184話
ザシュ!
巨大虎と交差する。
その剣のような鋭利な角は、オレの首を斬りつけて行った。
赤い血が吹き出す。
あっぶねー!
剣先が骨にかすったよ!
カリッて感触があったよ!
もう少しで骨が断たれて、首と胴体がサヨナラするところだったよ!
マジでこえー……。
首が落ちたら死んじゃうよ……死ぬよね?
オレ、そこまで人間やめてないよね?
傷口を押さえる。
血が腕を伝ってポタポタ垂れるけど、すぐに収まった。
うん。
けっこう人間やめてた、オレ。
ズン、と軽い地響きがした。
巨大虎が倒れたようだ。
肉を切らせて骨を断つ、とやってみたけど、一歩間違えたら──いや、ほんの数ミリでもずれていたら、オレが殺られていただろう。
それくらいぎりぎりだった。
こんなことはやりたくなかったけど、あの虎に攻撃をするのに、あれくらいぎりぎりじゃないと無理だったんだ。
二足のオレが四足の獣に、素早さで敵わなかったわけで。
カウンターを当てようにも、至難の技だった。
もうこんなギャンブル紛いのことは、やりたくない。
もっとオレに技量があれば……少なくともアヤノさんやクライネ師匠なら、こんな無様なことにはならなかったろう。
反省……いや、猛省です。
……いや、反省より先に、そもそも、あの虎、本当に倒せたのか?
あの巨体だし、まだ生きている可能性はあるかも。
虎の様子を見ようと、オレは振り返る。
……。
「うそだろ……」
思わず、そう呟いてしまった。
目を疑わずにはいられない。
そこにあったのは──地面にばらまかれている大量の骨と、空中に浮かんでいる剣であった。
なんだ、これは!?
意味がわからない。
あの骨はなんだ?
虎のか?
それにしては、小さいし、量が多すぎる。それと、肉と皮はどこに行った?
あの剣はなんだ?
虎の額にあったヤツか?
何故、浮いている?
……?
カタカタと音が聞こえる。
なんだ?
……骨か!? 骨が小刻みに震えているのか?
骨だけのタップダンスなんて、悪趣味にもほどがある。
マジで何が起きている?
「っ!?」
カタカタカチカチと震えていた骨が一斉に浮かび上がった!
こわっ!?
なに、このポルターガイスト!?
その大量の骨は、剣の元に集まると、周囲を渦巻くように回転し始めた。
そして、剣が発光する。
骨は次々と光に吸い込まれ、消えていった。
全ての骨が吸い込まれると、光が消えていき──そこには、剣を手にした白いのっぺりとした人型の何かが立っていた。
オレにはそれが、マネキン人形のように見える。
しかし、あの不可思議な現象の後に現れたので、ただの人形ではないだろう。
そう考えていると、マネキン擬きは剣を構え、斬りかかってきた。
ギィン!
オレはその剣を受けるが……重い!
なんだこれ!?
慌てて身体を捌いて、マネキン擬きから離れる。
再びマネキン擬きは斬りかかるが、オレはそれを受け流す。
「くっ!?」
しかしマネキン擬きの剣は強くて、重い。
手が痺れる。
あまり何度も連続では受け流せない。痺れは【超回復】ですぐに治るけど、それでも僅かに時間がいるからだ。受け続けると、その時間が取れない。
剣を受けずに回避するか、こちらからも攻撃するか。
どちらもリスクがある。
回避するには、マネキン擬きの剣は鋭すぎるし、下手に攻撃すると、カウンターで殺られてしまう。
かといって、このままではジリ貧になる。
どうする?
キィン!
澄んだ音とともに、オレの剣が折られた。
もう考えている余裕はない。
オレは折れて短くなった剣をマネキン擬きに投げつける。
【投擲】と【必中】の効果で、狙った場所に直撃した。
そう、マネキン擬きの持つ剣に命中する。
僅かに出来た隙をついて、オレはマネキン擬きの腹を蹴る。
威力は気にしない。
蹴りの反動で、距離を離したかったのだ。
足を斬られたけど無視する。
そして、『ショートジャンプ』!
マネキン擬きから離れて、部屋の隅へと向かう。
オレを見失ったマネキン擬きは周囲を見回すが、すぐにオレを見付けた。
一直線に駆け寄り、剣で斬りかかる。
オレは慌てることなく、『ショートジャンプ』で反対側の部屋の隅に跳ぶ。
また同じようにオレを見付けて、こちらに駆け寄ってくるマネキン擬き。
しかしかなり距離が離れているため、いくら速かろうが数秒はかかる。
それだけの時間があれば──
「『ストーンバレット』」
ドゴッ!
高速で射出された石弾が、マネキン擬きの胴体に直撃、破砕した。
衝撃で手から離れた剣は、壁に突き刺さ──らずに方向転換して、オレの方に向かってきた!
「なんでやねん!」
思わず関西弁でツッコミが出てしまった。
急いで『ショートジャンプ』で、また同じように反対側の部屋の隅に跳躍した。
剣は鳥のように旋回して、オレの方に剣先を向けて飛んでくる。
マネキン擬きが二本の足で走るより、剣のみなのでかなり速い。
もう部屋の中央を過ぎる。
さっきのように、強力な魔法での迎撃は無理だ。
〈アイテム〉から杖を取り出し、構える。
同時に、魔法を発動。
「『エアハンマー』」
風の塊をぶつけて吹き飛ばす【風魔法】だ。そんなに強力ではないが、発動が早く使いやすい。
それでも、高速で飛翔する剣にとってその影響は大きい。それも、上から下に煽られてしまい、その勢いのまま、オレの少し手前の地面に深く突き刺さるのだった。




