170話
オレと軍曹先生の本気の模擬戦は終了した。
いや、本気とはいえ、あくまで模擬戦だったんだよ。
だって、本当にヤる気だったなら、遠距離から魔法をブッパするだけさ。
範囲魔法を撒き散らして、足止めに散弾をばら蒔いて、止めに全力の『ストーンバレット』だ。
倒せないなら、倒せるまでやるだけ。
それに、接近させられることなんてない。そうなる前に『ショートジャンプ』で、最適な距離まで離れれば良いのだから。
だから、これは模擬戦。
負けても、何も問題なしです。
ええ。悔しくなんてない。
……ないのです。
ちくしょう。
泥だらけのグラウンドを元に戻しているうちに、アヤノさんと軍曹先生の模擬戦が終了した。
早かったね。
最初は、アヤノさんの攻撃を軍曹先生が受け流していたが、徐々に先生も攻撃し始めた。
早い段階で、アヤノさんの実力に気付いたのだろう。
二人は打ち合いをし、最終的にはアヤノさんが蜻蛉の構えからの一撃で、軍曹先生の木刀を真っ二つにして終わった。
アヤノさんの猿叫に、他の生徒たちが驚いていたよ。
きっと、悲鳴だと思ったんだろうね。
そして、木刀で木刀を叩き斬ったことに気付いて、また驚いていた。
まぁ、当然だ。君らの気持ちはよくわかる。
オレも木剣とともに、腕の骨も折られたからね! HAHAHA!
あんなことが出来るのだから、本当に凄い。
なにより、それを人に向けて放てるその精神力が、日本にいてよく身に付いたもんだ。
皮肉でなく、本当に感心する。いや、マジで。
それだけ練習して、ちゃんとコントロール出来るようにした、ということなんだろうな。
オレがあの領域に至るまで、あとどれくらい必要だろうか?
どれだけ稽古を積み重ねれば良いのだろうか?
それを思い、目眩がしてくる。
今はまだ、その背中すら見えないけど、いつか追い付いて、追い越したい。
そう願う。
「どうだ、わかったか?」
軍曹先生が聞いてきたけれど……何がですか?
「魔力による身体強化だ」
……ああ! そうだった。
そもそも、それについてだった。
忘れてた。
「……自覚がないのか。
先程も言ったが、貴様らは既に出来ている。
それも、かなりの水準で、だ」
そう言われても……。
「さて……どうしたものか?
ふむ。
自分の魔力は感じ取れるな?」
「「はい」」
「では、腹の……へその辺りにそれを集中させろ。
その周囲が熱を持つはずだ。
わかるな?」
へその辺り……おぉ、暖かくなってきた。
「そうしたら、次に、その熱を動かす。少しずつ、上に……胸の方にずらしていけ。
それが出来たら、上下左右に動かしてみろ。
徐々に、胴体全体が熱くなるが、手足や頭部は冷えてくる。
それを維持しろ」
確かに、言われた通りになってきた。
貧血の前みたいだ。
倒れたりしないよね?
「よし。
始めの頃より、熱を大きく感じられるはずだ。
それを分散させて、冷たかった手足や頭部に熱を当てに行け」
おや。
ポカポカしてきた。
これは良い。
「全身が熱くなってきたと思うが、では、その全体の熱を意識しつつ、どこか一部……そうだな、頭部に集中させろ」
むぅ……。
全体の熱を保ったまま、それでいて、一部に集中。
これは、難しい。
「そのまま、掌、足裏にも熱を集中させろ。
頭はそのままだ!」
うぎゃー!?
それ、ムリじゃないか!?
「タカナシ、どうした?」
突然、アヤノさんが座り込んだ。
胡座を……いや、違う。これは、結跏趺坐?
「この方が、集中できます」
そうなのか?
瞑想……ということ?
オレも真似してみよう。
胡座だけど。
「確かに、出来ているようだ。
……では、再度へその辺りに熱を集めろ」
ふむ?
この瞑想スタイル、良いな……。集中しやすい。
頭、手足、腹がやたら熱い。
いや、その部分が特に熱いけど、それ以外も当然熱い。
……?
この感覚……覚えがある?
何だっけ?
そうだ。
身体が熱い、というよりは、その内側に流れる血が熱いんだ。
そして、『血』で思い出す。
初めてディーネ──精霊と契約したときだ。
魔力を含んだ泉の水を飲んで、それが熱を伴って全身を流れる血と混ざって、体内を循環していく。
ぐるぐるグルグルと。
……あぁ、そうか。
これが、魔力による身体強化か……。
なるほど。
気付いてなかっただけで、もう既に出来ていたんだ。
今ならわかる。
これまでは、最低限の魔力強化しかしていなかった。
それはそうだ。
だって、意識していなかったんだから。
でも、意識すれば、薄くて小さかった熱──魔力が体内を循環していって、大きく膨らんで身体全体を満たしていく。
うーん?
これじゃ、まだまだだなぁ。
大きく膨らんでしまってはダメだ。
もっとコンパクトに、もっと圧縮していかないと。
無駄なく、隙間なく、詰めていこう!
身体一つを満たすのではなく、細胞一つ一つを満たすのだ!
ふむ。
そうか。
このために、オレのムダに多い魔力と精神力を発揮させるのだ!
さらに、減ってもすぐに回復する。
遠慮することなく、全て──頭の先の髪の毛の先端から、足の指のつめの先まで──を注ぎ込め。
あぁ、そうだ。このまま世界に溶け込んでしまえ。
オレはディーネたちと同じように、精霊という魔力になるんだ──。
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