3-1話 御座がそう言うなら、そうなんだろう
廃村に着いた翌朝。
俺が目を覚ますと、御座が静かに待っていた。
いつも通りの、落ち着いた気配。でも、どこか「話があります」という雰囲気が漂っている。
「……なんだ、御座」
「殿、一つご提案があります」
御座が、ゆっくりと話し始めた。
内容は、こうだ。
今、俺たちの集団はおよそ千三百体を超える。このまま烏合の衆として動かしていては、食糧も確保できなければ、拠点の整備もままならない。だから、四つの衆に分けて、それぞれに役割を持たせたい。
柵衆、鍬衆、大樹衆——それぞれ約四百体の小鬼族を配属し、狩猟と戦闘を担わせる。
御座衆は、ギコと増幅魔法の使い手三体を含む百六十体で編成。生産と内政に特化させる。瓦礫の撤去、草むしり、拠点の整備は御座衆の非戦闘員が担う。
「……なるほど」
俺は、話を聞きながら頷いた。
「御座、お前が考えたのか」
「はい。ただ、実行するかどうかは、殿のご判断に委ねます」
俺は、少し考えた。
少し、というか、ほとんど考えなかった。御座がそう言うなら、そうなんだろう。
「やってくれ」
「承知しました」
御座が、静かに動き出した。
御座の号令は、あっという間に伝わった。
ギコの笛——増幅魔法なしの通常バージョン——が鳴り響き、千三百体超が一か所に集まる。
御座が、静かに、しかし明確に指示を出していく。
柵の前に四百体が集まる。鍬の前に四百体が集まる。大樹の前に四百体が集まる。残りの百六十体が、御座の周りに集まる。
驚くほど、スムーズだった。
「かみさまのいいつけでち!!」
「ついていくでち!!」
「でちでちでち!!」
小鬼族は、よく分かっていないまま、嬉しそうに動いている。
それでも、形にはなっていた。
俺は、その光景を、少し離れたところから眺めていた。
「……お疲れ様でございます、神。」
御座衆の小鬼が一体、俺に向かって頭を下げた。
「俺、何もしてないんだが」
「神がいてくださるだけで、皆の士気が上がります。でち」
……そういうもんか。
あとなんかお前、流暢な喋り方だな、難しい言葉使って。大人じゃん。
柵が、四百体の小鬼族を前に、筋肉をバキバキに膨らませながら叫んでいる。
「柵衆よ!!我に続けぇぇぇ!!!」
「「「でちーーーー!!!!」」」
鍬は、蛇の腕をうねうねさせながら、軽やかに指示を出している。
「じゃあ鍬衆は川の方向から索敵っすね〜!いくっすよ〜!」
「「「でちーーー!!」」」
大樹は、蔦をぶわりと広げて、傲然と仁王立ちしていた。
「大樹衆よ!!我が率いる以上、天下無敵と知れ!!はっはっはっは!!」
「「「でちでちでち!!!!」」」
……大樹、意味のないことを言っている。でも、小鬼族はなぜか一番テンションが高い。
御座だけが、静かに、淡々と、全体を見渡していた。
その目が、ふと俺の方を向いた。
「殿」
「なんだ」
「今日から、ここが殿の城です」
俺は、崩れかけた石垣と、草に飲まれた棚田の跡を見渡した。
城、か。
「……城にするには、まだまだかかりそうだな」
「はい」
御座は、一拍置いてから言った。
「ですが、必ずなります」
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