪もぼさぼさのまま、僅かに頬笑みさえしながら幸せそうに目を閉じている。

 先程からけたたましく鳴り続けているベルの音にも、 微塵も起きる気配は無い。

 やがて電話のベルは止み、彼の眠りを妨げる物は何一つ無くなる――筈だった。


「起きんかくぉらー!!」

「うゎゎわわわっ!?」


 唐突に響き渡った怒声に、青年は慌てて身を起こす。

 その鼻先を壊れたドア――正確に言えば、『壊された』ドアが掠めた。


「……――っ!!」


 ドアは壁に当たり、轟音と共に砕け散る。

 青年は叫び出しそうになるのをぐっとこらえ、勢い良く入り口を振り向いた。


「来る度に扉壊すの止めて下さいよ、葉月さんっ!」


 ドアの無い入り口に立っている男――水城葉月<ミズシロハヅキ>は、呆れた様に言った。


「お前が起きないからだろーがっ! 何回電話したと思ってる?」

「何回したんです?」

「2回」

「少なっ!!」

「この前30回かけても起きなかったじゃねーか!」

「ワン切り30回で起きろって方が無茶ですよっ!」


 青年は叫び、疲れた様にがっくりと肩を落とした。

 葉月は平然とした顔でふんぞり返っている。

 切れ長の灰青の瞳に、筋の通った鼻、薄い唇。

 色素の薄い茶の髪は日の光を浴びて輝き、金色に光っている。

 『黙っていれば良い男』と数多くの人から評されるその男は、つまらなさそうに部屋の中を見渡した。


「それで、今日は何の用なんです?」


 青年が問うと、葉月はあぁ、と頷いた。


「仕事持って来たんだよ」

「葉月さんの持って来る仕事って……ロクな事が無いよーな」

「どーせお前暇だろ?」

「暇じゃないですよ。仕事がないだけで」

「暇なんじゃねーか」

「仕事がないだけですって」

「もういいっての」


 葉月は右手を振って青年を黙らせる。


「ここらで働いとかねーと飢え死だろ? 俺は飯代も葬式代も出す気はねぇぞ」


 そして意地悪そうな笑みを浮かべ、ゆっくりと言った。




「死ぬか生きるかだ。何でも屋、ヒノエ・クレーバー?」

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