163話
今日の授業が終わったので、帰ることにする。
何気に設備が整っているようで、シャワーがあるらしいのだけど、やたら疲れたので、『清浄』の魔法で済ますことにした。
オレの中でこの魔法はとても役に立っていて、一番使用しているんじゃないか、と思っている。
風呂要らずなのだ。
まぁ、実際には、さらに出来るだけ毎日、風呂には入っているが。
やっぱり、たっぷりのお湯に浸かる、というのは、汚れている云々とは別にして、疲労回復には最高だと思う。
日本人には必須の行為なのですよ(異論は認める)。
それはさておき。
いろいろ雑事をこなしてから、アヤノさんと帰路に就く。
恥ずかしながら、学生時代に女の子と一緒に帰る、ということはほとんどなかったため、今の状況に若干緊張している。
社会人になってからは、同僚の女性と帰ることはよくあったから、こういう感情は学生特有のものなんだろうか?
不思議なことです。
学院からの帰り道。
夕陽に照らされ延びる影。
こういったシチュエーションが、さらに緊張感を増幅させているのかな、とか考えるオレは、横に連れて歩く男としては失格なんだろう。
まぁ、この歳になって、女の子と歩くだけでパニックになってはいられないけど。
そんなつまらないことを考えていたら、少し前をディーネと話しながら歩いていたアヤノさんが、振り返ってオレに話し掛けてきた。
「そういえば、ラムダさん?
最後のレオナルド殿下との模擬戦。どうして、真面目にやらなかったんですか?」
「んー? いや、怪我させたら、マズくない?
あの王子様、結構強かったし、アヤノさんみたいに無傷で圧倒とか出来なかったから」
「何を言ってるんですか!
怪我しなきゃ、強くなれませんよ!
殿下だって、そのくらいの覚悟はあるはずです。
逆に、手を抜かれてわざと負けられたら、侮辱されたと思っちゃいますよ!」
アヤノさんは真剣な顔でそう言うけれど、オレとしては、それよりも真面目にやることで、オレの能力を知られる方が、厄介だと思ったのだ。
それくらいなら、王子様には嫌われたり、軽蔑された方が良かった。
まぁ、将来的にはわからないけれど。
「それは……わからないでもないですけど。
あ、それなら、わたしも隠した方が良かったでしょうか?」
「いや、アヤノさんのは、刀を扱えることと、回復魔法が使えることだから、良いと思う。
ただ、魔法は、あれが【神聖魔法】だというのは、黙っていた方がよさそう……かな?
ジーク師匠と話していたときに、そういう魔法は聞いたことがなかったから、もしかしたら、特殊な魔法なのかもしれないし。
だとしたら、面倒事になる可能性はあるね」
「わかりました、気を付けます」
そうは言うけど、全く問題にならない、杞憂である可能性も当然あるわけで。
逆に、隠していたことで、トラブルになることもあるから、何が正解かなんてわからないのだ。
何でも話すことが出来るなんて、かなり難しいと思う。
長く連れ添った夫婦間でも、秘密の一個か二個はある。
それが取るに足らないこと、でもだ。
だからこそ、そういったことの出来る存在というのは、大切にしなければならない。
オレの場合、それは精霊たちだ。
何においても優先したいのだけど。
彼女たちは、どうしても目立ってしまう。
オレが目立てば、さらに相乗効果で目立つ。
それならオレは、目立つくらいだったら、誰かに嫌われた方がずっとマシである。
それで平穏に過ごせるならば、いくらでも軽蔑されようと思う。
……というか、本来なら、嫌われたりとかいうのも、避けるべきなのだが。
平凡を目指さなければならなかったんだけど……いきなり王子様と公爵令嬢に絡まれたのは、失敗だったね。
本当にフラグが立って、テンプレイベントが起こるなんて、思いもしなかった。
そういう意味では、見込みが甘かった。
反省している。
そんなことをつらつら考え、家に帰った。
ジーク師匠には住むところとして、離れを貸してもらっている。
いや、離れというか、一応同じ敷地内にはあるけど、結構距離はあるし、出入りする門も違うので、もうこれは別宅と言える。
尤も、広さは十二分にあるし、家具も揃っている。
少し掃除をすれば、すぐに住むことが出来たので、本当にジーク師匠には感謝したい。
またありがたいことに、本宅の方もいつでも利用しても構わない、と言われた。
何がありがたいかって、そちらの図書室には、かなりの量の蔵書があって、これから必死で勉強しなければならないオレとアヤノさんにとって、助けとなるからだ。
なんと司書の方もいるらしく、わからないことはいつでも聞いて良いそうなので、これから頼りにしたいと思う。
距離が離れているけど、転移が使えるので、全く問題にならない。
この機会にいろいろ学ぼう。
夕食を食べ終え、早速本宅の図書室に行こうとしたが、その前に、ジーク師匠に話があると言われ、師匠の部屋に連れて行かれた。
てっきり学院での報告かな、と思っていたのだけど、どうやら違うらしい。
「儂はお主の親ではないのじゃ。
いちいち話さんでも良い。
何か困ったら、そのときに話せ」
そういうことなら、ありがたく。
では、どういったご用件でしょう?
「うむ。
実は、王立魔法学院にはダンジョンがある。
お主たちには、そこに突破してもらいたい」
……は?
ダンジョンですと?




