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第1話:終幕の銃声、現代の夜明け

京の夕闇が、二条城のバルコニーを濃く染め上げていた。


俺の心の中には、完成したばかりの「明治政府」という巨大組織の、完璧な歯車が回る音が聞こえている。


だが、同時にその歯車が、本来あるべき歴史という名の堅牢な壁を、強引に削り取っている軋みも感じていた。


「やりすぎたか……」


俺――坂本龍馬は、懐から重たい鉄の塊を取り出した。


この時代には早すぎる「株式会社」という概念。


それを強引にねじ込み、日本を世界経済のフロントランナーへ押し上げた代償。この歪みは、いつか必ずこの国を破綻させるだろう。


俺という異物が、歴史のバグとして消える時が来たのだ。


こめかみに冷たい銃口を当てる。


引き金を引く指に、最後の力を込めた。


その瞬間――世界が真っ白な光に包まれる。


二条城の空気も、幕末の喧騒も、すべてが物理的に引き剥がされるような強烈な浮遊感。


「――ッ!!」


俺は激しく呼吸をして、目を覚ました。


視界に入ってきたのは、眩しすぎるほど白い天井と、一定のリズムで規則正しく動く心拍モニターの波形だった。


鼻に刺さる酸素チューブ、腕には無数の点滴。


そこは、俺が倒れる前まで見慣れていた、神保町の大学病院の集中治療室(ICU)だった。


「……夢、か」


かすれた声が漏れる。


全身を覆う倦怠感。


あれほどまでにリアルだった、算盤の弾く音や西郷たちの笑い声が、今は遠い幻聴のように感じられる。


「一ノ瀬さん!」


駆け寄ってきた医師が、俺の意識を確認するようにライトを当てる。


「死の淵でしたよ。過労とストレスによる心臓発作。三日間、あなたの意識は完全に途絶えていました。……随分とうわ言を言っていましたね。『株式会社』だの『株主総会』だの」


医師は苦笑いをしているが、俺の胸は激しく高鳴っていた。


夢にしてはあまりにも重い、銃声の衝撃と、引き金を引く瞬間のあの孤独な決意。


俺は震える手で、自分の胸元に触れる。そこには、拳銃の弾痕の代わりに、手術の縫い跡がかすかに残っているだけだった。


窓の外を見やる。


そこには、俺が夢の中で必死に作り上げようとした近代国家の、その完成形である現代の東京の摩天楼が輝いている。


夢の中で俺は歴史を書き換えた。


だが、その歴史を背負って生きるのは、この現代の俺だ。


俺は酸素マスクを外し、小さく笑った。


「……帳尻は、合わせたつもりだぜ」


夢の中で龍馬として生きた時間は、俺の魂に焼き付いている。


幕末の坂本龍馬としての「決算」は済んだ。


これからは、現代の一ノ瀬拓海として、夢の中で作り上げたこの「日本株式会社」という名の舞台を、さらに先へと進める番だ。


俺はゆっくりとベッドから身を起こす。


新しい維新は、この病室から始まる。



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