幕間② グランガウズ アウトサイド
木の上で、三日が経った。
グランガウ傭兵団所属、末端傭兵のカルタは、太い枝にしがみついたまま、眼下を見下ろしていた。
小鬼族は、いなくなっていた。
あの笛の音が鳴り響いた後、千を超える小鬼族が一斉にどこかへ向かって消えていった。跡には、踏み荒らされた地面と、折れた草だけが残っている。
……降りていいのか、これ。
カルタは、恐る恐る枝から足を下ろした。地面に着地した瞬間、膝がガクガクと震えた。三日間、ほぼ動けていなかった。
「……生きてた」
誰に言うでもなく、呟いた。
―――魔雪崩だ。
あれは、魔雪崩だった。
物語でしか聞いたことない、空想の中での噺だと思っていた。
カルタは、震える足を無理やり動かして、グランへの道を歩き始めた。報告しなければならない。見たことを、全部。
グランガウ傭兵団の本拠地に戻ったカルタを出迎えたのは、ベルトルトの視線だった。
「遅かったな」
「す、すみません……色々あって……」
「…報告しろ」
カルタは、震える声で、見たことを全部話した。
千を超える小鬼族。笛の音。一斉にどこかへ消えていった大群行。そして、その先頭にいた、大木の魔物の頭上に持ち上げられた少年。
ベルトルトは、一言も口を挟まなかった。
話し終えると、しばらく沈黙があった。
「……方角は」
「北北東、だと思います。あの行列、ずっと北北東に向かってました」
ベルトルトは、地図を広げた。
グランから北北東。深い森が続く方角。地図には、何も記されていない。
「バルツさんに報告する」
ベルトルトが立ち上がった時、扉が勢いよく開いた。
「聞いたぞ〜!!カルタ、無事だったか!!」
バルツが、満面の笑みで入ってきた。
三十にしか見えない顔に、いつもの屈託のない笑顔。
でも、その目は笑っていない。
「千を超える小鬼族を引き連れた、少年……か」
バルツは、地図を覗き込んだ。
「グランから北北東の森。地図に何もない場所」
「はい」とベルトルトが答えた。
「ただ、行き先の特定まではできていません。あの規模の集団が動けば、痕跡は残っているかと」
「そうだな」
バルツは、腕を組んだ。
「ベルトルト」
「はい」
「少人数で、痕跡を追え。戦闘は避けろ。場所の特定だけでいい」
「……何名連れていきますか」
「お前の判断に任せる。ただ」
バルツは、地図から目を離し、ベルトルトを見た。
「無理はするな。ここでの無理、お前なら意味はわかるよな?」
「はい」
「お前の均衡魔法は、一対一になる程、有利になる。裏を返せば、カルタの言う“千を超える大群”が相手なら、数の利でお前は手も足も出ないだろう」
「……承知しました」
ベルトルトは、一礼して部屋を出た。
バルツは、地図を見つめたまま、静かに言った。
「厄災の村人。お前は本当に、ただの村人なのか…?」
窓の外、グランの街が夕暮れに染まっている。
「面白くなってきた」
この後、ツゲルの話を投稿します…!




