202話
「巨大なカエル?」
「はい、巨大なカエルです」
「カエルって、ゲコゲコ鳴くあの?」
「はい、ゲコゲコ鳴くあの、です」
オレとアヤノさん、それとイザベラ嬢の3人で依頼を終わらせて、ギルドに戻ると、平原の彼方にいた巨大な生物の正体が明らかになっていた。
現在、午後6時です。
思ったより配達の依頼が長くなってしまった。
原因はイザベラ嬢。
この娘、めちゃめちゃ方向音痴だ!
明らかに進むべき道とは、正反対の方向に行きたがるのだ。
「こっちですわ!」「違います」というやり取りを何度したことか。
自信があるだけ、たちが悪い。
道案内に向かない人でした。
良いところのお嬢さんだし、美少女だし、頭も悪くないんだけど、いろいろ残念なお方です。
端から見ていれば面白いんだけどさ──自分が関わらないで済むならね!
まぁ、イザベラ嬢については良しとしよう。
結果的に時間もこれくらいでちょうど良かったみたいだし。
冒険者ギルドの職員が荒ぶる冒険者たちをなだめながら、平原に現れた巨大生物について説明している。
それによると、平原を越えた先に湿地帯があり、そこに問題の巨大生物が住み着いたのだそう。
周囲の魔物の様子から、恐らく一月も経っていないとのこと。
この頃から、少しずつ何らかの報告があったのかな?
そして、誰もが気になっている巨大生物の正体なのだが……。
「カエル?」
「やった! 一儲け出来る!」
「バカな……もしかして、あのカエル、か……?」
「おお! オレ、好物なんだよな、カエル。運が良かったぜ!」
「おいおい……。マジか? くそっ!? どこか他の国に逃げるか……?」
…………。
何やらざわざわしているけど……?
なんなの、これ?
やたら悲喜交々な感じだなぁ。
……っていうか、カエル?
「カエルですって、ラムダさん?」
「んー、まぁ、あれだけ大きいのだから驚異と言うか、脅威なんだろうけど……。
周囲の反応がおかしいな?」
ふとイザベラ嬢の様子がおかしい。
顔面が蒼白だ!
なに、何があったの?
「カエル……カエル、怖い……」
なんか呟いていると思ったら、カエル怖い、と?
キライなのですか、カエル?
口から魂が出そうだけど。
とりあえず、イザベラ嬢を引っ張って隅のテーブルに連れていき座らせた。
〈アイテム〉からコップを出して、水を飲ませる。
落ち着いた?
「申し訳ありません、取り乱しましたわ」
「嫌いなものなら仕方ないかな?」
「いえ……嫌い、というよりは……」
イザベラ嬢はむにゃむにゃと口ごもる。
別に強がらなくても良いのに。
「まぁ、そんなに言ってやるな。
イザベラは以前にカエルに集られて、気絶したことがあるんだ」
「殿下!? どうしゅてそれを……? いえ、しょれよりもどうしてここにゅ?」
いきなりやって来るなり、イザベラ嬢の秘密をバラす王子様。
うん、落ち着こう、イザベラ嬢。
「ははは。公爵が前に笑いながら言っていたぞ」
「お父様……」
がっくりと項垂れるイザベラ嬢。
なんか可哀想なので、お茶を淹れてあげよう。ついでに、ドライフルーツもどうぞ。
「……ありがとうございます。いただきますわ」
イザベラ嬢はドライフルーツを摘まんで、もそもそ食べ始めた。
「ところで、殿下は何故ここに?」
「ああ。カエルが現れたからな。父──陛下の命令で俺が討伐の主導をすることになった。そのためにギルドと連携を取る必要があるからな。
その話し合い……と言うか、顔見せだな」
ふむ?
いろいろ疑問がありますよ。
「ああ。
お前たちはニホンジンだったから知らないのか」
そう言って、王子様は優雅にお茶を飲む。
うーん。
黙ってそうしていると、とても絵になるな。横にいるイザベラ嬢と相俟って、いかにも貴族らしい。
「この国は、10年から30年くらいの間隔で、カエルが現れるんだ。
建国から……10回以上はあるな。
2パターンあって、今回のような巨大なカエルが1匹出るか、あるいは、小さなカエルがたくさん出るか、だ」
…………。
えっと、真面目な話なんだよね、これ。
「前回は、小さなカエルが大量に現れて、大変な騒ぎになった。
イザベラ嬢が集られたのも、そのときのはずだ」
「その話は、今は関係ありませんわ!」
重ねて言うけど、これって真面目な話なんだよね?
どうも、そうは思えないんだけど……。
「ま、その気持ちもわからないではない。
実は苦手な人もいるが、あれは食べるとなかなか美味いんだ。
それもあって、カエルが出てくるとちょっとしたお祭りみたいになる。
と言っても、記録を読んだだけで、俺はまだ一度しか経験してないがな」
へぇ。
そういえば、日本でもカエルを食べる話は聞いたことがあるな。
見た目を気にしなければ、オレも食べてみたいな、じゅるり。
「小さいのは街中まで入り込んでくるが、子供が捕まえて小遣い稼ぎに出来る。
俺もイザベラ嬢もそうだった。懐かしい」
「……わたくしは、忘れたい記憶ですわ。忌まわしきカエルめ……!」
「ただ、問題は大きいカエルでな。
聞いたところによると、100m前後の大きさらしい。
以前はそれを、城の兵士と冒険者たちが寄って集って倒したそうだ。身体は大きいが、動きが鈍重だからそんなに苦戦しなかったとか」
はて?
イザベラ嬢の呪詛はさておいて、王子様の話で何かおかしなところがあったような……?
アヤノさんも同じだったようで、腕を組んで首を傾げていた。
「100m……?」
……っ!?
そうか!
100mはおかしい!
オレたちが見たのは──もっともっと巨大だったんだ!
100mどころか、その数倍はあったぞ!
体積を考えたら……?
「そうだ。
だから俺たちは、あのときあれを見ても、カエルのことは想像だにしなかった。
そして、あれをカエルと聞いて一度安堵したのだが……次に来た感情は、筆舌し難いものだったな」
オレたちは今、冒険者たちから離れた隅の方にいる。
彼らの喧騒を背にして、オレの周囲は沈黙が占めていたのだった。




