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「レティシア様、キレイに焼き上がりました」
ダイアナ様が瞳をキラキラさせてオーブンの扉を開けるとふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
「火傷しないように気をつけて下さいませ」
「私、こんなにキレイに焼けたのは初めてです!!」
私達は今、調理実習でカップケーキを焼いています。
ダイアナ様と一緒に作ったのはプレーン、チョコ、紅茶の三種類。
二人で味見をすると、どれもとっても美味しく焼けていた。
「私はチョコ味が一番好きです」
ダイアナ様がニコニコしながら美味しそうにカップケーキを食べる姿を見ながら私は残ったケーキを可愛くラッピングした。
「レティシア様は手先が器用なんですね」
私がラッピングしたケーキを見てダイアナ様が感心する。
今、ラッピングしたのはリオネル様へお渡ししようと思っていた物なので特別に丁寧にしたのは秘密です。
少し崩れた見た目の自分用は、そんなに丁寧に包んでいない。
授業が終わるとダイアナ様とお別れして私は真っ直ぐ中庭へ向かった。
いつもはリオネル様が教室まで迎えに来てくれるのだけど調理室へ寄ると遠回りになってしまうので今日は中庭で待ち合わせる事にした。
早くリオネル様に食べてもらいたくてウキウキしながら歩いていると何かに躓いた。
『倒れる』と思った時には私の身体はバランスを崩していて胸に抱えていたカップケーキを落とさないようにぎゅっと抱き締めて目を閉じた……けど、いつまでたっても衝撃は襲ってこない。
恐る恐る目を開けると白い光が私を包んでいてふわりと立たせてくれた。
この白い光は、リオネル様の魔力?
光が消えると私の足元に倒れている人が居た。
「え?」
もしかして私が躓いたのは、この人の足?
結構な強さで蹴ってしまった気がする。
「あの…」
声をかけてみるけど真っ青な顔をして意識が無い。
人を呼んで来た方が良いのかと思っていると微かに眉が動いた。
「大丈夫ですか?」
頬を優しく叩くとゆっくりと目を開いた。
「気分が悪いのですか?誰か呼んできましょうか?」
状況が掴めていないのか数回、瞬きをして辺りを見渡すと私に気づいた。
「すみません寝ていたようです」
「え?」
「最近、寝不足で……」
もしかしてお昼寝の邪魔をしてしまったのかしら?
まだ頭がボーッとしてるようでフラフラしている。
大丈夫かしら?と思っていると彼のお腹がクーっと可愛らしく鳴いた。
「ふふふ」
思わず笑ってしまうと彼が恥ずかしそうにお腹を押さえる姿がとても可愛くて私は自分用にと思っていたカップケーキを差し出した。
「良かったらどうぞ」
「……」
差し出したカップケーキを彼は見つめるだけで受け取ってくれない。
あ、
いきなり見ず知らずの女から食べ物を渡されても何が入っているか分からなくて怖いよね…。
「あの…調理実習で作ったので変な物は入ってないですよ?」
「あ、いえそんなつもりでは無くて…ありがとうございます。頂きます」
彼がカップケーキに手を伸ばすとリオネル様が、こちらに向かって来るのが見えた。
「連れが来ましたので失礼しますね」
カップケーキを渡すとリオネル様の元へ急いだ。
「レティシア?どうかした?」
私の後ろにいる彼に視線を送りながらリオネル様が顔を強ばらせた。
「何も無いですよ?ただ、あの方お疲れの様なので別の場所でお昼をしませんか?」
「それなら屋上庭園へ行こうか?」
「まぁそんな素敵な場所があるのですね」
リオネル様にエスコートされて中庭を出る時、少し気になって後ろを振り返ると彼と目が合ったけどすぐに逸らされてしまった。




