3-15話 …厄介だな〜
三日目の朝。
拠点は、いつも通りの朝を迎えていた。
ミクラ衆・鍬衆が粛々と動き、柵衆・大樹衆がそれぞれの任務に就く。一万二千体超の小鬼族が、でちでちと声を上げながら動き回っている。
傭兵団の九人は、拠点の一角に集まっていた。
武器は返さない。ただ、拘束もしていない。逃げようとすれば、ミクラがいる。それだけで、十分だった。
“赤毛のスキンヘッドマッチョ”ベルトルトは、朝から拠点の全体を静かに見渡していた。
防衛ラインの構造。湧水の流れ。棚田の配置。御座衆の動き方。
くまなく、じっくり見て、観察して、目で、脳で記録していた。
その時だった。
空気が、一瞬歪んだ。
ベルトルトが、反射的に立ち上がった。
「ベルさん!!」
茶髪眼鏡の男が、現れた。
真剣な表情で、息が切れている。
「生きてましたか、よかった……ってそんな場合じゃないっすね」
ガラナは、一瞬で状況を把握した。仲間は全員生きている。周囲の小鬼族。櫓にいるミクラ。
「……随分と、賑やかなことになってますね」
「ガラナ」
「全員、転送できるか」
「……十人ですか。きつい」
ガラナは、指を折りながら計算した。
「でも、まあ——やるっすわ」
俺は、櫓の上から、それを見ていた。
ガラナが現れた瞬間、鍬衆に「止めろ」と言おうとした。
しかし。
「殿」
ミクラが、静かに言った。
「ミクラ、どうする?」
俺は、一瞬だけ考えた。
拠点の情報は、すでにベルトルトの頭の中にある。三日間、ここにいたんだ。全部、見ていただろう。
ここで止めても——情報は止まらない。
「……このまま逃がすか」
俺は、言った。
「殿、よろしいのですか」
「止めても意味がないだろ。またいつか、ガラナってやつが来て回収される。これ以上、情報を持ってかれるよりマシだろ。」
ミクラは、一瞬だけ間を置いた。
「……御意」
「転送魔法…厄介だな〜…」
ガラナが、魔法を展開し始めた。
ミクラが動かないことに気づいて、ガラナは一瞬だけ俺を見た。
俺は、黙って頷いた。
ガラナは、少しだけ目を細めた。
「……あいつがねぇ」
それだけ言って、魔法を発動した。
十人が、光に包まれる。
消える直前、ベルトルトが俺を見た。
何も言わなかった。
ただ一度だけ、頷いた。
次の瞬間、傭兵団全員が、消えた。
拠点に、静寂が落ちた。
一万二千体超の小鬼族が、ざわざわとざわめいている。
「かみさま!!にげられたでち!!」
「おいかけるでち!!」
「待て」
俺は、言った。
「追わなくていい」
「「「でち……?」」」
小鬼族たちが、一斉に首をかしげた。
俺は、ガラナたちが消えた場所を見つめた。
「ミクラ」
「はい」
「次は、もっと大きな規模で来るよな」
「……おそらく」
「そうだよなあ〜〜〜」
俺は、拠点を見渡した。
六割の防衛ライン。整備途中の石垣。まだ手付かずの棚田。
「急ごう」
「御意」
ミクラが、静かに頭を下げた。
でちでちという声が、また拠点に満ちていく。
俺は、手袋をはめ直した。
やることは、たくさんある。
最後まで読んでいただきありがとうございました(^^)
各章の終わりに、登場人物のプロフィールを作ったので、見てみてください(*´ω`*)




