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3-7話 均衡魔法


「御座衆達よ」


 御座(みくら)の声は、いつも通り静かだった。

 戦闘の気配が満ちる中でも、揺れない。


「殿をお守りせよ。それが、お前たちへの至上命令だ」


 御座衆の小鬼族たちが、一斉に動き出した。


「神をお守りするでち!!」


「至上命令でち!!」


 俺は、御座衆の非戦闘員たちに、両脇を抱えられた。


「ちょ、待て、俺は——」


「神、ご移動をお願い申し上げますでち」


「でも御座が——」


「御座様のご命令でち」


 有無を言わさない力で、俺は引きずられた。


 向かった先は、拠点の奥——整備の中で真っ先に作られた、最終防衛地区だ。万が一の事態に備えた、一番守りの固い場所。


 引きずられながら、俺は振り返った。


 御座が、ベルトルトと向かい合っている。


 その背中が、遠ざかっていく。






 ベルトルトは、御座を見ながら、静かに口を開いた。



「均衡魔法、とは」



 淡々とした声だった。説明するように、しかし確信を持って。


「力を吸うわけではない。己の力量を上げるわけでもない」


 ベルトルトの周囲に、薄い光が広がり始めた。


「敵も味方も己自身も巻き込み、全て同じ強さに変える」


「どんなに強い魔法を所持していようと、それは均衡の元に、平等に切り分けられる」


 御座は、黙って聞いていた。


「つまり」


 ベルトルトの目が、細くなった。


「この場に敵はお前一人。我らは六。」


 一拍。


「全く同じ力同士がぶつかれば——数とリーチの差がある俺たちの方が上になる。すまんな、畳の化け物よ」


 均衡魔法が、展開された。


 御座は、その瞬間に感じた。

 力が、抜けていく感覚。


 自分の中にあったものが、薄まっていく。同時に、目の前の六人から、同じ圧を感じる


 (……なるほど)


 御座は、静かに思った。


 理屈は分かった。ならば——動くしかない。


 御座が、跳んだ。


 ぶわり、と浮き上がり、ベルトルトに向かって一直線に——。


 間に合わなかった。


 左右から、二人が同時に斬り込んできた。


 刃が、畳の縁に食い込む。


 剥がれた畳の繊維が、宙を舞った。


 (速い)


 御座(みくら)は、体勢を立て直す。口を大きく開き、噛みちぎろうと——。


「速いのではない。」

「同じなのだ」


 ベルトルトが、横に滑った。全く同じ速さで、全く同じタイミングで。


 交わされた。


 後ろから、また斬撃が来る。


 (同じ力。同じ速さ。ならば——)


 御座は、考えながら動いた。数の差を埋めるには、一体一体を素早く仕留めなければならない。まず一人——。


 前から二人。後ろから一人。左から一人。


 四方から、同時に斬り込まれた。


 ザ、ザ、ザ、ザ。


 畳の表面に、無数の刀傷が走った。



 (……そうか。確かに、そのようだだ)


 御座は、動きながら理解した。


 一体を狙えば、残りが囲む。逃げれば、追いつかれる。同じ力同士ならば、数が多い方が——常に有利だ。


 それでも、御座は動き続けた。


 跳ねる。噛む。押しつぶす。


 しかし、どの動作も、全く同じ速さで対処される。畳の縁が、また斬れた。また剥がれた。



 (殿は、安全な場所にいる)


 御座は、それだけを確かめた。


 刀傷が、増えていく。一つ、二つ、五つ、十。


 体の表面が、少しずつ、削られていく。


 (御座衆は、動いている)


 遠くから、小鬼族たちの声が聞こえる。神を守るために、必死に動いている声が。


 (ならば)


 御座は、一瞬だけ動きを止めた。


 五人が、一斉に迫ってくる。


 (我が果たすべきことは——殿が、安全でいること)


 (それだけで、十分だ)


 御座は、心の眼を閉じなかった。


 最後まで、拠点を、殿(アゲル)を——見ていた。


 刃が、走った。



「御座あああ!!!!!」



 殿(アゲル)の声が、拠点に響き渡った。

最後まで読んでいただきありがとうございました


本日はあと一話、18:30に投稿いたします。

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