2章 It is by suffering that human beings become angels.①
『ここが天界の掃き溜め、戦場カサブランカです。あ、私は少々探し物がありますので少々此処で、待っていて下さいネ。』
そんな事を言われて動揺しない子供がどこにいるのか。私は「はぁ?」という声を噛み殺しきれなかった。そして更に驚く事に、ピエロは私を此処に置いて探し物をするというのだ。信じられる筈もなく、抗議は何回も何回もしたが、聞き入られる事はなかった。無理矢理ついて行こうとしたが、気付けばいなかった。手を取る相手を間違えた…。どうしようもなくて、砂を蹴ることくらいしか出来なかった。
それにしても、さっき此処は天界とか掃き溜めとか治安の悪そうな言葉で紹介されたが、そこまで酷い様には見えなかった。むしろさっきの駅の方が治安は酷かったように感じる…人間的な意味で。勿論相対的に治安が良さそうと言うだけで、よく見ると焼き焦げている所や金属らしき欠片もある。一体何処に連れて来られたんだ私は。後ろを向けば殺されるんじゃないかという恐怖や明日への不安に見舞われた。
「うげ…生きて帰りたいな…」
そう言った途端、なんだか世界が少しだけ暗くなった気がした。
「悪い虫が、ついてるね。」
振り向くと、白いふわふわとした髪が目に映った。私の頭より全然高い位置に美しい顔があった。私の周りに蠅でもたかっていたのだろうか。握りつぶしたような手をしている。
「うぇっえ?」
「こんにちは!アナタはヒトね!アタシはテンシ。ねェ、お願いがあるの!」
「え、ええ…」
現れたのは、白髪ボブでスタイルがボンキュッボンでタイトな紺をベースとし、水色の蛍光色のラインが入ったスーツを着こなした女性だった。灰色とも白とも言えない、なんだか見てると吸い込まれそうな瞳を寄越している。しかし、そんなアニメや漫画の様な派手?な見た目より何より目に付くものがあった。
「ちょっと待って…待って。なんで浮いてるの?ってか頭に輪っかついてるし…どういう原理?いや確かに異世界だけど!貴方なによ、人間…にしては法則を無視しすぎてる!」
何よりの特徴はスーツのラインと同じ色をした天使の輪っかだろう。
「言ったじゃん!アタシはテンシ。人間じゃない…けど人間から…でも人間じゃない…なんて言うべき?」
「私に聴くな!いやテンプレのコントさせないでよ…」
「テンシはテンシ、人間に限りなく近いけどテンシ。自己紹介すんだから本題に移らせて!」
「こちとら貴方と違ってもっと丁寧に、慎重に、ゆっくり距離近づいてもらえなきゃいけない種族なんですけど…そんなコミュ力の差見せつけないでよ傷つくぢゃん…」
「ごめんあそばせ!さてと、じゃあ本題に…」
「私の話聞いてた!?」
この世界のヤツはボケなのか?ツッコミ不足?どうやって生きてきたんだよ…なんて心の中でまたツッコミをしつつ、やはり本題を聞くことになってしまった事に衝撃を受けている。ボケと強引さを兼ね備えるってなんだよ只の自己中じゃないの!
「まともで、私が出来る奴にしてね…」
「勿論!あのね、探し物をして欲しいの。」
「何を?」「テンシを。」
「…テンシも迷子になるとかそんなん?同種を探せって事?」
「まぁそんな感じ!」
「ええ…なんで私なの」
「ヒトだから」「ええ…」
理由になっていない。この世界において私の様なヒトはパシリなのだろうか。
「まぁ…うーん…いいよ…、白くて輪っかがついてて浮いてる奴探せばいいんでしょ…」
「うん、おねが〜い♡」
美人の願いは断れないとは当にこの事。可愛いなこの野郎。
ーーーーーー
「ただただだだっ広いな…障害物あるけど異世界すぎる」
口を開けるほど乾きそうだ。水はない。
「此処は引くくらい治安が悪いし、そもそも教育がそこまで行き届いてないの。魔素がなければとっくに破綻してた。」
ここは、岩はある。柱が刺さってる。それだけ。単調で、性能の低いコンピュータで出力した様な世界。人間や、髪、生物らしきものはない。
「気持ち悪い…何か出てきそう」
「生物はまともにいないね〜こんな所。」
「食べ物あるの?」
「アタシは魔素で十分。」
「凄いな…」
魔素が明らかチートアイテムすぎる。
「ひぇっなんか刺さってる…なんだあれ」
「剣とかの類いかな、敵兵のっぽい。」
「私死なない?大丈夫?」
「ほぼいないし、いるとしても満身創痍。アタシを狙う必要があっても多分アナタは殺せないかな。」
未だに戦場であるという実感が湧かない。
「草の一本も生えてない…目に悪い…」
「さっきも言ったけど生物なんか生息できる環境下じゃないからね。芽が出てもすぐに焼ける。」
「おうちに帰りたいな。」
「植物があるから?」
「分かんない。でも、要因の一つではあるよきっと。」
「おうち、おうちかぁ。帰れるなら帰りたいな。ないだろうけど」
戦争関連だから踏み込むのはやめる。好奇心より空気を読む事を優先したほうが良い。
「テンシは、テンシは…」
質問を考えたかったが、どれも地雷を踏みそうで踏み込めない。
「ミュオは、この場所をどう思った?」
「えっ…うーん、更地というか、荒地というか…そこら中に瓦礫があるから…変な感じ。」
「元々街だったの。今じゃ見る影もないけど。」
「人間は…移住したってこと?」
「んー…」
テンシが返事を渋る。嫌な予感がする。どうにかこうにか別の話題にできないか考えると、思いがけない音がなった。
【ダンッッ】銃声が響いた。後ろから、音がした。
「生きてたんだ。クズ」
撃たれたと思ったが五体満足で生きている。血が出た様子もない…その理由は分かっている。
「ごめん〜まさか生き残りがいると思わなくって…」
「テンシ、なんで、なんで…」
私は目の前が赤だらけな事を想像した。私が死んでるか、もしくはテンシが私を庇って傷だらけか。答えは、全くもって想像できなかった。銃弾があること以外、そして銃弾をテンシが指で掴んでいる以外、全くもって先程とはかわらない光景。
「ヒト、もといアナタを死なせない為!」
庇った理由としては満点だろう。しかし、生物として、傷が何一つとして付いていない事の理由としては零点だ。
「貴方本当に何…」
「へいきだよ」
「いや、見れば分かるから体調は聞いてないんだけど。」
「違う。兵器。」
この世には同音異義語が存在する。テンプレの聞き間違いをした。しかしそれ以上の衝撃が訪れている。
「え、」
「テンシNo.2。戦争の為に作られた、軍事用機械。それが、アタシ。」
「な、んで」「質問がよく分からないな〜」
「私をなんで、」
なんで、私を守ろうとするのだ。
「ああ!そう言う事!なら答えられるよ!」
テンシは一息ついて、私の頬に手を添えて笑顔でいう。
「アタシを、殺して。」
不気味な程美しくそう言う。私は、言っている意味が分からなかった。
「死ねないの、なんで、死にたいの、どうやって、」
「質問がいっぱいだ!いいよ、教えてあげる!アナタがアタシを殺したくなるように!」
この世界は、いったいなんなのだろう。




